エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

[連載:ひがやすを③] SI業界に多い「リーマンプログラマー」から一歩抜け出す2つの習慣

公開

 
OSSの先駆者・ひが やすをのSE進化論
先読み(1)ひが氏_100px.jpg

株式会社電通国際情報サービス  シニアITプロフェッショナル
比嘉康雄(ひが やすを)

国産OSS『Seasar』シリーズの開発などを主導してきた、SI業界を代表するアルファギークの一人。電通国際情報サービスに勤めるかたわら、さまざまな技術カンファレンス、コミュニティーに招かれて講演活動も行っている。個人ブログ『ひがやすをblog』で、SI業界や各種エンジニアへの提言も行っている

前回の連載で書いたとおり、わたしは最近まで「見せブラ」の研究をしていました。といっても、自分が着るためじゃないですよ。タネ明かしをすれば、今、会社の新規ビジネスとして、女性向けのファッション・オートコーディネートアプリの開発を手掛けているんです。

ひが氏記事(6).jpg

From vsmoothe

煩雑になりがちな女性のクローゼットをアプリで管理するという発想はなかなか面白いものの……

一言で内容を説明するなら、これは手持ちの服やアイテムの中から日々の着まわしを自動で選んでくれるアプリ。うちの会社(ISID)では、これまでやって来なかったような新規ビジネスを立ち上げるのを社を挙げての目標にしていて、その中の一つの企画です。

日々忙しい「働くママ」や「ワーキングウーマン」が、毎日の着まわしを悩まず決められるアプリを作ろうと、女性社員たちが中心となってプロジェクトを立ち上げました。

ただ、女性向けのオンラインクローゼットアプリとしては、『プーペガール』や『My Closet』などが、すでにサービスインしています。うちのサービスの新しいところは、毎日のコーディネートを自動で提案してくれるところ。しかも、この提案は、決まりきったパターンのものではなく、学習効果が働いて、使えば使うほど、その人にあったコーディネートを提案してくれるんです。

面白そうでしょ。そんなわけで、女性のファッションライフという未知の世界を研究することになったんです。

最初、わたしは、このサービスは自動でコーディネートをしてくれるオンラインクローゼットアプリだと思っていました。事実その通りなんですが、何度かプロジェクト内で議論を重ねていくうちに、実はそれだけじゃないことに気が付きました。このアプリの面白さは、好きなブランドを通じてコニュニケーションを楽しむことにあるんじゃないかと。

受託開発ばかりの毎日では、「良いアイデア」も生まれない

なぜそう思ったかというと、女性は基本、自分の好きなブランドで今何が流行っているのか、好きなブランドをどうコーディネートしているかということに興味が強く、好きでもないブランドについてはあまり興味を持っていないんだなと、話し合いを通じて分かってきたからです。

好きなブランドの服やコーディネートに関しては、素敵なものがあれば「素敵!」とコメントしたいし、多くの人に素敵だと思われているものはなんだろうと気になるのが女心。ただし、好きなブランドに限るというわけです。

女性はファッション全体に興味を持っていると思っていたので、正直意外でした。ただし、これは女性一般に言える話ではなく、時間に限りがある働く女性の特性なのかもしれません。企画チームの女性は、全員、うちの会社で働いているママたちなので。

開発途中なので最終的にどんなアプリになるかはまだ分かりませんが、こうした気付きを活かして、例えば「ブランドごとのホットエントリー機能」なんかを搭載しようと思っています。ブランドごとに素敵と思われている服やコーディネートが見れる感じですね。

また、好きなブランドに関する新しい投稿があったら自動的にお知らせする新着チェック機能なども搭載を検討しています。『はてなブックマーク』の人気エントリーやFacebookのニュースフィードを見るような感覚で楽しめれば、ファッションブランドを通じた新しいコミュニケーションの輪が生まれるんじゃないかと思っています。

ひが氏画像(7).jpg

From AFlickion

開発とは無縁に思える分野についても「面白い」と思える感性があるか否かが大事だとひが氏は言う

今では、女性のファッションについて、超興味持ってますよ。『JJ』、『non-no』、『InRed』とか買ってますし。『non-no』を買っているのは、佐々木希が出ているからですけど(笑)。

わたしの経験上、こういったいろんなアイデアは、自分自身が本気で面白いと思えないと出てきません。単に仕事だからだと思って考えるだけじゃダメだと思う。前回の連載でも、プログラマーやSEが開発とサービス企画の両方をこなすことの大事さを説明しましたが、受託開発ばかりを続けていても新しいアイデアなんて浮かんでこない(言い過ぎですが)。だって、受託開発は、本気で面白いとは思えないもの。

限りある人生、本気で面白いと思えるものに費やしたいとは思いませんか?

会社で習ったことしかできないエンジニア、いわゆるサラリーマンプログラマーは、SI業界にはたくさんいます。が、そんなことだとサービスを思いつけないだけでなく、大したものも作れないどうしようもないエンジニアになってしまいます。

今回、このオートコーディネートアプリの開発はAppEngineSlim3で行っているのですが、AppEngineは2009年くらいから独学でいじりながら覚えたし、Slim3は僕が自作したプラットフォームです。このゴールデンウィーク中も、ずっとCSS3アニメーションの研究をしていました。

興味があったらまず使ってみる、思い付いたら自分で作ってみるという経験がないと、「こんなサービスが面白いんじゃないか」という勘も働きませんからね。

エンジニアがサービス企画まで行う意義は、まさにこの点にあるのです。

過去の「面白い!」を分析する習慣がサービス企画力を鍛える

ちなみに、経験の大切さについて補足すると、わたしは1年前くらいから「何か新しいことをやろう」、「革新的なサービスを作ろう」と思って企画をやってきましたが、全然良いアイデアが思い付きませんでした。最近たどり着いた結論は、「無理にアイデアをひねり出そうとしても良いものが出てこない」ということ。

大事なのは、自分がいろんなサービスをやりながら「面白い」と思った経験を、「なぜそう思ったのか?」と自問しながら体系化していくことです。その積み重ねが、新しいアイデアを生み出すベースになります。 今回のアプリ開発で言えば、わたしの「思いつき」は、『はてなブックマーク』やFacebookなどの既存サービスを「面白い!」と感じて使い倒した経験から湧いてきたのだと考えています。

長年書いてきたわたしのブログも、実は2006年くらいから、文章の書き方やタイトルの付け方を変えています。その理由は、小飼弾さんのブログ『404 Blog Not Found』などの人気ブログを読んで、わたし自身が「面白いな、これ。自分もできるようになりたい」と感じたから。

ひが氏画像(8).JPG

はてブの人気エントリー記事など人気のものから発想を拝借し、自分なりに膨らませていくのも一つの手だ

何で面白いんだろうと考えて、小飼さんのブログや、はてブで上位にランクしているブログエントリーから学んでやろうと考え、あれこれ分析した結果を自分の文章に反映していきました。すると、目に見えて読んでくれる人、ブックマークしてくれる人の数が増えていったんです。

日々の仕事とは直接関係のないものに、どれだけ強い好奇心を持つことができるか。そういうものを面白いと感じて、どれだけ楽しめるか。こういった感覚が大事なんじゃないかとわたしは思っています。

心を動かされた経験をたくさん持っていて、それを折に触れて「何で面白かったんだろう」と分析する習慣を持っている人は、その分析結果を「作る立場」になった時に思い出して反映させることができる。つまり、知らず知らずに「思い付く力」を磨いていることになるのだと思います。

自分ならこうする、こうしたらもっと面白くなる、と考える習慣。そして、思い付いたら自分で作ってしまう習慣。この2つの習慣を身に付ければ、きっとサラリーマンプログラマーから脱却できるでしょう。

撮影/小林 正(人物のみ)