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「技術探求型」で新しい受託開発を実現してきたアクロクエストが有する“組織技術力”とは?

タグ : Acroquest, Java, OSS, SIer, アクロクエストテクノロジー, トラブルシューティング, ビッグデータ, 組織技術力, 組織論 公開

 

クラウドコンピューティングの進歩やDevOpsの普及、そしてビジネス環境の断続的な変化に伴う開発期間の短納期化etc……。こうしたさまざまな要因により、ここ数年はSI業界に変化の波が押し寄せており、顧客企業の要求に対応できない企業は部門の統廃合や業容転換を余儀なくされてきた。

そんな中、エンタープライズITの開発で異彩を放つソフトウエア開発会社が横浜にある。1991年に創業したアクロクエストテクノロジー(以下、Acroquest)だ。

アクロクエストテクノロジーのホームページ

同社は現在、Javaのシステム障害なら100%の実績で解消してきたトラブルシューティングサービスの『JaTS』や、先端的なOSSをベースとしたビッグデータの高速・リアルタイムソリューション『AcroMUSASHI』の開発・提供などで知られており、守備範囲はソフトウエア開発のみならず設計技術、プロセスマネジメント、品質管理などと多岐にわたる。

その総合的な技術力と問題解決力が評判を呼び、最近では通常の受託案件のほか、大手企業の研究機関と共に新技術検証やビジネス企画を行うようなプロジェクトも増えているという。社員数約70名のうち純粋な営業担当者は1人しかいないということからも、同社が「技術」で顧客の信頼を得てきたことが窺える。

以前に増してシステム開発の複雑化・高速化が顕著になる今、Acroquestはなぜ変化に適応し続け、最先端の開発案件をリードすることができているのか。

その秘密は、同社が“組織技術力”と呼ぶ一風変わったチームビルディングと、それを支える独自のエンジニア教育にあった。

エンジニア個々の得意分野が、ビジネスに発展する理由

(写真左から)Acroquestのエンジニアリングクリエーター中川翔太氏、テクニカルコンサルタントの村田賢一郎氏と谷本心氏、シニアテクニカルコンサルタントの鈴木貴典氏

同社の“組織技術力”を知る上で象徴的なのが、受託案件の“生まれ方”だ。

今回話を聞いた4人はそれぞれに別の得意分野を持っているが、彼らのようなエンジニア自身が顧客提案やサービス企画を行い、案件を受注してきては、内容に応じたプロジェクトチームが編成されるという。

例えば、社内でプロセスマネジメントと品質保証の責任者を務めている鈴木貴典氏は、Twitterがビッグデータのリアルタイム処理に導入したことで知られる『Storm』に興味を持ち、自ら調査を重ねながら既存クライアントに導入を提案。後に開発案件として受注してきたという。業界を見渡しても、プロセスや品質保証の責任者が、最新のOSSを利用した開発現場を主導しているようなケースはまれだろう。

また、谷本心氏はJavaの言語自体に興味を持ち、知識を深めていくうち、Javaトラブルシューティングにおいて社内外で一目置かれる存在となり、昨年は、世界中のJavaエンジニアが集まる『JavaOne2013』(米サンフランシスコで開催)に登壇者として参加。村田賢一郎氏も、OSSへの興味が高じてひがやすを氏らが生んだ国産OSS『Seasar』開発プロジェクトにて通信関連プロダクトのコミッターとして活躍しており、現在ではHTML5やJavaScript関連で記事の寄稿なども行っている。

こうした各々の得意分野は、会社から与えられたミッションとして身に付けたのではなく、すべて自らが興味に応じて勉強を重ねた結果作られている。それゆえ、Acroquestの社内にはフロントからサーバ、インフラまで幅広い技術領域に精通したメンバーが存在している。

エンジニア自身が、それぞれの得意分野を活かして顧客提案やサービス企画を行うのがAcroquestの特徴

さらに、上記したStorm案件のように、日本ではさほど前例のない新しい取り組みを導入する際は、そのプロセスと品質管理に関する手法まで自分たちで学びながら実践していくというから驚きだ。

技術分野や担当業界で「縦割り」の組織構造になっているSIerが苦境に陥ってしまっている中で、Acroquestがこうした潮流とは無縁なのはそのためだ。

「わたしたちは『特性能力主義』と呼んでいるのですが、エンジニア1人1人が“尖った得意分野”を持つことで、それがチームとして連携した時に、より大きなパワーを発揮するという考え方で組織を作っています。最新技術に明るくないメンバーがいても、設計や品質に関する分野が得意ならその分野を伸ばせばいいし、マネジメントが苦手なら得意なメンバーがフォローすればいい。それぞれが苦手なところを矯正するのではなく、得意分野を伸ばすというポリシーなのです」(鈴木氏)

プロスポーツチームのように、それぞれのエンジニアが特性にあったポジションに就くことで、各自が高いパフォーマンスを発揮し、さらに、連携し合うことで、より高い成果を出すことにつながる。だから、会社として特定の技術に固執することなく、エンジニア個々人の嗅覚を生かした学習によって時代ごとに変わる顧客の要望にも応えられるのだ。

まさに「組織技術力」を活かした、「技術探究型」の開発スタイルといえよう。

ただ、こういったやり方は、上記したような従来型SIerのエンジニアからすると理想論のように聞こえるのも確かだろう。それを理想で終わらせない土台となっているのが、Acroquestが日々行っているエンジニア教育である。

現場主導で年間100を超える勉強会が“活きた教育”を可能に

チームで機能することが大事と話す4人。同社社員がシャツ・ネクタイをそろえる日があるのも、チーム感の表れだ

同社では、役割やポジションに応じて、年間で合計100を超える勉強会やセミナーが継続的に行われており、社員は自分の技術レベルや特性に合った内容を選択して参加している。

その内容はHadoopやNoSQLなどのビッグデータにまつわるものから、DevOps関連、海外カンファレンスに参加してきたエンジニアによる最新レポートなどと多岐にわたる。

単純計算で3日に1回の頻度で行われていることだけでも特筆に値するが、最も重要な点は、その数以上に運営方法にある。

プログラミングやプロセス、ネットワークなど業務で必要となるスキルを学ぶベーシック教育にはじまり、先述した3人が学んでいたような先端技術に関する教育、そしてロジカルシンキングやプレゼンテーションといったビジネススキル教育まで、そのすべてを、その専門分野の社員たちが持ち回りで講師を務めている。

その理由と効用を、中川翔太氏はこう話す。

「教育を研修担当者などに任せず、現場エンジニアで分担して行うのは、直近のプロジェクトで直面している課題などを取り入れて“活きた教育”になるよう工夫しているから。互いに経験したことを共有し合いながら、直面した問題の解決法などを議論していくうちに、自然と最新技術やプロジェクト運営手法について学ぼうという姿勢が出てきます」(中川氏)

勉強会が技術分野だけでなく、ビジネススキルにまで及ぶのは、「エンジニアが主導して案件を回すために、問題解決のスキルは必要不可欠だから」(鈴木氏)。この形式の勉強会は、入社年次や経験年数を問わず、ずっと続くという。

全員が個人を、個人が全員の成長を支え合うことで、Acroquestの“組織技術力”は時代の変化にも即応でき、常に高いレベルを維持していけるのだろう。

有機的につながる柔軟な「ネットワーク型組織」が最大の強み

「こうした個々のエンジニアの意欲を最優先する文化や風土が、トップダウンではなくて社員皆が納得した上で作られていくのも、当社の強みかもしれません」(村田氏)

こう村田氏も話すように、ここまで説明したような一連の取り組みは、同社の社長や経営陣からの指示ではなく、すべて現場の判断で行われている。社員全員が、開発業務以外にも採用や営業提案、社内システムの構築など2つ3つ以上の役割をこなしているのだ。

ホームページには、同社が誇る「ネットワーク型組織」の説明がふんだんに載っている

Acroquestが、こうして有機的かつ柔軟な組織を維持していけるのはなぜなのか?

「わたしたちの共通理念は、『世界一のソフトウエアを自分たちで創る』というもの。だからこそそのためには、プログラミングだけ、特定の開発領域だけを得意とするエンジニアの集まりではダメだという危機感は常に持っています。それが、立場や経験年数に関係なく情報を共有し、互いに議論し合える文化につながっているのだと思っています」(鈴木氏)

これは、エンジニア1人1人が業務に取り組む中で体験し、感じたことを、SI業界の一般論で切り捨てることなく1つ1つ取り上げ、解決方法を全員で生み出していくという取り組みを地道に積み重ねてきた結果といえるだろう。

縦割りでもピラミッド型でもない同社の「ネットワーク型組織」は、より良いソフトウエア開発を追求し続けてきた結果生まれた産物なのだ。

ゆえに、ほかの開発会社が今すぐこのスタイルをマネしようと、即座に組織が変わるわけではなさそうだが、有機的で柔軟な組織づくりに役立つヒントはいくつか見いだせそうだ。

【1】エンジニア個々人の得意分野を引き出し、共有するための技術勉強会
【2】情報や状況をリアルタイムに共有する徹底したコミュニケーション
【3】会社の制度やルールも全員で考え、社員自身が変えていく

こうしてポイントだけをまとめてしまうと、チーム運営にあたってよく指摘されるもののように思える。が、問題はこうした取り組みが形だけのものではなく、社内に根付いて運用されているかどうかだ。

Acroquestではその実例として、月に一度のMA(Meeting of All staff)全体会議が開催され、さまざまな取り組みが発案され、問題があれば自分たちで見直し、改善するサイクルが定着している。給与までもこのMAで決定するというシステムを聞くと、その徹底ぶりは本物だろう。

SIを取り巻く環境が今後どのくらいのスピードで変わっていくかは誰にも予測できない。だが、複雑化・高速化の度合いを増すシステム開発の現場で結果を出し続けるAcroquestのやり方には、少なくないヒントが詰まっている。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正