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[コラム] 山下博巨&鶴田浩之 Techな若手起業家が明かす「一点突破」のヒットサービス開発

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(写真左から)米倉誠一郎氏、Labit代表の鶴田浩之氏、オンザボード・最高情報責任者の山下博巨氏

(写真左から)米倉誠一郎氏、Labit代表の鶴田浩之氏、オンザボード・最高情報責任者の山下博巨氏

「見てください、この2人。金髪と、どこにでもいる青年。でも、こんな2人が、3.11後の日本を明るくする、すごいWebサービスを作った。そこに『いいね』を連発してあげたいのです」

東京・六本木ヒルズ内にあるセミナー会場で、壇上にいる2人をこう評したのは、アカデミーヒルズが主催する『日本元気塾』塾長の米倉誠一郎氏。壇上の2人とは、ITベンチャー・オンザボードの創業メンバーである山下博巨氏(@xicholo)と、学生起業家(※現在は休学中)として有名なLabit代表の鶴田浩之氏(@mocchicc)だ。

10月17日に行われたトークセッションのテーマは、「アイデアを形にする一点突破のプロフェッショナル」。山下氏はCtoCによる支援物資供給サイト『Toksy』を、鶴田氏は書籍化もされた『prayforjapan.jp』を震災直後に立ち上げ、復興支援に貢献してきた。

そんな両氏が、どんな発想で日々Webサービス開発に臨んでいるのか。パネルディスカッションでは、そこを中心にトークが進んでいった。

『Toksy』の開発秘話や、『prayforjapan.jp』誕生の経緯については過去記事(リンク参照)に譲るとして、3人の話が盛り上がったのは「21世紀のオタク論」について。米倉氏いわく、「これからの世の中を変えていくのは、技術力とアイデアを併せ持ったオタクだ」、「ITの世界はいまだにシリコンバレーが世界トップだけれど、『アジア制覇』という視点ならば日本のオタクたちにもチャンスがある」という。

そこで山下氏、鶴田氏の若手起業家たちに米倉氏が投げかけた問いは、「スピーディーにサービスを形にできる秘けつは何か」ということだった。

「作り手の都合」より「ユーザーの使い勝手」がすべて

ネットをベースにした開発情報のオープン化と、クラウドなどの普及によるインフラ利用の低コスト化で、今ではやる気さえあれば誰もがWebサービスを作ることができる。だが、そんな時代になっても、多くの人に使われるサービスを短期間で開発できる「オタク」はごくわずかしかいない。

『Toksy』では約8000人の登録者が個人間で支援物資のやり取りをし、『prayforjapan.jp』ともなると約700万人のアクセスがあったというから(共に2011年10月時点)、2人はその「ごくわずか」なクリエイターと呼べる。

震災後も、山下氏は漫画の蔵書管理&SNS『Comicab(コミキャブ)』を、鶴田氏の会社Labitは大学生向けの時間割共有サービス『すごい時間割』を開発して好評を呼んでいるが、そのクリエイティブ力の根本にあるものはそれぞれ異なる。

『Toksy』しかり『Comicab』しかり、「開発からリリースするまでが短期間なのが自慢」と述べる山下氏

Toksy』しかり『Comicab』しかり、「開発からリリースするまでが短期間なのが自慢」と述べる山下氏

「僕がこだわっているのは、これまでオン・オフ問わず数多くのサービスを開発しながら身に付けた技術力を使って、いかに短期間でユーザーオリエンテッドなソーシャルサービスを作るかということ」と話すのは山下氏。『Toksy』も、開発そのものは2週間くらいで行ったというが、ローンチ当初からガラケー対応や個人情報の漏えい対策まで完ぺきに行った。

すべて、PCが使えないかもしれないという被災地の状況や、CtoCで長く使い続けてもらうための配慮から盛り込まれた機能だ。「ボランティアだからという甘えを捨てて、技術屋として細かい部分まで使い勝手を追求できるのがプロの仕事」と山下氏は話す。

一方の鶴田氏がサービスの企画・開発で常々心掛けているのは、「自分が欲しいものを作る」、「人の感情を動かすようなクリエイティビティ」の2つだ。「サービス開発のコンセプトを考える上で、本当にユーザーに大切なことは何か、という自問自答をいつも行っている」と語る。

『prayforjapan.jp』に対する世間の反響からも、「本当に広まるべき情報には【拡散希望】なんて枕詞はいらないということを改めて実感した」という。鶴田氏と山下氏のモノづくりは、アプローチこそ違うが、ユーザーオリエンテッドという意味で共通している。

人生には締め切りがある。だから「思い立ったらすぐ開発」を

そして、トークセッションのメインテーマである「一点突破のプロに必要なものは何か」という米倉氏の問いに、2人が応えた内容も、対象的ではあるが相通じるものがあった。

山下氏の答えは、「やっぱりサービスを作り続ける中で得る技術力」。『Toksy』開発時も、「自分でも『ホントにそんなに使うんかい!!』と思いながらも(笑)、サーバのスケールを考慮して最大1500アクセス/秒に対応できるバックエンドを用意していた」そうだ。あらゆる可能性を検討した上でサービスをリリースしなければ、本当の意味の使いやすさは生まれないという考えからだ。

この”検討力”を支えるのが、技術知識の有無ではないかと山下氏は言う。こういったオタク的なこだわりが、サービスの質を左右するということなのだろう。

起業家として敬愛する故・スティーブ・ジョブズ氏の話を引き合いに出しながら講演する鶴田浩之氏

起業家として敬愛する故・スティーブ・ジョブズ氏の話を引き合いに出しながら講演する鶴田浩之氏

そして、鶴田氏の答えは、「タイミングを味方につける」というもの。今の時代、あるWebサービスが流行るとすぐに類似サービスが生まれるが、サービスのスタート・方向転換を含めて「いつやるか」の判断こそがユーザーの心をつかむと私見を述べる。

ある種、起業家としての勘所、センスのような話ではあるが、鶴田氏はこのタイミングをベストなものにしていくためにも、過去の企画・開発経験が大事になってくると力説する。中学生のころからWebサービスを作り続けてきた鶴田氏ならではの示唆といえる。

加えて、鶴田氏は「失敗も含めてその経験値から何を学ぶか、というサイクルを、高速で回し続けるように日々気を付けている」と話す。その考える速度だけが、年齢や人生経験を越えるカギなのではないか、とも。

鶴田氏は、「先日亡くなった尊敬するスティーブ・ジョブズ氏からも、『人生には締め切りがある』ということを教わった」と最後に話した。この締め切りまでの密度を上げていくためにも、やはりクリエイターには「思い立ったらすぐ開発」のスタンスが大切なのだろう。

<『日本元気塾』とは?>

「ニッポンを元気にする!」を合言葉に、

一歩踏み出す勇気と実行力のある個人を追求する

社会人の学びの場『日本元気塾』。

第3期は、2012年春開講の予定だ(募集情報は2012年1月以降に公開予定)。

※最新情報はアカデミーヒルズ『日本元気塾』ホームページをご確認ください

取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)