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オンライン英会話『Best Teacher』が508日間で学んだ、サービスリニューアル「成功・失敗」の境界線

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日本でも続々と立ち上がりつつある教育ベンチャー。

その中でも、2012年5月にサービス提供を開始していたオンライン英会話の『Best Teacher』は、主に社会人の英語力向上を目的に、Edtechベンチャーとしては比較的早くからマーケットに進出している。

その『Best Teacher』が、今年10月1日にリニューアル。ver.4となる今回のリニューアルでは、ユーザーのスタンドアロンレッスン=自主学習をさらに支援するようなコンテンツを追加した。

もともと『Best Teacher』は、「自分だけのトークスクリプト(≒英会話の台本)を作れる」をコンセプトに、学びたいテーマに絞ってトークスクリプトを作るWritingレッスンと、そこで学んだ会話表現を実践するためのSkypeレッスンの2つを軸に運営してきた。

Writingレッスン&Skypeレッスンの先生となってくれるのは、同社が提携している世界中にいる外国人教師。そのため、ユーザーは時差をそれほど気にすることなく、Web上で小刻みに学べる点が売りだ。

株式会社ベストティーチャー代表取締役CEOの宮地俊充氏

同社代表の宮地俊充氏によると、ver.4のリニューアルではこうした特徴に加え、「WritingレッスンやSkypeレッスンの待ち時間にも自主学習を進められるよう、作成したトークスクリプトの弱点に連動した文法解説や、発音練習として英語圏で有名なフォニックス発音練習動画を追加した」という。

日々行ってきたユーザー調査や、各機能の利用状況を元に改善を図った形だが、「昨年5月のサービスのローンチから10月1日までの508日間、うまくいったこともうまくいかないことも両方ある感じだった」(宮地氏)と、必ずしも順調なスクール運営ではなかったという。

そのプロセスからは、Webベンチャーが必ず直面する「サービス改善」の苦労と葛藤が垣間見えた。

ユーザー行動が分かれたソーシャルラーニング機能。その理由は?

『Best Teacher』がこれまで行ってきたバージョンアップの歴史をまとめたものが以下の表だ。

宮地氏いわく、最初の山となったのはver.2のリニューアルだったという。

「この時は、オンライン学習の潮流となっていたモバイルラーニングとソーシャルラーニングの2つを取り入れるために機能を追加しました。ただ、モバイルラーニングは当たりましたが、ソーシャルラーニングは新し過ぎたのか、使用する方としない方に分かれてしまいました」

モバイルラーニングに関しては、普及率が日に日に高まるスマートフォンの利用を念頭に、ブラウザ最適化を実施。その結果、ブラウザ最適化リリースから2013年10月時点までの平均値で、同サービスのモバイル利用の割合はPCが70%に対してスマートフォン&タブレットが30%程度となった。

『Best Teacher』の特徴でもある「スキマ時間での学習」をうながすという意味でも、ある程度の結果が出ているといえそうだ。

では、ソーシャルラーニングの機能はどのように「評価が分かれた」のか。

「多くのユーザーが英語でよく間違う点は、日本人全員が英会話でつまづきがちな点ではないかという考えから、ほかの生徒のスクリプト(=各ユーザーが作成したWritingレッスン用のトークスクリプト)を閲覧できる『みんなの英会話』という機能を追加したんです。スクリプトをシェアするかは生徒さまの任意だったのですが、シェアしてくれる人としてくれない人が分かれてしまいました」

ほかにも、教師から出された課題への返答が分からない時、Twitterを通じてフォロワーに「教えて」とお願いできる機能なども追加していたが、こちらはほとんど使われることがなかったため削除したという。

SNSの普及で「集合知」の価値に注目が集まる中、『Best Teacher』も英語学習にソーシャル性を持ち込むことで学習スピードを高めようとしたわけだが、なぜユーザーの支持を得られなかったのか。

その理由を、宮地氏はこう分析する。

「『自分だけのトークスクリプトを作る』というコンセプトだからこそ、作成したトークスクリプトが個人的なものになるため、シェアしたくないと感じることが主な理由だと思います」

一方、ver.3で追加された「音声はMP3、スクリプトはPDFでダウンロード」できる機能は、「自分だけのトークスクリプトを作る」というコンセプトに合致している施策だ。

「これらの機能は、オフラインでも学習を進められるようになったという点で、ユーザーから好評を得ています。やはり、サービスの提供している本質的な価値を体現しているかどうかが、機能の人気・不人気を分けるのだと学びました」

大事なのは「すべてをデジタルに置き換えない」という考え方

オンライン学習サービスの担い手として「オンラインとオフラインの関係性」を語る宮地氏

こうして、多少の失敗も経験しながらサービスの本質的な価値を見直し、強化してきた『Best Teacher』。

だが、オンラインの学習サイトとして、社会のインフラとなるほどまで拡大するためには、オンラインのみで閉じないことが大切だと話を続ける。

「ver.4で提供を開始したスタンドアロン型のレッスンと、講師から学ぶインタラクティブ型の学習をより高次元で連携させることが今後の目標です。例えばプロのスポーツ選手は、日々自主トレを行いつつ、トレーナーから助言を得ることも重視します。英語学習もこれと同じで、自主学習と講師とのやり取りの両方があることでより学習効果を高められると思います」

プロスポーツ選手におけるトレーナーは、Skypeを通じてレッスンを提供する外国人教師に当たるように思えるが、宮地氏は「それだけではなくリアルな場との融合があると、より英語学習の効果が上がるはず」と唱える。

なぜなら、リアルな場において英語を話す際の緊張感やリアリティは、リアルでなければ味わえないものもあるからだ。

「Webを通じた学習サービスが増えてきたとはいえ、義務教育は教室で先生から対面で教わるスタイルですし、英会話市場の大部分はリアルの英会話スクールです。これまでの学習習慣はすぐには変わらない上に、リアルな場でのみ得られるメリットがあるなら、それを利用した方が学習効果を出せるケースもあるのではないかと思っています」

この視点に気付いたのは、リアルの英会話スクールに通っている知人から、授業でオンライン英会話を受講するよう推奨されている、という話を聞いた時だという。

対面で授業を行う英会話スクールでは、時間と場所を固定する分、通えなくなることもあるが、その場に行きさえすれば授業の時間内は英語を学ぶことに集中できる。一方、オンライン英会話はいつでもどこでもできる分、強制力が働きづらい。

「なので、例えば週1で英会話スクールに通い、そのスクールの講師やカウンセラーと話すことをペースメーカーにしながら、それ以外の週6日をオンライン学習に当てる形の方が、学習効果が出やすくなるのでは、と。『Best Teacher』でも、積極的にリアルの英会話スクールとの連携を行っていきたいと考えています」

オンライン英会話でリアルな学びをすべてリプレースするのではなく、オンライン英会話とリアルの英会話スクールをうまく連携させる。「すべてをデジタルで置き換えようとしない」という発想も、『Best Teacher』を運営してきた約500日で得た学びだと宮地氏。

これは多くのWebベンチャーにとっても参考になる“気付き”といえそうだ。

取材・文/伊藤健吾(編集部)