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スマホとTVの融合は今後どう進む? 音声認識技術のデモから生まれたアプリ『アニメスタンプ帳』開発秘話に学ぶ

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技術の進化により、TV番組を楽しむ方法は、ただ画面を眺めるだけに収まらなくなってきている。TVをファーストスクリーンとし、スマホやタブレットをセカンドスクリーンとして利用するアプリやサービスが増えてきているからだ。

アプリの起動と同時に音声認識が始まるシンプル設計
©Chuya Koyama,Kodansha/YTV,A-1 Pictures
©Gosho Aoyama/Shogakukan・YTV・TMS 1996

この夏、そんな流れを象徴するかのように、セカンドスクリーンアプリを用いたキャンペーンが読売テレビによって行われている。

夏休み 宇宙兄弟×名探偵コナン スタンプラリープレゼントキャンペーン』と銘打たれたその企画。

『アニメスタンプ帳 【宇宙兄弟×名探偵コナン】』というアプリ(iOSとAndoroidに対応)に放映中の音を認識させスタンプをため、集めたスタンプの数に応じたプレゼントに応募するというキャンペーンだ。

読売テレビが制作する、毎週土曜日に放映中のアニメ『宇宙兄弟』(17:30~)と『名探偵コナン』(18:00~)を対象としており、アプリだけでなく、データ放送とも連動。

スマホを持っていない人でも、放映中にTVでデータを受信することでスタンプをためることが可能となっている。

自主的な社内プレゼンがプロジェクトのきっかけ

今回、アプリ開発の中心として携わったのは、読売テレビ社長室メディア企画部の谷知紀英氏(一年前までは技術局:開発担当)。放送局のエンジニアである同氏は、技術をコンテンツに活かす方法を模索する中でこの企画が生まれたと語る。

「エンジニア側から企画書をあげても、なかなか技術を知ってもらうことは難しい。コンテンツに合わなければ見捨てられてしまい、もどかしい思いをすることが多くありました」

新しい技術をコンテンツに落とし込むには、予算や企画面など、いくつかの壁を乗り越えなければならない。そこで思い切った行動に出る。

「社内で技術のデモンストレーションを行ったんです。知ってもらう機会が少ないのであれば、無理矢理にでも触れ合う時間を作ればいい。社内メールでアナウンスをして、番組制作畑の人たちに集まってもらい、実際に技術を使用しているところを見せました。部署間をまたいでエンジニア側から自主的にプレゼンを行うのは、社内でもなかなかできていないことでした」

谷知氏がデモンストレーションに選んだのは音声認識技術。スマートフォンのマイクを利用したセカンドスクリーンアプリでTVの音を拾う様子を見せ、それが何か企画につながらないか、番組制作畑の人たちに投げかけてみたのだ。

反応は思いのほかすぐに返ってきた。

「デモンストレーションが終わった直後、宣伝部のスタッフから、企画に使いたい、と声を掛けられました。それがスタンプラリーという、今回の企画の提案だったんです。その場で、音声認識でスタンプがたまる仕組みにすればいいという話になり、開発に着手することに。いきなり、良いアイデアをもらえたのでうれしかったですね」

スマホの普及はテレビ業界の危機ではなく、むしろチャンス

音声認識技術には音に関連する技術開発を行うグレースノート製の『Gracenote Entourage (TM)(グレースノート・アントラージュ)』を採用。日本での実績はまだ少ないが、高い認識精度でアメリカを中心に世界中で利用実績がある音声認識技術だ。

「開発はアプリの開発会社であるイエローフレームさん、ネクストウェーブさんと共同で行いました。宣伝担当者から上がってくる、『小さい子でも使えるように極力シンプルなUI設計にしてほしい』といった条件をイエローフレームさんに伝え、方向性を定めるのがわたしの役目でした」

プロジェクトの進行とともに、社内でのセカンドスクリーンに対する意識は高まり、セカンドスクリーンを活用し、「放映時間外にアプリで行った動作をリアルタイムの放映に反映させたい」、「アプリ独自のコンテンツを充実させたい」といった声が各所から上がるようになったという。

デバイスの使い分け

by eshedg
競合するものではなく、デバイスそれぞれに役割を持たせる

「スマホやタブレットを、TVと競合するもの考えている人が多いことがその理由でしょう。でもわたしは、スマホやタブレットを敵だとは思っていません。スマホやタブレットの普及を、TV業界の危機としてとらえるのではなく、コンテンツを伸ばすチャンスととらえることが重要なんです」

同様のとらえ方は、TV業界全体に広がっている。そのことは、テレビ朝日の『LINK:s』やフジテレビの『フジテレビアプリ』、など大手キー局がこぞってセカンドスクリーンの自社サービスを開始していることからも見て取れよう。

重要なのは、一歩外へ踏み込み、技術の有用性を伝えること

そうした大きな流れの中、1人のエンジニアとして何ができるのか? 谷知氏は今回の企画誕生の流れが一つのキーファクターだと考える。

コンテンツをより活かすための技術提案がエンジニアには求められている
©Chuya Koyama,Kodansha/YTV,A-1 Pictures
©Gosho Aoyama/Shogakukan・YTV・TMS 1996

「今回のような企画の生まれ方を社内でもっと増やしたいです。そのためには、われわれエンジニアの側から、積極的に技術のデモンストレーションを行わなければなりません。次にプレゼンをするなら動画認識技術やAR技術ですかね。カメラ機能を駆使したセカンドスクリーンサービスに挑戦したいです」

エンジニアからの提案により、部署や放送局をまたいだ意見交換がTV業界全体で活発化すれば、セカンドスクリーンを押し進める推進力になることは間違いない。

同時にその流れは、コンテンツと技術のマッシュアップを加速させると考えられる。

「今までは技術者であるがゆえ、コンテンツの企画から一歩引いているところがあったかもしれません。ただ、今回のプロジェクト実現を通し、たとえ技術者でも、自分のスペシャリティーを周囲に伝える機会を持てば、コンテンツと技術をつなげることができるのだと学びました」

TV局のように大きな組織でも、エンジニアがプロジェクトの原動力となるチャンスは転がっていることを証明した谷知氏。あなたも自らの組織で証明してみてはどうだろう?

取材・文/長瀬光弘(東京ピストル)