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BeatroboがローソンHMVエンタテイメントとの画期的提携を発表。それを支えた「ガジェット量産化」プロセスを大公開

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ソーシャル音楽共有サービス『Beatrobo』の開発・運営を行うBeatrobo, Inc.が、4月21日に資金調達と一風変わった事業提携を発表した。

その内容は、ローソンHMVエンタテイメント(以下、LHE)と Genuine Startupsから110万ドルの資金調達を実施しつつ、Beatroboが開発したスマホ用コンテンツ交換ガジェット『PlugAir』の特許使用権をLHEに提供するというものだ。

『PlugAir』とは、スマホのイヤホンジャックに挿すだけで楽曲データをインストールすることができるガジェットである。また、専用アプリに保有する楽曲を、『PlugAir』経由で他人にシェアすることもできる(弊誌が2013年に取材した解説記事は以下)。

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今回の提携が画期的なのは、この『PlugAir』の販路拡大を狙うだけでなく、デバイスやガジェット開発を手掛けるハードウエアベンチャーが抱える“ある課題”を解消するものだからだ。

CEOの浅枝大志氏は、まずビジネス面でのメリットをこう説明する。

「LHEは日本全国に50店舗あるHMV Japanを運営しているほか、ローソンチケットも展開しています。なので、例えばローソンチケットが限定販売するアーティストのライブチケットに、特典として限定コンテンツをインストールしたPlugAirを付けるような取り組みも可能になる。Beatrobo側からすれば、HMVや全国に1万以上あるローソン店頭という強力な流通チャネルを得た形になるのです」

では、この提携の何が、スタートアップの課題を解消するものなのか。

「製造原価」を抱えずに量産できる座組みを構築

「今回の提携では、PlugAirの特許使用権をLHEに提供することで、彼らもPlugAirの製造・販売を行えるようになっています。LHEはガジェット販売という新しいビジネスを展開できる半面、BeatroboはPlugAirを大量生産する際に必要となる原価を持たなくてもよくなるのです。実はこの点が、スタートアップであるわれわれにとって、非常に大きな意味を持ちます」(浅枝氏)

昨今、ガジェットやハードウエア開発に乗り出すスタートアップは年々増えているが、ビジネス展開を考える上で大きな壁となるのが「量産化」である。

3Dプリンタの発展やオープン・ハードウエアの台頭でガジェット開発のコストは劇的に下がったとはいえ、数万~数百万台レベルで製造・販売するには事前に製造原価を工場へ支払わなければならない。

仮にガジェット1個の製造原価が10円だとしても、1000万個作る場合は1億円の資本が手元になければ無理という計算になる。

「そこでわれわれは、PlugAirの販売料金のほとんどをLHEに譲渡する代わりに、製造原価も負担していただく形の契約を結びました。PlugAirの普及を最優先に考えた結果、このような提携内容にさせてもらったのです」(浅枝氏)

すでにBeatroboは中国・広州の常平(チャンピン)にある工場を拠点に数10~100万個レベルで『PlugAir』を量産できる体制を整えており、「その土台があったからこそLHEとの提携交渉が可能になったという面もある」と浅枝氏は明かす。

量産に向けた設計法を確立してあれば、LHEが別の工場で製造を行う選択をした際も、ノウハウや金型の提供がすぐに行えるからだ。

『PlugAir』の量産化で初めて知った、乗り越えるべき壁とは

Beatroboがここまでの体制を整えることができたのは、CTOである竹井英行氏の存在が大きかった。同氏は高専出身でハード&ソフト両方に精通しており、趣味でAndroid制御のミニ四駆なども開発している。

それでも、「プロトタイプづくりと数千個を作る際に必要な設計ノウハウが違うように、数百万個を作るのに必要な技術もまったく違った」と話す。

今回の取材では、プロトタイプから量産可能な状態にするまでの内部構造を撮影させてもらったので、その変遷を以下の写真でご覧いただきたい。

Beatroboが『PlugAir』の前に作っていた『Beatplug』(機能はこちら参照)。当初は、PlugAirもこの形で量産予定だった

竹井氏が作った『PlugAir』のプロトタイプ用ボード。まずは市販されている基盤やマイコンで動作確認を行った

次に、手で回路部品をハンダ付けして実物大のプロトタイピングを行った

次は、量産化を前提にプリント基板から設計し、形にしていく。右下が、初期段階で『PlugAir』に搭載していたマイコン

が、基盤とイヤホンジャックをつなぐワイヤー(上の写真参照)が量産時に問題となることが多く、結果、無線の仕様に変更。それに伴い、チップの配置レイアウトも変わるため、基盤と筐体も設計し直す

量産化に向けて、回路部品を乗せるプリント基板からジグ(工場の製造ラインで工作物を固定する際に用いられる道具)まで、すべてを竹井氏が設計したというから驚きだ。

現行ver.の『PlugAir』を製造する工場には日本語を話せる営業担当者がおり、「品質安定に向けた細かなやり取りもスムーズに行えた」(竹井氏)と言うが、プロトタイピングから実用化までの工程すべてを竹井氏自ら手掛けたからこそ、「細かなやり取り」が可能だったとも言い換えられる。

「僕自身、数百~数千個レベルで量産するのは初めての試みだったので、いろんな苦労がありました。例えば少数生産ではうまくいっていた回路部品のハンダ付けが、量産時にはコンマ数mmずれてしまい、使い物にならなくなるというようなケースもありました。そういった課題を一つ一つ工場側と共有しながら、不良をなくす施策を何度も行ってここまで進んできました」(竹井氏)

では、これからスタートアップが自社製ガジェットやデバイスを量産していく上で、気を付けるべき点は何になるのか。竹井氏の経験則から、3つのポイントを挙げてもらった。

【1】プロトタイピングは必ず「実物大」で

「新しいガジェットやデバイスを作る時ほど、実際にユーザーへ提供するモノと同じ大きさで作り、自分の手で触ってみることが大切。持ち心地や、プロダクトの存在感がはっきり分かり、それを元にプロダクトやアイデアを洗練させることができます」

【2】プロトタイピングの過程で量産化のノウハウも学んでおく

「量産は、実際に工場でやってみないと何が問題になるか分からない部分が多いものです。が、試作段階で『この筐体構造だと量産コストがかさむだろう』、『この機構は製造ラインでは再現が難しいはず』といった部分が少しでも想像できれば、手戻りが少なくなります。その観点で、量産化のノウハウを学んでおくと良いかもしれません」

【3】不良は必ず発生するので、コミュニケーションの取りやすい工場を探す

「PlugAirを製造している中国の工場は、認証チップの販売担当者に教えてもらって見つけました。先述のように、その工場には日本語の話せる担当者がいるので、とても助かっています。不具合率を下げるまでのコミュニケーションコストは馬鹿にならないなので、製造単価以外にもコミュニケーションコストに注目しておきましょう。不良などの問題の解決をわれわれと共にやっていけるかという、工場側の人間性・体質が重要だと思っています。その部分を慎重に見極めていくというのが大事ですね!」

取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/小林 正