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[連載:社カツ! paperboy&co. お産合宿] サービスを産む喜びを誰もが味わえる、日々の業務の良いスパイス

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エンジニアにとってのモノづくりが本能のようなものだとするなら、あらゆる制約から離れたモノづくりこそ、エンジニアの魅力を再確認する絶好の機会になるのではないか。この連載では、サークル活動などを通じ本業以外の開発を純粋に楽しんでいるエンジニアたちと、そんな彼らの「業務外の社内活動=社カツ」を支援する企業に取材を敢行。一般的な「ワークライフバランス」の枠には収まらない、エンジニア独自の幸せのあり方を探っていく。

日常の喧噪から離れ、リラックスした環境の中で開発に集中する……。これがWeb企業の多くが実践している開発合宿のイメージだろう。このイメージに「チーム戦」、「ジョブチェンジ」、「ダダ漏れ」が加わると、paperboy&co.(以下ペパボ)版の開発合宿になる。その名は『お産合宿』。2007年から毎年開催さている同社随一のクリエイティブイベントだ。

実は、現在ソーシャル界隈で話題の『ザ・インタビューズ』もこの『お産合宿5』(2011年)を機に誕生したもの。今回は、その『ザ・インタビューズ』の開発チーム「福ちゃんズ」のリーダーを務めたWebディレクター・蛭田悠介氏と、同社社長室室長で『お産合宿』の運営を手がける星隼人氏、広報担当・岡野佳世さんのお三方に、お産合宿にまつわる秘話やその効能などについて話を伺った。

――それにしても『お産合宿』ってユニークなネーミングですね。

広報担当・岡野さん

広報担当・岡野さん

岡野 2007年ごろIT企業の間でちょっとした「開発合宿ブーム」みたいなものがあって、「わたしたちもやれたらいいね」と話していたのが最初でした。それで実際に開発合宿をやることが決まり、事前ミーティングの段階になって「普段開発にかかわっていないメンバーも参加できるよう敷居を下げたい」とか「合宿中に完成させて即ユーザーさんにお披露目したい」なんていう要望を出し合っていたら、当時経営企画室にいたある女性スタッフが「それなら開発合宿っていうより『お産合宿』ですね」って。開発すること以上に「完成させることを目的とした合宿」なんだって意味も込めたかったので、彼女の言葉から『お産合宿』という名前になったんです。

――なるほど、そういう意味が込められたお名前だったんですね。

蛭田 あ、そういえば前回、リアル妊婦さんも参加されていましたね。

 そうそう。一昨年から去年にかけて社内で出産ラッシュがあり、11人ぐらい子どもが産まれたんです。そんな流れもあって、参加者の中に妊婦さんがいたんですよ。

岡野 そうでしたね(笑)。

――文字通り『お産合宿』になったわけですね(笑)。では実際の『お産合宿』はどんな形で運営されているんですか?

写真右:星氏、写真中央:蛭田氏

写真右:星氏  写真中央:蛭田氏

岡野 日常業務や所属、職種に関係なく「作りたいものを作る」というのが大原則なので、開発する内容は新しいWebサービスでも既存の業務改善にかかわるものでも構いません。ただ、普段開発していない人が一人で参加するのは難しいですから、ディレクター役と開発者役、デザイナー役でチームを組んで参加することが多いですね。合宿の10日くらい前に書類応募の締め切りがあって、社長室での選考、そして内容に問題がなければ1泊から2泊程度の合宿を迎えるという流れです。

 普段はデザイナーだけど合宿の時は開発するっていう人もいるよね。

岡野 そうですね。多職種のメンバーが職種を越えて参加するので、結果的に擬似的なジョブチェンジの場になることも多いんですよ。企画を担当している人が「意外と良いデザインするじゃん」っていうことがあったりして。

 そういえば何回目かの合宿のとき、カスタマーサービスのスタッフが、お産合宿ではディレクションを担当して、開発を当時の社長が担当する、っていう普段じゃあり得ないチームもあったな。

Ust中継を通してユーザーに芽生えるサービスへの親心

――ほかに運営上こだわっていることってあるんですか?

岡野 絶対に……。

 産む!

一同 爆笑

 やっぱり合宿中の完成にはこだわりたいんですよ。何といっても、合宿中はずっとUstでストリーミング中継してますから。ユーザーさんの前で「やっぱりできませんでした」は、さすがに格好悪いでしょう?

――でもなんでまたUstで生中継をしようと?

※

ユーザーさんに見らることを意識することで、『お産合宿』良い緊張感が生まれるのだという

岡野 「社内の仲間だけで合宿して、結果報告はブログで」っていうパターンが普通だと思うんですけど、『お産合宿』の場合はちょっと違うんですよ。IT企業がどうやってサービスを作っているのかって、ユーザーさんにはなかなか見えませんよね。だから、サービスづくりの過程を観ていただき、共有することで、わたしたちペパボとの距離が縮まってくれるんじゃないか、という意図もあるからなんです。単に「面白いから」という側面も、なくはないですけど。(笑)

 中継を観てくれたユーザーさんが合宿先まで差し入れを持ってきてくれたり、移動や開発の合間に寄せられる質問にみんなで答えたり、ラジオみたいなこともしてたよね。

蛭田 ありがたいですよねぇ。

 でも、作る側としたらユーザーさんの視線があるとサボれないっていう緊張感はあるでしょ?

蛭田 確かにそれはありますね。

岡野 Ust中継を通じてユーザーさんからの期待感をリアルに感じられるからこそ、モチベーションが高まるってことはあるでしょうね。ユーザーさんの中には、この世に産まれたばかりのサービスを使えることに喜びを感じてくださっている方も多いですから。

 これはボクが勝手に思っているんですけど、売れていないころから応援していたバンドがインディーズからメジャーにステップアップしていくとき、「わたしはインディーズのころから知ってた」って言える喜びってありますよね(笑)。まさにあの感覚をユーザーさんに感じてほしいんですよ。

岡野 「わたしはあのサービスが作られてるときから知ってた」みたいになれば大成功だと(笑)。

合宿直前に生まれた『ザ・インタビューズ』の種

――そんな5回の歴史の中で、最近”メジャー級”の大ヒットが産まれました。あの『ザ・インタビューズ』を開発したチームの代表を務めていたのが蛭田さんなんですよね。

蛭田 そうです。企画の核は「daiskip」先生こと福田さんのアイデアですけど。

――どういう経緯で開発に至ったんですか?

「社内でも、お産合宿のことばかり考えているメンバーは少なくない」という蛭田氏

「社内でも、お産合宿のことばかり考えているメンバーは少なくない」という蛭田氏

蛭田 まず入社直後に第4回に参加して、次も出たいと。1年間『お産合宿』のことばかり考えてたはずなんですけど、書類応募の締め切り前日になってもアイデアもメンバーもいない状態で(苦笑)。ヤバいなぁと思っていたとき、ふと振り返ると先輩の福田さんがタイムカードを押して帰ろうとしていたんですよ。それでとっさに声をかけて呼び止めました。そしたら「アイデアはあるの?」って聞かれたんで「明日までに考えてきますから」とだけ答えて参加を取りつけました。でも結局、翌日になってもアイデアは出ず……。締め切り当日に急きょ集めた別メンバー2、3人で考え込んでいたら、その日も先に帰っていた福田さんからSkypeでメッセージが来ました。「誰かにインタビューされるイイ感じのサイトは?」って。当然「それだー!」ってことになるじゃないですか。それで、僕が10分で企画書にまとめて提出。締め切り1時間前のことでしたね。

 まず出ることを前提に動く。『お産』ではありがちなパターンだね。(笑)

蛭田 確かにそうです。でもこの会社で一番面白いイベントですからね。出ないわけにはいかないでしょう!

――その割にずいぶんギリギリだったんですね(笑)

蛭田 書類審査までは確かにそうでした。でも1泊2日のうちに完成できるものではないのは分かっていたので、合宿までにはいろいろ詳細を詰めたり、事前準備をしておきました。開発以外の面でも、サービスを広げるための仕掛けとかずいぶん考えましたよ。実はサイト上にユーザー検索機能をつけなかったのも、その一つなんです。今はインタビューされる側が自分から周りに発信しないと、誰からも質問がこない仕様になってるんですが、そういうストレスを残しておいた方がユーザー自身が積極的に発信してくれるんじゃないか、と。今は検索機能をつけてほしいという要望が多いので、実装を検討しているところです。

 検索機能をつける時間がなかったからじゃないんだ?(笑)

蛭田 それも確かにちょっとはありましたけど。狙いは別にあったんです!

――今、『ザ・インタビューズ』はどのくらいのPVを獲得してるんですか?

蛭田 デイリーで900万くらいで、もうすぐ1000万PVの大台に乗りそうです。

 200万PVになった前日が100万PVだったりしたので、まさに倍々で伸びてきています。まさに『お産合宿』発のスマッシュヒットだよね。

蛭田 スマッシュじゃなくてメガヒットですよ!

岡野 自分で言いましたね。

一同 爆笑

――そんな大きな影響力をもつ可能性を秘めた『お産合宿』ですが、これを続けることで本業に影響を与えることってありますか?

 コミュニケーションが活性化されるのが大きいですね。『お産合宿』の時は事業や部署で固まらないですし、東京や福岡といった拠点間の壁もなくチームが組めますから。それと普段一緒に仕事をしない人の仕事ぶりもよく見えるので、新しいノウハウの共有にもなりますし。

岡野 そうですね。それと、ペパボには『お産合宿』とは別に『P1グランプリ』というプレゼン大会もあって、こちらはどちらかというとマネタイズまでを考えた企画を発表する場なんですが、結果的に『あの人と仕事がしたい』とか『一緒に合宿に出たい』みたいな反応が出てくることも少なくありません。この二つのイベントがコミュニケーションの活性化に果たしている役割は大きいでしょうね。

自作のサービスについて熱く語る星氏

自作のサービス『ODAY.CO』について熱く語る星氏

 そういえば、うちの正式サービスに『30days Album』っていうものがあるんですが、それなんかも『P1グランプリ』で賞を取って『お産合宿』で開発、その後ブラッシュアップして正式リリースされたものです。発案者は今も開発に携わっていますから、こうしたコミュニケーションからビジネス化されこともあるんですよ。

岡野 担当している業務の中で、常に新しいモノづくりに参加できるわけではありませんから。ペパボには『ロリポップ』『JUGEM』など、すでにたくさんのユーザーにご利用いただいているサービスがあって、こうしたサービスを安定的に維持するのも大切な仕事です。ただ、こうしたイベントを通じて新しいものを作る喜びを忘れずにいること、そして自分の部署に帰ったときに新しい視点で自分の仕事が見直せるようになるなど、効果はいろいろあると思います。

――今後はどんな形で運営されるおつもりですか?

 すでに全社員150名中、1/3ぐらいが参加経験のあるイベントですし、新卒や中途社員がペパボの雰囲気を体感できる貴重なイベントでもあります。これからも少しずつ趣向を変えながら継続していきたいですね。ただ、ナゼか毎年FUJI ROCK FESTIVALと開催日がかぶるっていう問題はあるので、まずはそこを何とかしないと(笑)。

――確かにそれは大問題(笑)! 次回以降『ザ・インタビューズ』を越えるメガヒットの誕生に期待しています。今日はどうもありがとうございました!

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影(インタビューカットのみ)/小禄卓也(編集部)