エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

僕らはロボット業界のAppleになれる~ユカイ工学が『BOCCO』を通じて見た未来

公開

 

2014年10月7日~11日、幕張メッセで最先端の技術を集めた展示会『CEATEC JAPAN 2014』が開催。ロボット技術の進歩から、出展されたロボットには人間に似せたリアルなものが多く見られた。

その中で、ある意味時代に逆行したともいえる、コミカルな動きとシルエットで注目を集めたロボットがある。ユカイ工学が作った『BOCCO』(2015年3月発売予定/価格は2万円前後とのこと)だ。

なぜ今、リアル志向の流れがあるロボット業界においてブリキ人形のようなある種レトロな風貌をした『BOCCO』を開発したのか。

その理由をユカイ工学代表の青木俊介氏、エンジニアの伊藤伸朗氏、プロダクトデザイナーの巽孝介氏に聞いたところ、その小さなボディには、青木氏をして「僕らはこの業界のAppleになるかもしれない」と言わしめた自信の理由がパンパンに詰まっていた。

デジタルな電気信号でアナログな「雰囲気」を伝える

(左から)ユカイ工学プロダクトデザイナーの巽孝介氏、代表の青木俊介氏、エンジニアの伊藤伸朗氏

(左から)ユカイ工学プロダクトデザイナーの巽孝介氏、代表の青木俊介氏、エンジニアの伊藤伸朗氏

『BOCCO』はおよそ文庫本サイズと小さいながらも、子どもの帰宅をセンサーで感知し、親のスマートフォンに通知を送ったり、テキストや音声を用いて親子間のコミュニケーションを取ることができる。

公開されているPVからも分かるように、『BOCCO』には特に親子間のコミュニケーションを支援する役割が期待されている。その思いは、東北弁で子どもを表す「ぼっこ」という言葉をもじったネーミングにも込められている。

このような見守りツールではカメラが搭載されているのが一般的。製品によってはカメラだけではなく、双方を映すディスプレイが付いているものさえある。『BOCCO』は見守りロボットでありながら、なぜカメラすら付いていないのだろうか。

「もしカメラ付いてるの忘れて、おかんが変なコトしてたらいやじゃないですか(笑)。っていう理由と、やっぱりカメラで見られているとお互い意識してしまって、疲弊してしまうというか」(青木氏)

「カメラが付いているとどうしても“監視”になってしまうんです。『BOCCO』はかっちり見守るというものではなくて、“雰囲気”を感じ取るツールと思ってもらった方が近いと思います。LINEの既読機能くらい、ゆるいものでいいと思うんですよ」(伊藤氏)

「LINEでも返信があるかどうか、既読になるかどうかで相手の置かれている状況が大体は分かりますよね。既読が付かなければ『あ、今は忙しいんだな』とか。人間には“空気を読む”力があるんですから、全部監視しなくてもいいと思うんです」(青木氏)

事実、『BOCCO』に付属されているセンサーは、部屋の電気がついているかどうかを検知する照度センサー、窓が開いているかどうかを検知する磁気センサー、部屋のドアを開けたかどうかが分かる振動センサーの3種類。どれもシンプルなものばかりだ。ライフログを取ったり、何らかの数値を収集するようなものは一切ない。

「媒介はロボットという無機質なものですが、『BOCCO』を通じて得られるコミュニケーションは、人間だからこそ感じ取れる“雰囲気”なのかもしれません」(巽氏)

そのかわいらしさは猫の動きを参考に

また、『BOCCO』はかわいらしい形と動きにも特徴がある。ボディのデザインを担当したのは巽氏だ。

幾度もの試作を経て、愛嬌たっぷりの形になったBOCCO

幾度もの試作を経て、愛嬌たっぷりの形になったBOCCO

「極端な話、録音・通知の機能だけ付いていれば、ただの箱の形でもいいんです。ただ、それでは味気ない。子どもたちが使うものなので、親しみが湧くものでなければいけないと思いました。だから、ハブとなる『BOCCO』はもちろん、3種類の付属センサーも積み木の形にしています」(巽氏)

動きをかわいらしく見せるためのプログラミングを担当したのは伊藤氏。伊藤氏は『BOCCO』の動きを考える際、キャラクターの動きなども参考にしたが、最も参考になったと振り返るのは自身の飼っている猫の動きだったという。

「デザインがシンプルなので、動きが多いとデザインに合わなくなります。そこで、限られた動きの中でかわいらしさを表現しようと参考にしたのが猫の動きでした。首を動かすタイミングだったり、上目遣いの見上げ方など、今思えば猫を飼う以前だったら絶対に思い付かないだろうな、と思います」(伊藤氏)

「ASIMOのCM見て泣いたんですよ」

LINEやFacebookなど、コミュニケーションを取るツールは世の中にあふれている。青木氏は、なぜ家族間のコミュニケーションを豊かにしようと考えたのだろうか。

「友人間のコミュニケーションに関しては、日中働いていてもFacebookなどのSNSを通じてしょっちゅう情報が流れ込んできます。しかし、SNSをまだやっていない年齢の子どもとのコミュニケーション手段がないことに気付いたんです。SNS上のおじさんがラーメン食べている情報なんてどうでもいいでしょ。僕もよく上げていますが(笑)。でも、本来はもっと重要なコミュニケーションがあるじゃないか、と以前から思っていたんです」(青木氏)

ロボットを介して、親子間を取り持とうと考える青木氏。青木氏がロボット製作を志したきっかけは15年前にさかのぼる。

「ロボットを作りたいと強く思うようになったのは1999年から放映されたASIMOのCMがきっかけでした。僕、あれ見て、泣いたんですよ。地下鉄の出口からASIMOが出てきて、その後を子どもたちが追いかけてくる。ただロボットが歩いている映像ではなく、人間とロボットが一緒に生きる未来が見えて、その映像にめちゃくちゃ感動したんです。その時、人と共存できるロボットを作ろうと思ったんです」(青木氏)

そのロボットを実際にコミュニケーションに用いようと思ったのは、大阪大学の石黒浩氏の影響が大きいのだという。青木氏は2008年、「未踏IT人材発掘・育成事業プロジェクト」に採択され、そこで石黒氏のアドバイスを受けながらロボットを開発していた。

「石黒先生もおっしゃっていたことですが、スマートフォンに通知が届いたとしても、その通知はそれを見ている人にしか分からない。ロボットに通知が届けば、少なくとも同じ空間にいる人には分かります。ロボットはコミュニケーションのハブになり得るツールなのだと、思ったんです」(青木氏)

新技術を家庭内に持ち込んだ会社がイニシアチブを取る

CEATEC来場者の反応から、BOCCO普及への大きな手応えを感じたと青木氏は振り返る

CEATEC来場者の反応から、BOCCO普及への大きな手応えを感じたと青木氏は振り返る

「丸一日充電して1時間しか動かないロボットって、実用的だと思いますか? とても人間に似ていて、複雑な動きができたとしても、そのせいですぐメンテナンスが必要になるロボットは果たして実用的と言えるでしょうか? だから私たちは『BOCCO』の動きを首の2軸のみにし、コンセントへの常時接続型にしました。タフで、より実用的なロボットを目指した形です」(青木氏)

値段を上げれば『BOCCO』に他の機能を搭載したり、より複雑な動きをさせることができる。しかし、それでは普及しないと青木氏は続ける。

「いろいろな機能が付いて10万円もするロボットより、コミュニケーションのみの機能で2万円の方が絶対売れます。Appleがコンピュータの分野で、任天堂がゲームの分野で巨人になれたのは、彼らがそれを家庭に持ち込む道をつけたからです。僕らはこの『BOCCO』によって家庭内にロボットを持ち込むことができるかもしれない。だから僕らはAppleになり得るんです」(青木氏)

そう力強く語る青木氏の目からは、『BOCCO』へのゆるぎない自信が感じられた。

取材・文/佐藤健太(編集部) 撮影/小林 正