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[特集:スマートグリッドエンジニアって何?②] グーグル元会長が保証! SEがエネルギー産業で働くための「必須技術ベスト5」

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株式会社村上憲郎事務所 代表取締役
村上憲郎氏
日立電子にSEとして新卒入社後、Digital Equipment Corporation Japan、Northern Telecom Japan、Nortel Networks Japan、Docent Japanを経て、2003年、Google Inc. 副社長兼 Google Japan 代表取締役社長に。2009年、同社名誉会長に就任。2011年1月1日付けで退任し、現職

 

3.11以降、電力不足に悩んでいる日本。果たして熱い夏を乗り切ることができるのか。以前から「日本にもスマートグリッドを」と提唱してきたのが、グーグル日本法人の元名誉会長、村上憲郎氏だ。日本のインフラを支える企業などと協力して、電力不足対処の方法を探っている。その村上氏がインタビュー冒頭で切り出した言葉はこうだった。

「今足りないのはキロワット(kW)で、キロワットアワー(kWh)ではない」

ここでいうキロワットとは、瞬間の”電力”のこと。一方、キロワットアワーは”電力量”のことを示す。例えば、東京電力の過去最大のピーク電力は6430万キロワット。2001年7月24日に記録した一瞬の”電力”の値である。このようなピーク電力に対応するために、東京電力は多くの発電所を作って、何とか需要に応えてきた。しかし、2011年の夏は難しい。需要側がピークカット、ピークシフトを実施して、瞬間需要電力を東京電力が供給できる枠内に抑えることが必須になる。

「東京電力は、これまで約6000万キロワットの電力を供給していたが、3.11直後はいったん4000万キロワットを切り、その後5月中旬には5500万キロワットまで発電できるようになりました。真夏の電力不足が言われていますが、問題は8月第1週の数日間、午後1時から4時までの間に発生する瞬間的なピーク電力。それに対して需要側はピークカット、ピークシフトで対応しなければならない。一日の電力需要の推移を0時から24時までのグラフにすると12時過ぎが頂点になる山の形になります。それをピークシフトによって山の形からなるべく”長方形”にするのが、今後のスマート節電プロジェクトの骨子です」

瞬間の電力が足りないのなら、これまでの電力消費の仕方を変えればいい。ピーク電力の時間帯にしていた仕事を夜間に回すなどして、電力消費パターンを平坦にする。使いたいときに使うのではなく、需要のコントロールを開始するわけだ。村上氏は、そのコントロール方法を提案する。

タイムリミットは2015年。全世帯にスマートメーター導入なるか?

「発電についても考えるべきだが、実はデマンドサイドマネジメントの方も大事。最初にすべきことは、各家庭にある電力計をインターネットに接続したスマートメーターに付け替えること。通信機能を搭載するスマートメーターは、数分きざみに電力使用量をチェックできるので、さまざまな料金体系を設定できます。新たな料金体系によってピークカットやピークシフトに協力(デマンドレスポンスと呼ぶ)したユーザーに見返り(ネガワット買い上げ)があるようにすれば、“スマート節電”を実現できるでしょう。そのために今、インフラ系の企業などと協力しながら、スマートメーターを普及させるスマート節電プロジェクトに取り組んでいるわけです」

日本企業の多くは、すでに積極的な省エネに取り組んでおり、今以上の節電は難しい。勤務時間のシフトで対処するといった方策が残されているぐらいだ。節電効果がもっとも高いのは一般家庭。消費電力全体の3割以上を一般家庭が占めており、その消費は増え続けている。早急にスマートメーターを一般家庭に設置したいところだが、すぐには実現できないようだ。

「残念ながら今年、2011年の夏は、スマートメーターを配布できません。総量規制15%という政府の方針に従って、各自の努力に頼ることで夏を乗り切るしかないでしょう。2012年の夏は、スマートメーターをできる限り配布して”スマート節電”を実証すべきです。政府のエネルギー基本計画では、2020年代の早い時期に全世帯にスマートメーターを導入しようとしていましたが、この危機に対処するためには大幅な前倒しを実現すべきです。わたしは、遅くとも2015年までにすべてのユーザーにスマートメーターを配布すべきだと考えています」

「電力取引システム」が、業務系SEをエネルギー産業に巻き込む

スマートメーターが家庭などに導入されると、電気をめぐる環境は大きく変わる。電力ネットワークがインテリジェント化されることによって、スマートグリッドへの入口が開かれるからだ。スマートグリッド革命の始まりである。

「スマートメーターが導入されれば、白物家電やテレビの電気使用量などをパソコンで見ることができるようになりますし、ケースによっては、その状態を電力会社が把握して節電コントロール(デマンドコントロール)するような仕組みも作れます。これまで電力の世界では「発電→消費」という一方向でしたが、スマートメーターの導入によって双方向になる。そのことが重要なのです。スマートメーターは、家庭と電力ネットワークをつなぐターミナルアダプタのようなもの。ある外国メーカーのスマートメーターは、ツィッターのアカウントを持っています」

将来、スマートメーターが「テレビゲームをやりすぎです。電力を節約するためにテレビゲームの電源をオフにします」とツィートする日が来るかもしれない。

このように電力計がインテリジェント化されてスマートメーターになれば、家がインテリジェント化してスマートハウスになる。スマートハウスには、風力発電や太陽光発電などの小規模発電施設、スマートメーター、スマートアプライアンス※5、電気自動車など設置されてHANで繋がていることが想定される。そのようなスマートハウスが増えれば、地域のスマートグリッドであるコミュニティグリッド※6が構築されてスマートコミュニティが生まれる。

「コミュニティグリッドというインフラができれば、電力が余っている家が足りない家に電力を供給する地産地消の仕組みができます。神奈川県の黒岩祐治知事は、2年間で200万世帯に太陽光パネルを導入すると宣言しましたが、それをコミュニティグリッドで繋げばスマートコミュニティ※7への動きがますます具体化します」

スマートコミュニティが成長して、その中で発電が活発に行われるようになると個人、自治体、民間企業など小規模発電事業者が多数生まれることになる。そのことで電力市場が変化するのだろうか。

「再生可能エネルギーで発電された電力は、しばらくは全量買取制度※8によって購入されますが、それは一時の振興策であり、長くは続かないでしょう。いずれにしても公正な市場競争が行われなければならない。電力自由化の流れで電力卸売市場が生まれましたが、まだ充分な機能を果たしていません。今後の政策にもよりますが、スマートグリッドにより小規模発電事業者が参加できる電力のマーケットプレイスが生まれるでしょう。そこで行われるのは本格的な電力自由化のもとでの電力取引。現在の証券取引市場のような電力取引市場が生まれることを期待したい。そのとき、スマートグリッド上での電力取引システムの構築が必要になりますから、SIerで働く業務系SEに仕事が任されるでしょう」

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SGエンジニアになるため、必要な5つの技術分野

スマートグリッドによるスマートコミュニティが実現すると、エンジニアの仕事はどのように変わり、どのような仕事が生まれるのだろうか。

「スマートグリッドによって、インターネットの世界が家電品(スマートアプライアンス)にまで広がります。すべての電気機器が”スマグリ端末”になるわけですから、あらゆる場所がエンジニアの活躍の場になる。ですから、スマートグリッドに関わる人に共通するスキルは、インターネット技術WAN、LAN、HAN(ホームエリアネットワーク)、WiFi、ZigBeeなどネットワークに関するスキルは特に重要です。スマートメーターなど通信機能を搭載した電力関係の専用機器への需要は急増します。スマートアプライアンス分野では制御、組み込み、通信など多くのスキルが要求されます。ハード関連以外では、電力取引市場や消費電力管理など新たなサービスも生まれます。それをクラウドの上でのウェブアプリケーションとして構築する人も必要になります。実際のところ、スキルセットを今までの枠組みで考えなくてもよいでしょう」

すべての電気機器がインターネットのネットワークに含まれれば、ITエンジニアの活躍の場は爆発的に拡大する。ITエンジニアという枠組みではなく、スマートグリッドエンジニア(SGエンジニア)という新種が生まれるかもしれない。ここでSGエンジニアに必要となるだろうスキルについて列記してみよう。

①再生可能エネルギーの知識(太陽光発電、風力発電、地熱発電など)
②電気工学関連の知識(発電機、変圧器、インバータ、蓄電池、電気回路)
③WAN、LAN、HANなどネットワーク技術
④スマートアプライアンスなどの電気・制御・通信技術
⑤電力取引市場、消費電力管理ソフトなどのWebアプリケーション技術

ITエンジニアは、スマートコミュニティを構築する仕事をしながら、これらのスキルを組み合わせて独自のスキルセットを持ったSGエンジニアに進化していくだろう。

「まだ、どこの国もスマートコミュニティのような社会を実現していません。どこよりも先にスマートコミュニティを構築するスキームを確立できれば、それを世界で展開していくことができます。そうなればスマートグリッド・システムという新たな製品を日本の戦略輸出品にすればいいわけです。国ごと、地域ごとに適したスマートグリッドの形がありますから、エンジニアの活躍の場はいくらでもある。そのとき必須の基本スキルは、もちろん英語になるでしょう」

 

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