エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

あえて「ユーザビリティを考慮しない」とは?ALSIのグローバルデータ連携基盤開発が生んだ新たなビジネスチャンス

公開

 
ALSIのデータ連携基盤開発チーム。左から菊地淳氏、福田一巳氏、庄司雅人氏

ALSIのデータ連携基盤開発チーム。左から菊地淳氏、福田一巳氏、庄司雅人氏

各企業にとってビジネスのグローバルな展開は避けて通れない時代になっている。それに伴い、ビジネス環境を支える基幹システム、基幹データのグローバルな統合を迫られるケースは年々増えている。

だが、各海外拠点ごと、部門ごとに最適化されたシステムで巨大に膨れ上がったデータを統合するのは、決して容易なことではない。

グローバルに展開する電子部品メーカー大手のアルプス電気は、準備段階も含めると10年近い歳月をかけて、国内外約40の生産・販売拠点のシステム統合に取り組んできた。その際、プロジェクトの中核をなすデータ連携基盤の開発を担ったのが、グループ会社の「アルプスシステムインテグレーション(ALSI)」だ。

同社は、このプロジェクトを通じて培ったノウハウを活かし、グループ外企業に向けたデータ連携基盤の導入支援サービスを提供し始めている。

データ連携基盤を作る上で陥りやすい失敗、それを乗り越えるためのポイントとは? そもそも、データ連携基盤開発エンジニアとはどのような職種なのか?

グローバル時代のデータ連携のあり方を探るべく、中心となってプロジェクトを進めたALSIの技術者である福田一巳、菊地淳、庄司雅人の3氏に話を聞いた。

SAPの新システム導入に合わせ、データ連携基盤を刷新

「データ連携基盤の開発にはゼロからノウハウを学ばなければならなかった」(菊地氏)

「データ連携基盤の開発にはゼロからノウハウを学ばなければならなかった」(菊地氏)

アルプス電気が基幹システムの刷新を議論し始めたのは2005年ごろ。20年以上使われてきた既存の基幹システムは刷新の時期を迎えており、新たな機能の導入もままならない状態だった。国内外の基幹システムの統一・移管は喫緊の課題となっていた。

数年の準備期間を経て2009年、人事、販売戦略を除く国内外すべての基幹システムをSAP社製のものに移管する大規模プロジェクトがスタート。これに伴い、データ連携基盤も従来のものからSAPと親和性の高いものへと移行することとなった。

コストとパフォーマンスのバランスが決め手となり、データ連携基盤のツールには米Informatica社製の「PowerCenter」を、フロントエンドのUIにはSAPの標準形式であるiDocを採用することに。だが、その道のりは文字通りゼロからのスタートだった。

「iDocは利用している企業が少ないため、参考にできる例があまりなく、自分たちで一から勉強して知識を身につけなければなりませんでした」(菊地氏)

方針書作りの徹底とレビューポイントの設定で、ムダな機能を省く

「ムダな機能をいかに省くかが2つ目のヤマだった」と庄司氏

「ムダな機能をいかに省くかが2つ目のヤマだった」と庄司氏

「データ連携基盤ツールはあくまでも『ツール』なので、得意なことと不得意なことがあります。不得意なことを無理にやらせても、コストばかりがかかってしまい、パフォーマンスは出せません」(菊地氏)

いかにムダな機能を省くかは、巨大なシステムを動かしていく上での大きなポイントだった。

そのためにまず、開発・内部設計前の方針書作りには徹底してこだわった。それでも「すり抜けてくる」現場からの要望に対しては、ポイントごとにレビューを行い、本当に必要な機能なのかどうかを精査していった。

「PowerCenterは一気に処理してデータを出すのは高速で効率的ですが、1回集計した上で何かをするのは苦手。それは方針書で周知しているはずなのですが、それでも現場からの要望は関係なく来ます。それを精査し、峻別することの繰り返しでした」(庄司氏)

「処理の種類によっては、連携基盤側ではなく、データの出し手側、受け手側で処理した方がいいものもある。そうしたものをどう切り分けるかというプロジェクトマネジメント面の難しさも同時にありました」(菊地氏)

ただ、こうした苦労の甲斐あって、でき上がった新システムのパフォーマンスは当初の予想を超えて高いものだったという。

現場のニーズに応えるのはカスタマイズではなく、トレーニング

「世界規模でシステムを統合する上では、個別最適化は優先されない」と話す福田氏

「世界規模でシステムを統合する上では、個別最適化は優先されない」と話す福田氏

エンタープライズ向けサービスに限らず、エンドユーザー向けのサービスにおいても「使い勝手の良さ」が重視されるのが一般的な風潮だ。だが、今回のプロジェクトにおいては、「あえてユーザビリティを考慮しない」ことが基本方針だったと菊地氏は言う。その意図は、どこにあるのだろうか。

長くアルプス電気の基幹システム導入、保守・運用に携わってきた福田氏は、「以前のデータ連携基盤を作った時の反省が込められた決断だった」とその真意を明かす。

「昔は現場からの要求を飲んで、一人しか使わないような画面を作っていましたが、それは全体最適化ではなく、同じ機能に二重投資しているようなもの。帳票や指示伝票といったアウトプットはカスタマイズしないと現場が止まってしまいますが、画面照会は使いこなせばどうにでもなる。世界規模でシステムを統合する上では、個別最適化は優先されないというのが答えです」

ただ、これまで“ボタン一つ”でできていたことにひと手間加わるということになれば当然、現場からの抵抗も想定された。

「そこはトレーニングの充実で補いました。リリース前にトレーニングのフェーズを作り、トレーナートレーニングからエンドユーザートレーニング、カットオーバーリハーサルなど、半年かけて運用ノウハウを浸透させていきました」(菊地氏)

それは「あらためて業務移管、業務展開をするような手間のかかる作業」(福田氏)だったが、プロジェクトが進むにつれて、現場の意識も変わっていったという。

一開発者で終わらない「データ連携基盤開発エンジニア」の可能性

「データ連携基盤開発エンジニア」はエンタープライズ向けサービスのベーススキルを持つエンジニアのキャリアパスとして大きな可能性を秘めているという

「データ連携基盤開発エンジニア」はエンタープライズ向けサービスのベーススキルを持つ人材のキャリアパスとして大きな可能性を秘めているという

「アルプス仕様」へのカスタマイズをしなかった結果、他社からの要請につながる汎用性の高い仕様設計とノウハウを手にすることができたと3人は口を揃える。実際、すでに数社から導入支援サービスの受注がある。

「PowerCenterは非常に大きな基盤であるため、取り扱っているベンダーが多くない。そこにビジネスチャンスがあるわけです。われわれとしては、標準化を含めた導入ソリューションとしてサービスを販売していく方針でいます」(菊地氏)

グループ内のみならず対外的にサービスを展開する上で、ALSIの当面の課題は「販売チャネルの拡大」と「人的リソースの確保」だ。

「データ連携基盤の導入には1000万円~1億円のコストが掛かるため、1部上場クラスの会社の規模に限られる。今後、販売チャネルをどう拡大していくかが大きな課題です」(菊地氏)

同時に、ソリューションとしてサービスを提供するためには、要件定義や全体のプランニングを含めてできる人材を育てなければならない。

「ただ、PowerCenterの実装スキルは他の製品と比べて学習しやすく、技術を教育するノウハウもすでに確立しているため、エンタープライズ向けサービスのベーススキルを持った人材を採用し、PowerCenterの技術を教えるという方法もあります」(福田氏)

同社ではこうした観点に基づいて、データ連携基盤開発エンジニアを募集している。ベーススキルを活かしつつ、新たに専門性の高い技術を身につけることができる「データ連携基盤開発エンジニア」には、一開発者では終わらないキャリアパスとして今後、注目が集まってもおかしくない。

取材/伊藤健吾、鈴木陸夫(ともに編集部)