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「パズドラ後」のゲーム業界を勝ち抜く開発スタイルを考える~バンク・オブ・イノベーション×フューチャースコープ

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ヒットの方程式は「やっぱ、ない」。

これは今年のゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC 2013』で、記録的ヒットゲーム『パズル&ドラゴンズ』を生んだガンホー・オンライン・エンターテイメント代表の森下一喜氏が講演で発した一説だ(参照記事)。

圧倒的なDL数を獲得したゲームを世に送り出すプレーヤーでさえ、ヒットの要因や次にヒットする要素を予測するのは困難と言う。ゲーム開発の難しさを象徴する言葉といえよう。

そんな中、モバイルゲームの世界は、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスの普及で、ブラウザからネイティブへの移行も進む。過渡期を迎えたこの業界を、生き残るためのヒントはあるのか?

その答えを探るべく、日韓台香の4カ国で人気の『征戦!エクスカリバー』など、早くからネイティブゲームでヒットを飛ばしてきたバンク・オブ・イノベーション(以下、BOI)と、パチンコ・パチスロアプリのヱヴァンゲリヲンシリーズなどで知られるフューチャースコープの2社に、モバイルゲーム業界の今後と、求められる開発体制について語ってもらった。

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(写真左から)フューチャースコープ代表の冨永政雄氏と、バンク・オブ・イノベーション代表の樋口智裕氏

BOI代表の樋口智裕氏は、学生時代から独学でプログラミングを学び、ゲーム開発を手掛けてきた文系出身のプロデューサー兼エンジニア社長。

かたやフューチャースコープ代表の冨永政雄氏は、一世を風靡した無料ホームページ作成サービス『魔法のiらんど』運営企業で取締役を務めるなど、ガラケー全盛時代からヒットコンテンツの担い手として活躍してきた。

ソーシャルアプリケーションプロバイダー(以下、SAP)として豊富な実績を誇る2社それぞれを率いる経営トップが見据える未来像とは?

1つの成功パターンが2度通用しない時代のあるべき開発とは

―― まずは現在のSAPを取り巻く環境について、お二方のお考えを聞かせてください。

冨永 ここ2~3年で急成長していたソーシャルゲームの世界は、いよいよ地殻変動が起き始めたような気がします。と言うのも、これまでって、ゲームをやる人、やらない人の層がはっきり分かれていたじゃないですか。

樋口 同感です。

冨永 それが『LINE POP』や『パズドラ』の爆発的なヒットで、これまでゲームをやらなかった人たちも一気にユーザーになりましたよね。かつては「ゲームは男の子がやるもの」という不文律があったのに、今は大人や女性ユーザーも抵抗なくモバイルゲームを楽しんでいます。

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『パズドラ』のような新種のメガヒットが生まれた結果、モバイルゲームのユーザー層は拡大

樋口 モバゲー、GREEの急成長もあってユーザーが増えた結果、モバイルゲームを開発・提供するSAPの数も膨れ上がった。でも、僕も冨永さんと同じく「地殻変動が起きている」と感じる理由は、ネットゲームの世界がだいたい3年おきに変化してきたからです。

冨永 というと?

樋口 アメリカでZyngaが台頭し、日本でもmixiでゲームアプリが楽しまれるようになったのが2010年の前後。当時はソーシャルゲーム黎明期というか、Facebookやmixiのような巨大SNS上で遊ぶゲームが流行りました。

その後、モバゲーとGREEの台頭でモバイル向けのソーシャルゲームが爆発的に伸びた。それがここ2~3年のトレンドだったとすると、現在は『パズドラ』のようなスマートフォンに適したゲームが人気を集めている。

冨永 そうですね。スマートフォンの浸透と歩調を合わせて、最近はゲームのグラフィックを含めた表現の進化が著しい。つまり、表現の幅が大きく、広くなった。これまではやはり、どこかガラケーの性能を引きずっていて……。

樋口 今のような思い切ったグラフィックや表現を盛り込めなかった感じですね。それが今は、デザインのこだわりだでけなく、良いUI・UXを追求しないとヒットも出づらくなってきた。

冨永 それに昨年の「ガチャ問題」を経て、課金モデルも多種多様なものへと進化しているでしょう? より小額で楽しく遊べるような仕組みづくりが大切というか、より複雑な戦略が必要になったという印象ですよね。

―― SAPとして、その「複雑な戦略」をどのように実行していくおつもりですか?

冨永 大前提として、一つ一つのアプリ開発におけるゲーム性へのこだわりがすごく求められているような気がします。これまでは企画主導で作られてきた部分もあったゲームの世界が、いよいよエンジニア主導になりつつある。

樋口 企画の話でいうと、2年前までの“カードゲームバブル”と違って、今は1つの成功パターンが2度通用しない難しさがありますよね。だから企画・開発に1年~2年かけたり、リソースや費用も以前の3~4倍つぎこむのが当たり前になっている。前は1本数千万円くらいあればそれなりのゲームを作れましたが、最近はタイトル1本の開発に億単位の資金を投入する会社もあります。

冨永 開発コストの高騰もあってか、以前なら「2番手」でも商売ができたのに、今は特定のジャンルで圧倒的なNo.1を狙わないと2番手にすら入れなくなった。

樋口 そうなんですよね。だから、タイトル1本1本において、細部に至るまで徹底的なクオリティーを追求して、良いものを作ることがポイントになる気がします。

開発期間が長くなった分、「2段階上の作り込み」が必要に

冨永 フューチャースコープ社内でも、前はプロデューサーの設計どおりに作っていればよかった面があったのですが、今は「(プロデューサーの)設計を開発でどう上回るか?」を合言葉に開発を進めています。

樋口 前は2番手戦略でも良かったから、ヒットゲームの類似タイトルでも、どこかが違っていればそこそこヒットしましたからね。エンジニアも、極端に言えばイベントとパラメータ調整だけ頑張ればよかった。

冨永 そう。それが今は、「どこにもない究極のモノ」を作ろうとする開発の体制がないと、戦えなくなっている。

樋口 確かに。

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往年の人気ドラマの現代版というコンセプトで開発された『必殺仕事人 ~お仕置きコレクション~

冨永 例えば当社が最近リリースした『必殺仕事人~お仕置きコレクション~』の開発では、当初目指していたリリース時期を2度ほど延期しました。より使いやすく、分かりやすいUIにするには、細部までこだわって作り込むべきだという判断で。

―― そうなんですね。

樋口 当社でも、9月11日にAndroid端末向けに配信を開始した萌え系ゲームの『ガールズ×マジック』は、1人1人のキャラクターの可憐な動きに徹底的にこだわりました。

―― 具体的にはどの辺を?

樋口 実際にプレイしてもらえれば分かりますが、それぞれに竹達彩奈さん、堀江由衣さん、伊藤かな恵さんなどの豪華声優陣を起用して、究極の可愛さを実現しつつ、ユーザーの操作に沿ってどのくらいキャラクターが心地よく動くかをトコトン追究しました。

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BOIが一球入魂で開発した魔法少女育成ゲームの『ガールズ×マジック

冨永 以前だったら、そこまでこだわらなくてもリリースしていた?

樋口 そうかもしれません。1番になれなくても、ある程度は売り上げを見込むことができましたから。でも今は、スマートフォンの性能も上がってますから、どこまで技術でスムーズなインターフェースを作れるかが勝敗を分けると思うんです。たとえ、ユーザーはそれに気付かなくても。

冨永 気付かないのがイコール、クオリティーだったりしますからね。

―― ただ、そこまで作り込みに時間をかけるとなると、各タイトルの切り口がリリースした時にはもう“旬落ち”になっているリスクもありませんか?

樋口 おっしゃるとおりです。それを防ぐためにも、わたしには、これまでの開発経験から1つの経験則がありまして。

冨永 興味深いですね。どんな経験則ですか?
(次ページへ続く)