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個人が技術的負債を抱えない会社がスケールする~えふしん氏をCTOに迎えた『BASE』の成長戦略【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、「30秒でネットショップを無料で簡単に作成」を謳うECサイト作成支援サービス『BASE』だ。弊誌にも寄稿してくれているえふしんこと藤川真一氏をCTOに迎えてもくろむ、同社のスケールアップ戦略に迫る。
(左から)CTO 藤川真一氏
CEO 鶴岡裕太氏
開発エンジニア 結城一生氏

「30秒でネットショップを無料で簡単に作成」を謳うECサイト作成支援サービス『BASE』に今夏、弊誌連載陣の1人であるえふしんこと藤川真一氏がCTOとして加わった。

BASEは、学生起業家の鶴岡裕太氏と連続起業家の家入一真氏により、2012年に創業。以来、右肩上がりの成長を続け、現在までに約10万店が開業し、そこでの購入利用者は数百万人に上るという。

Hello!!! My name is BASE. from BASE on Vimeo.

昨秋から今春にかけては総額5億円の資金調達に成功。今年5月には、藤川氏と同じくpaperboy&co.(現GMOペパボ)にルーツを持つ進浩人氏をCOOに迎えるなど、資金、人材獲得の両面で動きが活発化している。

そこには、次のステージへと進もうとするBASEの強い意思と、スタートアップがスケールするための、いくつかのヒントが見え隠れする。

長いスパンの計画を立てられる組織になるために

「長いスパンの計画を立てられる組織になるためには、僕が何の心配もなく現場を任せられる人が必要だった」と藤川氏へのオファーの意図を話す鶴岡氏

「長いスパンの計画を立てられる組織になるためには、僕が何の心配もなく現場を任せられる人が必要だった」と藤川氏へのオファーの意図を話す鶴岡氏

今年に入り、会社としてのフェーズがハッキリ変わってきたと、CEOの鶴岡氏は言う。

「昨年は分かりやすい競合の存在もあり、比較的やることも明確で、僕自身も含めて目の前にあるタスクをひたすらこなしていけばいいというフェーズでした。開発現場も徹夜はしょっちゅうでしたし、ノリでいろいろ作ってしまうのが当たり前の毎日でした」

業績は毎月伸びていた。ただ、「そこから先」を考えた時には、組織のあり方を見直す必要があった。

「会社の10年後、20年後を描くのも自分の役割。長いスパンの計画を立てられる組織になるためには、僕が何の心配もなく現場を任せられる人、僕の経験を拡張して未来図を一緒に作ってくれる人の存在が必要でした」

人選にあたり鶴岡氏が重視したのは、「自分より知識・技術があること」と「経営の経験があること」。モバツイやツイキャスでの成功体験があり、創業前から2年以上にわたって技術顧問を依頼していた藤川氏に白羽の矢が立ったのは、当然の流れだった。

そして6月末、藤川氏を口説き落とす会合の場。あるべき組織像について2人はとことん語り合った。

「BASEの生命線は、誰でも使える、めちゃくちゃ簡単、というところ。今まで難しかったことが簡単になる裏には当然、誰かの苦労があります。その一番が技術者であることは言うまでもありません」(鶴岡氏)

難しいことを、その苦労を見せないUIでどう実現するか。そのために必要となってくるのは、一にも二にもエンジニアの質だ。

BASEが会社としてスケールしていけるかどうかは、エンジニア個人が成長できる体制、エンジニアが働きやすい環境をいかに作るかに掛かっていた。

言語に依存しない、しかしあらゆる言語を使える技術者に

開発現場のリーダーを担うエンジニアの結城氏。技術顧問として見守ってきた藤川氏は、サービスを作る経験は結城氏本人が感じている以上に貴重な経験となっていると指摘する

開発現場のリーダーを担う結城氏

結城一生氏は、BASE創業1カ月後にジョインした古株の開発エンジニア。従来のBASEの開発体制、そして自身の成長について、次のように振り返る。

「これまではとにかく成果重視、スピード重視の開発体制でした。入社前に培った技術を使って、ひたすら目の前のことにあたっていたという感じ。成長という点については、あまり実感できていなかったというのが正直なところです」(結城氏)

しかし、「それは少し違うのではないか」というのが、これまでも技術顧問として現場を見守ってきた藤川氏の考えだ。

「確かに、言語技術的な話でいえば、結城のスキルはBASEに入る以前から持っていたものかもしれません。でも、彼は現場リーダーとして開発していたわけで、サービスを作るという意味での上積みが絶対にあったはずなんです。得られた経験の価値を明確化できていない現状がある」(藤川氏)

こうした発言の背景には、「業界構造的に、開発者のキャリアパスが言語とかフレームワークに依存しすぎている」という問題意識がある。「サービスを作った時の開発言語が5年後、10年後に足かせになるというおかしな現象が存在している」と藤川氏は言う。

「例えば、その会社でお金を稼いでいるのはPHPなのに、会社はブランディングも含めて別の言語の方を向いており、PHPに漂うのはオワコンムード、といったことがよくある。これをちゃんと整理できない限り、現場の開発者は納得して働けないでしょう」(藤川氏)

そこで、藤川氏がBASEで開発者に求めるのは、「言語に依存しない技術を身に付けること」と「あらゆる言語を使えるようになること」という、一見矛盾する2つの要素だ。

「いざ転職するとなった時に、面接で言語技術しかPRできないと、その人のキャリアが広がらない可能性がある。技術者出身のキャリアパスとして、プロダクトマネジャーになるという道も作っていきたいんです。そのためには、BASEだから得られる『サービスを作る体験』の価値を明確化することが重要になると思います」(藤川氏)

ただ一方で、「BASEがCakePHPを使っているからといって、PHPで閉じてしまってはまずい」とも考えている。

「BASEでも、いつ新規事業が興るか分からないし、それがPHPであるとは限らない。普段からちょっとずつチャレンジしていかないと、技術者としての幅はなかなか広がりません。メインのシステムはPHPであっても、サブシステムはRails、管理画面はPythonで書く、といったことがあってもいいと思っています」(藤川氏)

担当者の“特殊能力”を整理し、伝承する仕組みを作る

「特殊能力のようになっている社内の“当たり前”を整理し、伝承する仕組みを作っていくのが自分の役割」と藤川氏

「特殊能力のようになっている社内の“当たり前”を整理し、伝承する仕組みを作るのが僕の役割」(藤川氏)

8月1日の就任後、藤川氏がさっそく着手したのが、チームの文化を整えるためのコードレビューの導入だ。1日1回、チーム内の全員が手を止めて、1時間ほどかけて行っている。

「対象となっているコードの3分の1くらいにはフィードバックがあり、コードの修正・改善につながっています。人の書いたコードを見て、こういうふうに書けるのか、という発見がいくつもあります。今後はこういう成長できる機会が増えるのかな、と感じています」(結城氏)

知識の共有、1人に依存しない体制というのは、これからのBASEのテーマの一つのようだ。

前述したように、BASEの基本的なコンセプトは、誰にでも利用できる簡単さ。それは突き詰めれば、「ボタンが一つしかなければ迷わない」という発想につながる。

「技術を使って機能を増やす」一般的なエンジニア像とは逆に、「技術を使って機能を削る」のがBASEの文化だ。

その際に、「何が必要で何がいらないか」の判断はこれまで、プロダクトオーナーである鶴岡氏に一任されていた。「ここに、僕があえて今ジョインする価値がある」と藤川氏は言う。

「僕はこれまでいろいろな会社を経験してきました。だから、BASEの人たちが当たり前のようにやっていることが、他の会社に行けば貴重なスキル・経験であることを知っています。現在、鶴岡の特殊能力のようになっている“当たり前”を整理し、伝承する仕組みを作っていく。それができれば、会社も個人もスケールしていくのではないかと思っています」(藤川氏)

ネット上のあらゆる経済活動のBASEに

「いずれはインターネット上のあらゆる経済活動の入り口に」とサービスの未来を展望する鶴岡氏(右)

「いずれはインターネット上のあらゆる経済活動の入り口に」とサービスの未来を展望する鶴岡氏(右)

力強い翼を得て、鶴岡氏は次のようにBASEの未来図を思い描く。

「ネットショップを作る上での入り口として、BASEを必ず通ってもらうというカルチャーをインターネットに残していくことが大切だと思っています。BASEで売ってダメなら、その後には楽天にでもYahoo!にでも行ってもらってOKです。でも、入り口は絶対にウチを通ってもらえるようにしないといけない」(鶴岡氏)

その先には、さらなる未来も広がっている。

「それが確立できれば、カートに限らず、決済だったり金融だったり、インターネットでお金を使うときのファーストチョイスになり続けるということにもつながる。その時ようやく、インターネット上のあらゆる経済活動において、企業名でありサービス名でもある『BASE』になれると思っています」(鶴岡氏)

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴

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