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世界各国1位のスマホゲーム『Legend of the Cryptids』を生んだアプリボットが徹底する、3つの“当たり前”とは?

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(写真左より)アプリボットの取締役・浮田光樹氏と、取締役CCOの竹田彰吾氏

2012年5月に米国をはじめとする海外市場でリリースされたスマートフォン向けゲーム『Legend of the Cryptids』は、世界各国のライバル・アプリを押しのけ、米国App Storeのゲームカテゴリで1位の座についた。

『Legend of the Cryptids』は、美しいビジュアルとファンタジーな世界観で全米に旋風を巻き起こした

開発したのは、2010年に設立されたばかりの若いベンチャー企業、アプリボットだ。過去、米国のApp Storeで1位を獲得した日本発のスマホ向けゲームと言えば、片手で数えるほどしかない。群雄割拠のスマホ向けゲーム市場において、なぜ同社が世界的大ヒットを生み出すことができたのか?

「僕たちには、そんなに特別なことをしているという感覚がないんですね。『Legend of the Cryptids』をはじめとするゲーム・ラインアップをヒットさせるため、考え抜いた戦略を泥臭く実行しただけのことで、数字がその成果を物語っていると思います」

そう話すのは、設立メンバーである浮田氏と、同社が注力するクリエイティブ領域で指揮を執る竹田氏だ。注意したポイントを挙げた上で、「原則としては、これを徹底して行った結果」であるという。それが、以下の3つだ。

・クリエイティブを世界仕様にする

技術を世界標準に対応させる

・「最高」と「最速」の実現

世界で戦うために、世界各国のトップクリエイターとコラボ

まず、1つ目の「クリエイティブを世界仕様にする」という点について詳細を聞いてみよう。

「アプリボットには、日本だけでなく世界中のトップクリエイターが所属しています。ゲームアプリ専業ベンダーには、クリエイティブ関連の開発業務を外部に委託しているところが少なくない。けれども委託された外部企業にとって、最優先のゴールは“納期を守る”こと。ユーザーができあがったクリエイティブを見てどう感じるか、という重要な部分が抜け落ちてしまう危険性があります」(浮田氏)

浮田氏のコメントを受けて、クリエイティブ部隊を率いる竹田氏もこう語る。

竹田氏は、CCOとして世界各国のトップクリエイターたちを統括する

「このゲームがやりたい、とか、またあのゲームの続きをやろう、という気持ちにさせる要素はいろいろあるでしょう。ゲーム自体のシナリオかもしれないし、画面に登場する様々な動きやイベントの楽しさかもしれない。

でももう1つ、重要な要素があります。それは、ゲーム全体を覆う世界観。クリエイティブはまさにそこを決定付ける部分です。それを外部に任せていてヒットするわけがないと考えています」(竹田氏)

アプリボットは、日本のみならず世界各国のトップクリエイターと契約を結んでいる。彼らとともに、欧米には少ないファンタジーな世界観を持つカードゲームを作る上で、「どんなテイストで表現するのか」、「どういう方向性で作りこんでいくか」などについて、何度も検討を重ねたという。そこで誕生したのが、『Legend of the Cryptids』だ。

「一口にゲームといっても、国や地域によって好まれる絵柄はまったく異なります。日本には独自のアニメ文化で培われた世界観があるけれど、立体的な絵柄を好む傾向のある欧米では、日本で流通しているクリエイティブがベストマッチではない場合もある。だから、今回世界に向けたカードゲームを作る際にも海外で支持を得ているさまざまなクリエイティブをベンチマークし、それに負けないハイクオリティなビジュアルを実現させる必要があったのです」(竹田氏)

日本の“普通の通信環境”が海外では通じないことを理解しておく

国際的な「違い」については、クリエイティブ以外にシステム面にも表れるという。そこで浮田氏が挙げるのが、第2のポイント「技術を世界標準に対応させる」だ。

「技術は、わたしたちが作り出したい世界観を実現させるためのモノ」と語る浮田氏

「単純な例で言えば、海外の通信環境は日本ほど安定していないケースが多いです。ブラウザが重かったり、ゲーム内でのレスポンスがスムーズにいきづらかったりしてしまうと、ユーザーにストレスを掛けてしまいますよね。なので、描き込んだ絵柄をどうやって動かすのか、などといった課題を技術面でどうやってクリアしていくのかについては、わたしも竹田も激論を交わしながら解決しています」(浮田氏)

「技術ありき」の開発ではなく、最高のゲームを提供するための道具としてあらゆる技術を駆使する。言ってみれば、これこそがアプリボットの動きを加速させるのだろう。浮田氏はこんな例え話をする。

「薄過ぎるデジカメとか、大き過ぎるスマートフォンとか、そんなのが発表されたら話題にはなるでしょうけれど、持ちたいとは思いませんよね。わたしの担当は技術分野ですが、技術ありきではなく、ゲームの面白さ、ユーザーのニーズありきでサービスを考えています」

そのゲームは、「最速」で「最高」のモノを提供できているか?

最後のポイント、「最高」と「最速」の実現については、竹田氏はこのように話す。

「もともと、『最高か最速』という考え方がサイバーエージェントにはあるのですが、僕らはその両方を実現させたいと常に思っています。要するに、『その分野における最高のサービスを、最速のタイミングで提供する』ということです。日本で成功するための条件も、世界で成功するための条件も、この一点では共通しているのではないでしょうか」(竹田氏)

時間無制限でクオリティを追求しても、ユーザーは待っていてくれない。その間に、ほかのライバルが形にしてしまう可能性もある。だからといって未完成なものを慌てて出せばいい、というものでもない。

ゲームアプリならリリース後のアップデートでも勝負はできるものの、人気サービスのほとんどが初速で勝負が決まるというのも事実だ。

「リリース時にどこまでクオリティを引き上げられるか、も確実に問われるということです。そうなると、やはり決断すべきタイミングというのが出てくる。わたしにも竹田にも、それぞれ役割はありますが、『何がユーザーにとってベストなのか』を本気で考え、議論できることが第一です。エンジニアにもこの“ユーザー視点”は磨いていってほしいと思います」(浮田氏)

3つの“当たり前”を徹底した先に、熱狂できるかどうか

これら3つの“当たり前”を突き詰めていった結果、アプリボットは世界一のスマホゲームを生み出すことができた。

「優秀な技術者とともに、世界を震撼させたい」と2人は語る

「先に挙げた3つのポイントについては妥協はしていません。しかし、まだすべてのゲームが1位になれていないという現実もあります。それは素直に自分たちが未熟だからということを認識しています。

それでも、こういう僕らのカルチャーというか姿勢に共感する人間が少しずつ集まってくれているので、今後も組織を強化して、ヒットを量産していきたいですね」(竹田氏)

2人の言葉からは、社員のほとんどが20代という若いベンチャーには似つかわしくないくらいの「骨っぽさ」が滲み出る。

最後に、世界一のゲームを作るエンジニアに求められるマインドを1つ挙げてもらった。

「熱狂、ですね。自信の持てるものを作り上げた時、それを絶好のタイミングで出せた時、そしてユーザーにフィットしたことが数字で明確に出た時……。それぞれのタイミングで皆が熱狂できるチームでありたいと思っていますし、今、そういうチームが徐々にできあがりつつあります。世界中の人を震撼させるには、欠かせませんよね」

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴