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リンキン・パークとのコラボも開始!Beatroboに聞く、メジャー音楽レーベルとの提携を連発できる理由

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ソーシャル音楽共有サービス『Beatrobo』の開発・運営を行ってきたBeatrobo, Inc.が、今年10月末以降、スタートアップとしては異例といえる発表を連発している。

第1弾は、自社デバイスとして開発した『PlugAir(プラグエア)』のリリース。

スマホの左下に刺さる箱状のガジェットが、Beatroboの新戦略を支えるPlugAir

この四角いガジェットは、スマートフォンのイヤホンジャックに挿すだけで楽曲データをインストールすることができ、専用アプリに保有する楽曲をガジェット経由で他人にシェアすることも可能(11月20日時点ではiOSのみ対応)。いわばスマホ専用の「楽曲交換デバイス」となっている。

それと同時期に発表したのが、米Universal Music Groupの日本法人ユニバーサルミュージックと提携し、所属アーティスト「ハジ→」の新曲「 White Winter Love。 」をPlugAirで販売するというもの。メジャーレーベルとタッグを組んで楽曲提供を行うことで、PlugAirの生み出す新しい体験を音楽ファンに広めていくことを狙いとしている。

そして、11月20日に正式発表となった第3弾が、米のミクスチャーバンド「LINKIN PARK」とのコラボレーションで限定コンテンツを販売し、PlugAirのグローバル展開およびプラットフォーム構想を実現していくというビッグニュースだ。

リーダーのマイク・シノダ(右から3人目)は、PlugAirを「限定コンテンツをファンに提供するイノベーティブな仕組み」とコメント

LINKIN PARKは2000年のデビュー以来、ロックシーンを席巻し続けてきた世界的メガバンドで、映画『トランスフォーマー』シリーズの主題歌を担当していることでも知られている。彼らは独自のファンクラブを運営しており、今回のBeatroboとのコラボはこのファンクラブ経由で決定した。

具体的には、米のクラウドファンディングサイト大手『Indiegogo』で資金を集めながら、PlugAirをLINKIN PARKの公式ファングッズとして販売。限定配信動画や未公開楽曲、アプリ、グッズなどのコンテンツをファンに提供していく。Beatroboにとっては、文字通り世界展開を図る上で強力な“The Catalyst(=触媒となる人)”を得た格好だ。

Indiegogoの「LINKIN PARK×PlugAir」キャンペーンページ

畳み掛けるように新展開を打ち出すBeatroboだが、同社はまだ社員数10名以下という小さな組織。彼らはどのように、今回の提携&コラボを成し遂げたのか。CEOの浅枝大志氏は、「今年4月ごろから温めてきた構想がやっと今、形になった」と語る。

攻める時は一気に。著作権問題も解消する「スマホ時代のCD」構想

Beatrobo, Inc.のCEO浅枝大志氏

Beatroboとは、お気に入りの音楽をYouTubeから引っ張ってきて、プレイリスト化して視聴するというWebサービスである。特徴は、楽曲プレイリストを「ロボットアバター」として擬人化していること。Beatroboユーザーは、アバター交換=プレイリスト交換を通じて交流を図るなどの楽しみ方ができる。

浅枝氏は、かつてカセットテープやMDなどを用いて行われてきた「友人や恋人同士でのプレイリスト交換」を、ネット上で行えるようにしたいと考えてBeatroboを立ち上げた。

今回リリースしたPlugAirや一連の提携はリアルな世界での取り組みゆえ、一見すると創業ポリシーとは異なる部分で展開されているように感じるが、「根本となる考え方は変わっていない」と説明する。

「Beatroboが最終的に実現したいのは、多くの音楽ファンがオンライン上のプレイリストを通じて交流するという新しい文化の創造です。ただ、Spotifyのような定額制のストリーミング配信サービスが普及している欧米と異なり、日本ではプレイリストを作り、シェアし合うという楽しみ方がピンと来ないという人も多い。であれば、日本の音楽ファンにも分かりやすい形でプレイリスト文化を広める突破口として、まず“スマホ時代のCD”を作ろうと考えたのです」

つまり、一般になじみのある「CDの貸し借り」に近い形での音楽交流を、スマホで行えるようにと開発したのがPlugAirというわけだ。

同社は以前にも『BeatPlug(ビートプラグ)』というスマホ連携ガジェットを自作していたが、これはあくまでもYouTubeで作成したプレイリストを交換し合うものだった。

Beatroboが最初に開発したハードウエアである音楽交換ガジェットBeatplug

一方、PlugAirでは、前述のようにレーベルやアーティストとの提携によってJASRACでライセンスを得た楽曲を交換し合えるため、浅枝氏が言う「スマホ時代のCD」として販売することもできるようになる。

このアイデアが、今回の提携&コラボレーションを成功させた肝となっている。

レーベルやアーティスト側からすると、現状のインターネット社会は不正コピーが横行し、音楽産業を瓦解させる温床として語られがちだった。が、PlugAirは収録音源に固有IDを発行することによって不正な楽曲の授受をできないようにし、著作権にまつわる課題を解消した。

専用アプリには「自分が購入した楽曲リスト」と「他人にもらった楽曲リスト」を識別する機能が搭載されているので、例えば「自分で買った楽曲リストは全部聴けるけど、もらった音源は3時間で(ストリーミングが)消える」という施策が可能になるからだ。

「このやり方なら、試聴して良いと思った楽曲リストはお金を払って買うというユーザーが増えるかもしれない。レーベルやアーティストにも好まれる、Win-Winの形が作れると考えました」

さらに、やりようによって、レーベルやアーティストは楽曲購入者だけが持つ固有IDに対して限定コンテンツをプレゼントするなど、アプリ経由のデジタルマーケティングも可能になる。浅枝氏らBeatroboの面々は、今春にこの「スマホ時代のCD」構想を思い付き、地道にPlugAirの試作や各レーベルへの提携交渉を続けてきたという。

ユニバーサルミュージックとの提携やLINKIN PARKとのコラボレーションは、この戦略が実った形なのだ。

PlugAirでの楽曲提供第1弾となる「ハジ→」の新曲は、公式サイトで予約を募ったところ、たった5分ほどで販売上限の100個が完売したという。こうした実績が、ほかのレーベル・アーティストとの交渉を楽にするのは想像に難くない。「今後もっと多くの楽曲をPlugAirで提供できるように、今も各レーベルやアーティストとの交渉を進めている」と浅枝氏は明かす。

大型提携はあらゆるシーンで「差別化を積み重ねた」結果

LINKIN PARKとのコラボ用に特別に量産しているPlugAirのモデル

Beatroboのような音楽サービスが世の中で市民権を得て、かつマネタイズもできるようになるには、良質なコンテンツの確保が欠かせない。ただし、スタートアップはその企業規模やサービス継続への不安から、大手レーベルや有名アーティストとのコラボを実現しにくいのも事実である。

この高い壁を乗り越え、大型提携を連続して打ち出せた秘密は何だったのか。

浅枝氏によると、ユニバーサルミュージックとの提携もLINKIN PARKとのコラボも、あるイベントで偶然関係者と出会ったことがきっかけ。「運がよかった」と謙遜するが、その運は彼らの明確な行動原則によってもたらされた。

その原則とは、「スタートアップが生き残るためには、あらゆる部分で差別化を図らなければならない」という考えである。

「人に話して『聞いたこともない』と言われるようなサービスを運営しているスタートアップのCEOは、存在していないも同然」と言い切る浅枝氏は、サービス運営、ピッチコンテストへの露出、PR戦略etc.すべての面で、いかにしてアテンションを集めるかに腐心してきた。

サービスそのものの質やエンタメ性は最低限担保すべき事項として、例えばWebサービスなのに積極的にBeatPlugのようなガジェットを開発してきたのは、他社との違いを際立たせる打ち手だ。

また、浅枝氏はほとんどのピッチコンテストやITイベントにショッキングピングのBeatroboパーカーを来て参加してきたが、これも「決して僕の趣味ではなく(笑)、いかにBeatroboを覚えてもらうかを考えた結果」だという。

創業チームの面々。CTO竹井英行氏(写真右)とCo-founder小林陽介氏(中央)が着ているのがBeatroboパーカー

加えて、【音楽×IT】に関係しそうなイベントがあると聞けば、世界中場所を問わず、SXSWほか大小さまざまなイベントに参加してきた。

こうした「差別化」の積み重ねが良縁を生み、壁を壊す突破口を生み出した。そしてもう一つ、浅枝氏が重視してきたのは、ビジネス展開では欠かせないWin-Winの関係構築だ。

今回のPlugAirの開発・リリースでも、業界の内外にインパクトをもたらすには大手企業との提携や有名アーティストとのコラボレーションが必要不可欠だと考えていたため、どうすれば彼らに興味を持ってもらえるのかを徹底的に考え抜いた。

「その結果が、『スマホ時代のCD』構想であり、著作権問題への対応です。Beatroboが対等な立場でコラボレートしていただくためにも、業界全体が抱える課題をどうやって解決するのかを示すことが大切でした。そして、その戦略を実行に移せるエンジニアチームも。これに関しては本当に『人』に恵まれたと思っています」

一連のコラボ決定直後、年内にPlugAirを5000個作るという契約を結び、2014年には30万個を生産する計画だそうだが、ゼロから生産拠点となる台湾のメーカーを開拓し、現地に赴いて急ピッチで量産化を進めたのはCTOの竹井英行氏。WebベンチャーのCTOながらハードウエアの設計開発もこなせる竹井氏がいなければ、PlugAirは形にならなかっただろう。

また、イベント参加に提携交渉と世界中を飛び回る浅枝氏の下、コンセプト以外はほぼ現場判断で専用アプリの開発をやり切ったCo-founder小林陽介氏らアプリ開発チームの力も大きかった。

今回の一気呵成なコラボ戦略は、かねてから戦略、行動、技術力の3つで地道に差別化を図ってきたからこそ実現できたのだといえよう。

取材・文/伊藤健吾(編集部)