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“週末兼業”の若手技術者集団Akerunが鍵ロボットに注目したワケ【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、Bluetoothを使ってスマホと連携することで、家の鍵を自動で開閉するスマートロックデバイス『Akerun(アケルン)』だ。さまざまなバックボーンを持つ若手技術者が、IoTの旗の下に集った理由とは?
(前列左から)小林奨氏、河瀬航大氏
(後列左から)齋藤孝一氏、本間和弘氏

鍵ロボット『Akerun』とは?

家事代行サービス「エニタイムズ」と連携して2014年9月から試験的にサービスを開始するスマートロックシステム「Akerun」

家事代行マッチングサービス『エニタイムズ』と連携して試験的にサービスを開始するスマートロックシステム『Akerun

家の鍵を開けようにも、両手が荷物でふさがっていて、カバンの中の鍵をなかなか取り出せない。そんな誰もが一度は経験したことがあるだろう煩わしさを解消してくれるのが、鍵を自動で開閉するスマートデバイス、鍵ロボット『Akerun(アケルン)』だ。

ユーザーのスマートフォンが鍵の代わりとなり、扉に近づくだけで自動で開錠してくれる。アプリを起動させる必要はなし。自動で閉まるため、うっかり閉め忘れた、といった事態も防止できる。

他者のスマホに権限を付与することができるため、合鍵を作られてしまうリスクを心配することなく、一時的な訪問者を入室させることも可能。入退室状況はWebサイトやスマホアプリから確認でき、『Airbnb』などの空き室の貸し借りにもフィットしそうなサービスだ。

ドアに貼り付けるだけでサムターン部分にフィットするように設計されており、工具を一切必要としない設置の手軽さも売りの一つ。

開発したのは、大小さまざまな企業で働くエンジニアらが集まって結成した、平均年齢26歳の技術者集団Akerunである。プロトタイプはほぼ完成しており、2014年9月からは家事代行マッチングサービス『エニタイムズ』と連携して試験的にサービスを開始。

年内の正式リリースを目指して、現在は法人化の準備を進めている。

アイデアの出発点:次に来るのはIoT。挑戦するなら一番難しいところ

「次に来るのはIoT。どうせやるなら一番難しいところに挑戦したい」。プロジェクトは河瀬氏(右)と小林氏の共通した思いから始まった

「どうせやるなら一番難しいところに挑戦したい」。プロジェクトは河瀬氏(右)と小林氏の共通した思いから始まった

GaiaXの事業リーダーで、自然環境をテーマにしたハッカソンイベント『Green Hackathon』を主催する河瀬航大氏と、エニタイムズWebディレクターの小林奨氏が今年初めに知り合い、意気投合したのがすべての始まりだった。

「スマホの中にはたくさんのアプリ、サービスが生まれて、飽和状態になりつつある。では、次に来るのは何か。スマホとモノがつながるもの、つまりIoTというのが、2人が共通して出した答えでした」(小林氏)

「最初にあったのは、遊び心というか、いろいろなモノをハックしたい、挑戦するなら一番難しいところを、という気持ちでした」(河瀬氏)

身の回りのさまざまなモノを見渡してみると、鍵は現状、非常にアナログだった。

「いくらでも合鍵を作られてしまうリスクがあるし、荷物を持ちながら鍵を開けるのは単純に不便。これはハックしがいがあるな、と」(河瀬氏)

従来の鍵から一歩踏み込んで、便利さを追求する動きもあるにはあった。しかし、その多くは、マンション建設時にオートロックシステムを入れるなど、非常に大掛かりなものばかり。その手法もカードキーや指紋認証といった方向で、iPhoneを使う例は日本にはなかった。

海外に目を向けると、AugustKevoなどスマートキーのサービスが出始めているものの、設置するのにシリンダーごと付け替える必要があったり、鍵を開ける際にアプリを起動しなければならなかったりと、どれも一長一短だ。

「そこで、後付け×フリーハンド、設置の手軽さ×便利さの掛け合わせなら勝負ができると考え、今年の4月ごろからプロジェクトが本格化していきました」(河瀬氏)

開発のポイント:音楽体験共有アプリ開発で磨いたiBeacon技術

「iPhone×Bluetoothは一番の得意分野」。そう口を揃えるiOS開発エンジニアの齋藤氏(左)と本間氏

「iPhone×Bluetoothは一番の得意分野」。そう口を揃えるiOS開発エンジニアの齋藤氏(左)と本間氏

Akerunは、ソフトウエア、ハードウエアのエンジニアとマーケッター、デザイナーからなる9人のチームで構成されている。

メンバーはIT企業から大手電機メーカー勤務、現役東大生までとさまざまなバックボーンを持つ。オフィスに集まれるのは週末だけで、平日夜は各自、自宅で作業を進める。

人がやっていない難しいことにあえて挑戦したい――。そう考えるのは、技術者の性なのか。GaiaXのiOSアプリ開発エンジニアの本間和弘氏とサーバサイドエンジニアの齋藤孝一氏も、そこに共鳴してジョインした。

Akerunの売りの一つであるハンズフリーの構想を実現する上で、カギになったのはiBeacon技術の高まりだ。

「iBeaconは、アプリが起動していなくてもiPhoneが近づきさえすれば信号のやり取りができるようになっています。まず、技術的な沸点を超えていたというのが大きかったですね」(本間氏)

とはいえ、「実際にアプリをバックグラウンドのまま信号を発信させる制御は、非常に難しいポイント」と齋藤氏。OSの裏を突いての認証が可能だったのは、2人がいち早くiBeacon周りの技術習得に取り組んできたからだ。

「今年の2月に開催された音楽ハッカソンで、カップルなどをターゲットにした『WeTunes』というアプリを作りました。2台のiPhoneをBluetoothを使ってペアリングすると、片方のiPhoneには入っていない曲を2人同時に聴ける音楽体験共有サービスなんですが、この時の経験が今に活きています」(齋藤氏)

「やり込むうちに、だんだんと詳しくなっていきました。今では、iPhone×Bluetoothは自分たちにとって一番の得意分野と言えますね」(本間氏)

特許申請中の新技術でセキュリティーを確保

セキュリティーの確保には、「静電気センサー」を使った特許申請中の新技術が活用されている。さまざまなバックボーンを持つ技術者集団が知恵を出し合った末にたどり着いたアイデアという

特許申請中の「静電気センサー」を使ったセキュリティー技術は、さまざまなバックボーンの技術者が知恵を出し合った末にたどり着いたアイデアだ

鍵ロボットサービスの成否を分ける最大の難関とは何か。それはセキュリティーの問題であると、メンバーは口をそろえる。

「鍵ロボットは部屋の中にも外にもBluetoothの信号を発信しています。そのため、部屋の中に人がいると鍵が開けっ放しになってしまうという問題がある。そこが大きな課題でした」(河瀬氏)

実際、多くの既存のサービスが後付けの簡易設置を実現できなかった一因はここにあるという。特許申請中のため詳細は明かせないが、Akerunはこの壁を、静電気センサーを使うアイデアで乗り越えた。

「さらにセキュリティーを強化するために、大学の教授や大手電機メーカーで品質管理をしていた方に技術顧問をお願いする予定で、引き続き時間をかけて追求する必要があると思っています」(本間氏)

もっとも、セキュリティーの問題は技術だけで解決できるわけではない。

日本でこれまで鍵ロボットのサービスが伸びてこなかった理由の一つには、従来の風習を変えることに強い抵抗を示す日本人の特性もある、というのがAkerunチームの見立てだ。その心理は、セキュリティーの本丸ともいえる家の鍵であれば、なおのこと強く働くだろう。

「不安を解消するには、実際に使ってもらう以上の方法はないと思っています」と河瀬氏。そこで浮上したのが、エニタイムズとの連携だった。

「エニタイムズにはもともと入室管理に課題があったので、権限の委譲が簡単で、入退室状況の確認もできるAkerunはうってつけ。僕が勤めているという縁もあり、連携の話が進みました」(小林氏)

今後はほかの会社のサービスとも提携して事例を積み重ねることで、信用を拡大していく方針という。

鍵ロボットでHEMSの「入口」を抑える

前述の通り、Akerunのプロジェクトは、若い技術者集団ゆえの遊び心から始まった。しかし、彼らは一方で、鍵ロボットの先に広がる確かな可能性にも目を向けている。

「省エネやエコなどの文脈で、ITで家電を制御するHEMSの考え方が流行っていますよね? 鍵が開いて人が入ったことが分かるというのは、HEMSをやる上で非常に大きなアドバンテージになります。なぜなら、鍵を開けて人が入って初めて、部屋の電気がつき、エアコンがつき、冷蔵庫がキンキンに冷え、便座が温まる……というのが理想的な形だからです。鍵ロボットは、そのすべての文字通りの『入口』を抑えることになるんです」(河瀬氏)

将来的には、「Bluetoothを使ってさまざまな家電をハックしにいくとともに、空き室管理をすることにより、無駄な空間を効率的に使っていくWebのプラットフォーム作りにつなげることもできる」と構想する。

そして、モノとITの連携は、技術者個人のキャリアにとっても新しい可能性を拓く。本間氏は言う。

「今回のプロジェクトを通じて、ソフトウエアエンジニアだった自分がモノづくりの大変さを実感し始めています。今後はさらに、自分の領域をどんどんワクワクする方向に広げていけたら、技術者として幸せですね」

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴

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