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[特別対談:西田宗千佳×尾形慎哉] 技術屋のための「マルチデバイス時代に勝つUI・UX」講座(後編)

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尾形 欧米では、ユーザビリティの概念を具体的に実践するための人間中心設計(HCD=Human Centered Design)や、ユーザビリティ向上への取り組みは、エンジニアから生まれたと聞いています。一方、日本の場合は、その役割をデザイナーが担ってきた。そのため、どうしても「感性に依存するもの」という印象が持たれているのかもしれません。


西田 それは、UIを「上もの」と呼ぶ日本の風潮とも関係がありそうですね。

尾形 そうなんです。僕も以前、あるエンジニアの方と話したとき、ユーザーインターフェースについてどう考えているか聞いてみたことがありました。その彼が言ったのは、「機能が全部動くことが確認できた後にちょっと作るもの」だと。それを聞いて、かなりショックを受けましたね(笑)。

西田 わたしも似たような経験があります。家電メーカーの開発者やアプリケーション開発者に取材した時、「ハードウエア開発のリソースを100とした場合、UIを快適にするために50のリソースを割かなければならないと設計段階で分かったとき、周囲の人を説得してまでやる自信はあるか?」と聞いたら、「ない」と断言されて(笑)。せいぜい10~20程度のリソースを充てるのが精一杯という話でした。

日本にUXデザインの概念が根付かないのは、機能価値を重視して世界と競争してきた後遺症かもしれないと示唆する2人

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尾形 だから「上もの」という発想になるんでしょうね……。

西田 プロダクトの使いやすさにかかわる部分は、製品カタログ上では説明しにくいものですし、販売の現場でも売り文句にもなりにくい。となると、お客さんへの説明も難しいでしょうから、どうしても「説明しやすいスペック」の開発に力点が置かれてしまうんだと思います。

尾形 機能重視、スペック重視の開発は、機能数や性能を高めていかなければスペックダウンにつながるという競争至上主義が良くなかったのかもしれません。

西田 でも、仮にiPhoneを誰も知らないという状況で、スペックや機能の説明だけで売ろうとしても、うまく売れたとは思えませんよ。じゃあなぜこんなにヒットしたのか。直接触れてみれば、楽しさや心地良さがすぐに分かるからですよね。この事実を、日本の開発者はもっと重要視しなければならないと思うんです。

良いUI・UXを作るには「プロジェクトの進め方そのものを変える」 

――では、UIやUXをより良いものにしていくための理想型な開発スタイルとは、どんなものになってくるのでしょう?

尾形 やはり、エンジニアとデザイナーがきちんとコミュニケーションできるような場や体制を作ることではないでしょうか。開発の終盤に利用上の致命的な問題が発見されたとしても、仕様に反映できなかったり、修正のために大きな手戻りが発生したりしますから。要求定義や仕様段階で簡単な評価を数回行うなど、工夫すれば変えられることはけっこうあります。

西田 要は、プロジェクトの進め方そのものを変えるべき、ということですね。

尾形 そうです。ユーザビリティテストを行う際にモノができあがっていなければ、ごく簡単なPowerPointや、Flashで作った簡易的なデモでも構いません。実際に僕たちがテストを行う際は、それでやっていたりします。もっと簡単に済ませる方法としては、「ペーパープロトタイピング」という手法もあります。

西田 ペーパープロトタイピングとは?

尾形 簡単に言えば、紙に手書きした画面イメージで評価をする手法です。ユーザーがどこに注目し、どういう手順で触るのかなどを評価することで、必要な機能、情報、画面遷移に関する利用上の致命的な問題を発見でき、簡単に修正できる。そういった場にエンジニアがいるだけでも、実際にできあがる成果が違ってくるのではないでしょうか。

西田 でも、そうしたプロセスを経て仕様が決まっても、実装の段階で違う問題が顕在化することはないですか? マシンスペックの低さなどが原因で、利用者に理想的なUXを与えられない状況も考えられますよね。

尾形 まさにそうした場面を考慮して、エンジニアの方にも、もっとUI・UX設計にかかわってほしいんです。

エンジニア・デザイナー・ユーザー間をファシリテートする人が必要

西田 ほう、それはなぜ?

尾形 プロトタイプの段階で、「この情報を読み込むのは時間がかかるから、絞り込みの件数を減らすべき」などと、エンジニアならではの視点を入れて設計することができるわけですから。技術的な裏付けのある議論が可能になります。その逆に、デザイナーも、技術を理解する努力をする必要はあります。

尾形氏がたびたび口にする「人間中心設計」についての詳しい説明は、こちらのホームページに載っている

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西田 ただ、さきほども話があったように、現状はなかなかそうはなっていません。

尾形 重要性は理解されつつも、まだまだ実現できていないというのが現状だと思います。それに加えて、エンジニアとデザイナーは担当領域が異なるため、意見が衝突することも多い。そこをつなぐのが、わたしのような人間中心設計の専門家が担う役割の一つだと思うんです。

 

西田 なるほど。デザイナーとエンジニア、エンジニアとユーザーで、同じ「言葉」でも違う意味を持っていたり、違う意味で使われていたりすることが多いという話はよく聞きます。となると、その真ん中に立つ人間中心設計の専門家には、言葉や定義の翻訳作業が求められる。相当な負荷が掛かりそうですね。

尾形 でも、そこをつなぐことこそが、UI・UX設計と実装を有機的に結び付けるカギになります。結果的に「使いにくい製品」になってしまうものは、ユーザーの思いとエンジニアの思いにギャップがあるから。誰も悪気があって使いづらくしているわけではありません。僕たちに与えられた役割とは、ギャップを生じさせたちょっとしたズレを修正し、職種間の言葉や思いの違いを調整することなんです。

西田 今後はもう一歩踏み込んで、UI・UXに精通した人間が開発チーム全体をファシリテートするようになるかもしれませんね。

尾形 そうなれば良いなと思いますし、実際にそういうマネジメントも行っています。技術要件が確定し、すでに開発が進んでいる段階でUIについての助言を求められても、アイコンのデザイン変更や細かなレイアウトを修正する程度しかできません。それでは「良いデザイン」への効果が小さい。

「セカンドオピニオン」を持てる体制づくりがカギになる 

UI・UXについての専門家は、「開発チーム内で医者のような存在になっていく」と2人は同意

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西田 早期発見、早期治療。お医者さんみたいですね。

尾形 そうですね(笑)。お客さまにそう説明するときもあります。

西田 そういう意味では、開発チームにUI・UXに詳しい人を入れるというのは、ほかのお医者さんにセカンドオピニオンを聞きにいくのと同じ効果があるのかもしれませんね。

尾形 僕らのアプローチの一つに、問題発見のための「エキスパートレビュー」(UI・UXの原理原則を頭に入れた専門家の経験則による評価法)というのがあるんですが、まさにそのやり方は、お医者さんにセカンドオピニオンを伺うのと似たような意味合いを持っています。

―― では最後にお伺いしたいのですが、理想的なUXを生み出すには、尾形さんのような人間中心設計のエキスパートを開発チームに迎え入れるのと、エンジニア自身がそうしたスキルを身に付けて実行するのとでは、どちらがより効果があると思われますか?

西田 わたしは専門家をチーム外から迎え入れる方が良いと思います。

―― それはなぜですか?

西田 一つの職種を続けていると、どうしても視野が狭くなりがちですから。それに、エンジニアとは違う視点で開発にかかわる人がいた方が、ブレークスルーが起きやすいでしょうからね。業界内の定石や、組織の力学を外れたところでしか生まれないUXもあると思いますよ。一度そういう経験をしてから、その後自分たちですべて回せるようになれば、それはそれですばらしいことだと思いますし。

尾形 僕もまったく同感です。僕のような立ち位置で開発へかかわる人間中心設計の専門家は、特定のプロダクトに精通しているわけではありませんが、その代わり、あらゆる業界のさまざまなサービスやプロダクトを見てきています。ある業界の常識が、隣の業界の新たな気付きにつながるということはいくらでもある。そうした見識が新しいUI・UXにつながったりするものなんです。これから自分自身も、そういう役割を媒介していければなと思っています。

―― なるほど勉強になりました。本日はお忙しい中ありがとうございました。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小林 正(人物のみ)

≪人間中心設計専門家の受験応募 受付中!≫

本記事で対談した尾形氏は、

人間中心設計推進機構(HCD-Net)認定の人間中心設計専門家です。

この「人間中心設計専門家」今期の受験応募は、

2011年12月20日(火)より受付中。

ユーザーリサーチ、UI、UXに携わる方は、チャレンジしてみては?

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■人間中心設計(HCD)専門家 資格認定制度
http://www.hcdnet.org/certified/ 

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