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「デザインは可能を芸術に昇華させること」元Quoraデザイナー・上杉周作が語るこれからのプロダクトデザイン【特集:New Order_05】

公開

 
Quora Product Designer
上杉周作氏

1988年生まれの24歳。小学校卒業と同時に渡米し、カーネギーメロン大学でコンピューターサイエンスを学ぶ。米Apple、米Facebookにて、エンジニアとしてインターンを経験した後、実名Q&Aサイトとして知られるSNS『Quora』のプロダクトデザイナーに。2011年7月に慶應義塾大学で行われた講演が好評を博し、一躍日本のIT業界で有名人となる。本記事の取材後、2012年3月に同社を退職した

―― スティーブ・ジョブズがテクノロジーやプロダクトデザインに与えた影響について、どのようにお考えですか?

そもそも技術には3つのステージがあるとわたしは思っています。最初のステージが「不可能」、次が「可能」。3つ目が「芸術」のステージです。

例えばタイポグラフィーの技術。600年前には、書物は貴族のような一部の人しか読むことができなかった。それが1445年ごろにヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を発明して、一般の人は書物が読めないという「不可能」を「可能」にしました。

そこから500年くらいかかって、タイポグラフィーは「可能」から「芸術」へと昇華していきます。1957年に、スイス人デザイナーのミーディンガーとホフマンがヘルベチカという活字を発表したときでした。

彼らが目指したのは、「世界で一番ニュートラルな書体を作る」というものでした。ニュートラルでどんな目的にも使えるため、ほとんどの用途でもうヘルベチカ以外のフォントを探す必要がなくなった。

いまやヘルベチカは、世界で最も使われているフォントと言われるまでになりました。iOSのデフォルトフォントになり、マイクロソフトやパナソニックなどの企業ロゴにも採用され、駅名標でもおなじみですよね。

ヘルベチカの普及こそ、ステージが「可能」から「芸術」に一段上がった瞬間だと思います。芸術は、それ以上変えるところがあまりないから、そのままの形で後世に残るものなのです。

プロダクトの変遷も、この「不可能」、「可能」、「芸術」の3つのステージにあてはめてとらえることができると思います。

最初は持ち歩けなかった音楽が、CDプレイヤーに入れて持ち歩けるようになり、それがiPodになった。最初は家にしかなかった電話が、携帯できるようになり、それがiPhoneになった。

iPodもiPhoneも、これ以上変えるところがあまりない。iPodはiPod Classicとなって後世に残るようになり、いつか今のiPhoneもiPhone Classicと呼ばれて残るのではないでしょうか。

だからジョブズも、古くから続く「不可能」、「可能」、「芸術」という流れからまったく外れていたわけではないという意味で、ジョブズは「可能」を「芸術」というステージに押し上げた偉人の一人に過ぎないというのがわたしの考えです。

Facebookは「タグ付け機能」によってSNSを芸術にした

―― これからのソフトウエアにおけるプロダクトデザインの「新ルール」とは、どのようなものだと思いますか?

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初めは写真から始まったFacebookのタグ付け機能。2011年には投稿した文章の中でもタグ付けを行えるようになった

「新ルール」というものはないと思っていて、ソフトウエアも同じように「不可能」、「可能」、「芸術」という道を辿るのだと考えています。ただ、ソフトウエアの中でも、Webサービス、特にソーシャル系サービスはまだこれからでしょう。

ソーシャル系サービスはたくさんの「不可能」を「可能」にしましたが、「芸術」の域に達しているサービスはまだそれほど多くありません。

個人的には、今芸術に一番近いのはFacebookかな、と思っています。Facebookでは写真に写っている友達にタグを付けることができます。メールとかチャットとか、90年代から2000年代にかけてWebを介したいろいろなつながり方が可能になりましたが、それをタグという形で表したのは、「可能」が「芸術」になった瞬間じゃないでしょうか。

なぜ芸術かというと、タグを付けるコストはメールより小さくとも、一つ一つのタグが持つ意味がメールよりも大きいからです。何度も同じ写真に写っている人たちは、物理的にも人間的にも距離が近いということだから。

Facebookのタグ機能は2005年に生まれましたが、今となっても基本コンセプトはそのままに、人とつながる中心的な機能として使われている。これ以上変えるところがあまりないので、これは芸術なんだと思います。

タグ機能は一部の例にしか過ぎませんが、まだまだたくさん、ソーシャル系サービスで、「可能」を「芸術」にまで高められるものがあるはずです。

目的達成のための決まりを作る。デザインとはその工程の全て

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ユーザー参加型のQ&Aプラットフォームである『Quora』。FacebookやTwitterといったソーシャルメディアとの優れた連携性が特徴

Quoraで仕事をした時も、コメント機能を「可能」から「芸術」に高めようとしたことがありました。Quoraでは、コメントに対し返信をすることができます。ひと昔前のCGI掲示板みたいですね。

コメントに対する返信は、すべて一度に表示されると読みにくいので、ボタンをクリックすれば表示する形にしています。最初はほかのサイトと同じように、そのボタンを「このコメントに対する5人の返信を見る」というボタンにしました。しかし、ユーザーに「もっとコメントしたい」と思わせるためには、改良の余地があると考えました。

試行錯誤を繰り返した結果、5人の中で最初に返信した人のコメントを抜粋して、「○○さんは『わたしは違うと思います』と言い、さらにほかに4人がコメントしました」という文字をボタンに入れたんです。

具体的な文章があれば、さらに読みたい、クリックしたいと思わせることができる。また、一番に返信すると抜粋が表示されるので、いち早く返信するモチベーションを高めることにもつながります。

「コメントの数を増やす」といったQuoraの目的を達成するために、ここはこういう文言にするとか、このボタンを左に置くとか、こちらを大きくしてあちらを小さくするとか、いろいろな決まりを何個も何個も作っていく。ゼロからそこにたどり着くまでの全工程が、デザインなんです。

最終的には人の目に映る平面に落とし込まれるんですが、デザインとは、見えている灯りだけでなく、灯りと自分との間も含めた3次元の部分。むしろその奥行きこそが、一番重要だと思っています。

これ以上足し引きする必要がなく、このままの形でずっと残っていくものが芸術だとすれば、そこには揺るぎない決まりがあるはず。その決まりを作る工程こそがデザインなんです。 まだ足し引きする余地があるのなら、芸術ではないのです。

実績のある優秀なデザイナーは、「これは芸術になった!」と経験的に分かるそうです。そういう芸術を作れるデザイナーは、これからもっと必要になります。

それは競争が激しいから。ユーザーの声を聞き、エンジニアにどんどん新しい機能を作らせて、不可能を可能にするだけでは、もう差別化できないからです。日本も、今はまだアメリカと同じラインに立ってはいないかもしれないけど、デザイン勝負になるのは時間の問題でしょう。

本気で勝負するなら、エンジニアとデザイナーは両立できない

―― 上杉さんのようなプロダクトデザイナーや、サービスを作るエンジニアが「可能」を「芸術」に高めるためには、どう考え、どう行動すれば良いのでしょうか?

可能を芸術に高めるには何が必要か。ジョブズに絡めるなら、ジョナサン・アイブがジョブズの追悼イベントで行ったスピーチにヒントがあるような気がします。

彼はこう言いました。「ジョブズがやったことは、美しさ、純粋さ、絶対に妥協しないことの勝利だ」と。

このセリフの中にあった、”giving a damn”–絶対に妥協しない、という言葉が、今でも特に印象に残っています。

デザイナーとしてQuoraに入って、わたしが一番学んだのも”giving a damn”でした。最初に言われたのは、「エンジニアであることを捨てろ」。「自分はエンジニアだから」という言い訳をせず、責任を持って、アイデンティティを賭けたデザインを追求していけということです。

そういう自分に対する厳しさが、可能を芸術に高めるために必要なのかと思います。わたしは元エンジニアだったのですが、わたしの知るエンジニアの多くの方には、そういう「絶対に妥協しない」ストイックさが備わっていると思います。

例えばサービスのAPIを設計する時など、利用者が使いやすいAPIにするにはとても深く考える必要があります。ドキュメントを読まなくても使えるAPIを作るために、妥協は許されません。FacebookはグラフAPIという形で、開発者は「頂点と辺」だけでAPIの概要を理解できるようになりましたが、そこに達するまで何度もAPIの改変が行われました。

この姿勢は、デザインでもとても重要です。ユーザーが説明書を読まないで使えるUIを作るのにも、また妥協は許されないのです。InstagramのUIも、ユーザーは「写真を撮ってフィルターをかける」ことだけを学べばいいわけです。APIの設計と、UIの設計は、経験上とても似ています。グラフィックデザインやタイポグラフィーも、その延長線上にあります。

 

だからわたしは、技術をよく知っていて、妥協しないエンジニア出身者が本気でデザインに向かえば、芸術を作れる素晴らしいデザイナーになると思っています。

取材・文/瀬戸友子 写真/本人提供

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