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「データ分析」でファンディング成功率を高める、音楽ライブ実現サービス『Alive』の取り組みとは

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NHKの朝の番組「おはよう日本」(2013年6月18日放送)でも紹介されるほど、裾野が広がってきたクラウドファンディング。日本国内でも、CAMPFIREREADYFOR?Makuakeなど、さまざまな切り口のファンディングサイトが増えている。

しかし、こういったサイトに投稿さえすればどんなプロジェクトでも確実に資金調達ができるかと言えば、そう甘くはない。クラウドファンディングのパイオニア、Kickstarterの公式ブログ(2011年6月)によると、同社が2009年にサイトを開設して以降、資金調達に成功したプロジェクトの割合はわずか44%だ。つまり、2件に1件はうまくいっていない。

前述の通りクラウドファンディングの知名度は年々上がっており、合わせて参加プロジェクトも増えているのを考えれば、成功率はさらに低くなっていると予想される。ゆえに特化型のファンディングサイトであれば、どうやって成功率を高めるかが有名サイトとの差別化要因となるだろう。

ユーノ・グループが2013年10月24日にリリースした『Alive』も、「音楽ライブ特化型クラウドファンディング」として、この成功率アップを重視した取り組みを展開しようとしている。

そのサービスコンセプトは、「理系的アプローチ」で「音楽ファンの潜在化したニーズを分析」することだという。

神経科学の勉強で得た知見で音楽産業を活性化させたい

音楽ライブ専門クラウドファンディング・サイト「Alive」

洋楽アーティストの日本でのライブ実現を目指すクラウドファンディング『Alive

Aliveの仕組みはこうだ。まず、運営側が「日本でライブをやってほしい海外ミュージシャン」をピックアップしてサイト上で紹介。ユーザーは、Aliveが提案するミュージシャンのうち、ライブに参加してみたいものに投票する。その数が一定数に達すると、Aliveの事務局が、具体的に招聘に動き出すのだ。ユーザーは、ライブが実現した際に、チケット代を支払う形でファンディングする。

2013年11月21日時点で、Aliveでは5つのグループの日本公演に向けた投票を受け付けている。ゆくゆくは、どんなミュージシャンを投票の対象、つまり、招聘の対象にするかを、ソーシャルを解析することで決めていこうと考えている。

ソーシャル解析は、同社がAliveをリリースする前から行っている事業であり、得意とするところである。

ユーノ・グループ社長サム・モクターリ氏

神経科学と同じくらいに音楽が好きだというサム・モクターリ氏

解析をけん引するのは社長のサム・モクターリ氏だ。もともとは神経科学研究者。イギリス出身で、奨学金を得て来日し、理化学研究所に勤務していた経験がある。

ロンドン在住時は、カムデンタウンにあるミュージシャンが多く集まるバーでアルバイトをし、エイミー・ワインハウスオアシスのメンバー、それに、その後、東京国際フォーラムでのライブ実現にかかわることになるマイ・ブラッディ・バレンタインのメンバーらとも、親交を深めていた。

日本へ来てからも、『Tokyo indie』という、海外のインディーズバンドを日本向けに紹介するサイトを運営していた。

モクターリ氏は起業した経緯についてこう語る。

「神経科学の勉強はとても興味深かったです。でも、音楽も相変わらず大好きで、ある時、神経科学の勉強で得たノウハウを、音楽の仕事に活かし、新しいビジネスを始めたらいいのではないかと考えるようになりました」

CD売上枚数だけで作られる、まやかしの価値

Aliveリリース後、最も早くファンディング成立したのは、San Ciscoというオーストラリアのバンドのライブだ。

当初、このSan Ciscoへの支持は伸びにくいのではないかと考えられていた。「○○ジャンルのバンド」という説明が難しいからだ。

その背景には、最近の音楽の多様化がある。ロック、ダンス、R&B、ポップスなどと明確なジャンルがあったのはいまや昔。近年はミクスチャーロックやダブステップ、チルアウトなど、さまざまなジャンルの要素を融合した音楽がたくさん生まれており、「ジャンル」という分類そのものがしにくくなっている。San Ciscoも、こうした「分類に迷う」バンドの一つだ。

「周囲からそう指摘されたこともあり、San Ciscoへの投票にはテコ入れが必要だと考えていました。ところが実際は、アタマひとつ伸びています。これも、 『ジャンルを分類できるバンドの方が売れる』という今までの尺度がアテにならないことの表れだと思います」

ユーノ・グループ副社長 藤木穣氏

藤木氏も学生時代に音楽が好きでバンドを組んでいたバックボーンを持つ

ユーノ・グループ副社長で、iPhoneアプリ『nana』などのデザイナーとしても知られる藤木穣氏はこう話す。モクターリ氏とは東京・下北沢のコワーキングスペースで知り合い、「じゃあ、やろうか」といった感じでサービスを立ち上げた。

日本レコード協会の調査によると、国内でのCDアルバムの生産数量は減少傾向にある。邦楽と洋楽の比率・邦洋比は2012年のデータで洋楽が24%と、過去10年で最低だ。

このタイミングで洋楽にこだわったサービスを提供するのは、一見すると時代に逆行しているようにも見える。

しかし、あえて今、Aliveを立ち上げた理由をモクターリ氏はこう話す。

「Aliveをスタートする前に、東京の友人に『日本の音楽業界には、CDの売上げ以外に外国のミュージシャンを判断する基準がない』と聞かされました。でも今、若い人はYouTubeなどで音楽を聴いています。YouTubeにアップされている音楽でプレイリストを作れる『SoundCloud』というサービスは、英語で提供されているにもかかわらず、ユーザーのうちの60%は日本人というデータもあります。彼らは、CDは買わなくても、ライブがあるなら行ってみたいと考えています」

藤木氏も「音楽へ対する人のニーズは、実は隠れていることが多い」と話す。

「音楽が嫌いな人はいません。音楽なんてなくなればいいと思っている人もいません。みんな漠然と、良い音楽、格好いい音楽を聴きたいし、ライブにも行ってみたいと思っています。でも今は音楽が多様化しているので、聴く側も戸惑っているのだと思います。何となく面白い本を読みたいなと思っている人が、いきなり国会図書館に行ったら、本が多過ぎてどれから手をつけていいのか迷ってしまうのと同じです」

「信じられるのはデータだけ」ソーシャル分析で測るファンの“熱さ”

つまり、Aliveの目的は音楽への「隠れたニーズ」を掘り起こすことにある。

「どこを掘り起こすのかという話になりますが、その時、信じられるのはデータだけです。それも、これまでは測り得なかったデータです。わたしたちのしようとしていることは、新しいアンテナを立てることに似ています」(藤木氏)

そのアンテナで測れるものとは、例えば投票の数であり、Twitterで言及される数であり、Aliveの「Who’s next」(次はどんなミュージシャンのライブを企画してほしいかのリクエスト)の数だ。

ただ、数字からは簡単には“熱さ”は測れない。ツイートが『どうしてもライブを見たい』から投じられたものなのか、『割と面白い』程度なのか、定量的に判断するまでに到っていない。

だからこその解析になるのだが、実はその“熱さ”を測る指標は、SNSの中ほど見つけやすいし、さらに熱いものへ変えてもいけるという。

Alive開発チームのモクターリ氏と藤木氏

Aliveを通じて日本の洋楽シーンのあり方を変えたいと二人は語る

「これまで、多くの人の海外ミュージシャンのライブに関する発言は、『誰々のライブがあるらしい』『行ったよ』くらいしかありませんでした。でも、Aliveに参加してもらい、SNSを通じて拡散されることでファン同士であれば『この人たちに来て欲しいね』『一緒に呼ぼう』『行ってみよう』と盛り上がれます。また、友人がAliveで『このバンドが呼びたい!』、『あの人のライブ実現のために協力して!』と協力を仰いでいれば新たなファンの獲得にもつながります。これは、ミュージシャンにとってもいいことです。Aliveは確かにクラウドファンディングではありますが、インフラづくりとも言えますね」(藤木氏)

ただ、その解析を始めるタイミングを「ゆくゆく」としているのは、まだ、解析に十分なデータが集まっていないと考えているからだ。

「データが少なくて偏っているうちに解析をすると、間違った結果になることも多いですから」(モクターリ氏)

「なので、データが十分に集まったら、サイエンス的なアプローチで解析をしたいと考えています」(藤木氏)

今はそのために、日本でのライブを実現させたいミュージシャンと交渉し、投票を受け付けながら、十分なデータを収集している段階だ。Aliveで成立した最初のライブは海外ミュージシャン・Blue Hawaiiの日本初ライブで、来年1月、渋谷で実現する。

取材・文/片瀬京子 撮影/赤松洋太