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[連載:西田 宗千佳①] 家電のスマート化で、Web系人材にも転職チャンス到来

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ジャーナリスト・西田 宗千佳のデジMONO先端研
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IT・家電ジャーナリスト
西田 宗千佳

「電気かデジタルが流れるもの全般」を守備範囲に執筆活動を続ける気鋭のフリージャーナリスト。主要日刊紙や経済誌、MONO系雑誌にあまねく寄稿し、書籍の執筆も多数。最近は電子書籍関連の著書が多い。近著は『電子書籍の真実~未来の本 本のミライ』(ビジネスファミ通/税込1500円)など

エンジニアの働く場所は多岐にわたるが、中でもニーズが多いのは「組み込み向けソフトウエア開発エンジニア」ということになるだろう。家電はコンピュータを基礎に作るのがもはや当たり前であり、シンプルに見える機器でも、ソフトの力を借りねば成り立たない。

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From HighTechDad 

2011年1月の国際家電見本市(CES)でサムスン電子などが「スマートTV」を発表

その中でも、2011年以降、特に注目されるのが「スマートデバイス」への取り組みである。気が付けば、携帯電話の主軸はスマートフォンになっており、テレビにもネットワーク機能が搭載されるのが当たり前になっている。

韓国メーカーはネット機能搭載テレビを「スマートTV」と呼び始めている。スマートフォン向けOSを使ったタブレット端末も、今年はさらに多くの製品が登場することだろう。これらのデバイスは、スマートフォンを軸に連携するものが多い。スマートフォンをリモコンのように利用したり、スマートフォンからコンテンツを呼び出して利用したりできる。連携で価値を高めるのが狙いだ。

なぜこれらが「スマート」なのか? 技術的な観点からいえば、「開発環境」ということになるだろう。

スマホへのシフトは市場のグローバル化を考えれば必然

 スマートフォンは、その最たるものだ。

単にできることをいえば、日本国内で販売されている高機能フィーチャーフォンとの差はそう多くない。一番の違いは、OSを含む開発環境の出所だ。日本のフィーチャーフォンは、端末メーカーと携帯電話事業者が共同で開発した環境で作られる。そのため、各事業者の状況や戦略に最適化された製品を作りやすいが、他社や海外の事情に合うとは限らず、複数の企業向けの端末を開発するには効率的とは言い難い。

それに対してスマートフォンは、Androidを中心とした汎用OSで作られている。それを支えるSoC(System-on-a-Chip)もARMコアを中心とした汎用のもの。無線部も国際標準に則ったパーツ。このセットで携帯電話を作ると、ほとんどの部分が「複数の国や企業に対応するもの」で構成されることになる。

もちろん、国や事業者に合わせた動作検証やカスタマイズが必要な部分もあるが、フィーチャーフォン向けの環境に比べると、その範囲は小さい。業界全体で開発と低コスト化が進められ、結果、比較的高度な製品を低価格に開発できるようになるという仕組みである。

スマートフォンの特徴に、「同じメーカーが世界に向けて同時に複数端末を展開できる」という点があるが、これは前出の特性があるから実現できたものだ。同じ基盤技術でデザインやサイズ、各国向けの無線部の違いなどを切り替え、バリエーション展開を行うのが容易であるからこそのものだが、逆に言えば「そういう戦略を採ってビジネス機会の拡大を図ることが重要」という話でもある。

Webkit+HTML5の普及が、テレビの常識も変える

テレビについては事情が異なる部分もあるが、今後重要な要素がオープンスタンダードに依存している点は共通している。今後のテレビでは、映像表示だけでなくネット機能が重要になる。

既存の組み込み用Webブラウザは、PC向けに比べて能力が低かったため、本格的なWebアプリを提供するのが難しかった。結果、動作速度やクオリティーの面で満足できるものが提供できず、テレビでのネット機能はあまり使われてこなかった。だが、映像配信やテレビ番組に連動するコンテンツ提供の本格化は、もはや待ったなし。そのため、テレビ向けWebブラウザも高度化していくのが基本路線だ。

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From Bruce Clay, Inc 

話題になった『Google TV』も、当然ながらWebkit搭載だ

そこで注目されるのが、スマートフォンでも使われており、すでに業界標準に近い位置付けにあるWebkitの存在だ。

非常に高性能で動作の速いレイアウトエンジンであるだけでなく、HTML5を中心とした技術を活用することで、アプリケーションのように動的なサービスを開発するのが容易になる。

従来のテレビであれば、高度なサービスやアプリケーションを提供したい場合、組み込み向け環境を使って独自のアプリケーションを開発せねばならなかった。だが、業界標準技術を使ったWebアプリの手法で開発ができれば、開発工程は大きく変わる。製品出荷ギリギリまで開発を続けられるようになるし、開発に従事できるエンジニアとして、Webメディアの担当者が当たることができるようにもなるだろう。

オープンスタンダード技術の活用は、むしろ差別化の第一歩

共通しているのは、オープンスタンダード技術の活用による開発効率の向上、という点だ。PCが成功したのはまさにこの点を活用したからであり、その流れが家電でも一般化する、と考えれば、決して突飛な発想ではない。

このような話をすると、必ず次のような質問が返ってくる。

「業界標準・オープンスタンダード技術を使うと、他社との差別化が難しくなる。どうすればいいのか」

だが、現在消費者に評価される製品の特徴を考えると、考えるべき点はむしろ別にある、と見るべきだ。スマートフォンの分野で支持を受けているのは、HTC(台湾)やサムスン、LG(共に韓国)といった、商品展開のスピードが速い企業群である。彼らの開発スピードの速さは、決断の早さや開発工程のシンプルさなど、開発にかかわるプロセスがシンプルだからと言われている。

業界標準技術に詳しくないエンジニアをたくさん集めて人海戦術で作るよりも、標準技術をよく知る少数のエンジニアたちが開発に当たった方が、小回りが利くため効率は上がる。そこで稼いだスピードは、結果的に「差別化のためにかける時間」に回すこともできる。オープンスタンダードに合わせた開発プロセスを活用することが、差別化の第一歩になると考えるべきだろう。

その中で、品質やデバイスの強みなど、自社が持つ強みとして活かしていく、というのが最適な解だとわたしは考える。エンジニアとしては、これまでかかわれなかったジャンルに携わるチャンスが生まれる、と考えると面白くないだろうか?

WebアプリエンジニアやPC系ネットワークエンジニアが家電開発に入っていけるようになれば、大きなビジネスチャンスになるだろう。

撮影/芳地博之(人物のみ)