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いよいよ形になり出した「クルマ版クラウド」、スマホ連動の可能性が花開くには【連載:世良耕太⑬】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー4』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

洗濯機がスマホと連動したり、コンデジがAndroidを搭載したりして話題を集めているようだ。コンデジのスマホ化は個人的に欲しい機能だ(AndroidではなくてiOS希望)。

今日もTwitter用にはiPhoneで撮影し、その場で更新。あとで更新するブログ用にはコンデジを取り出して同じ対象物を撮影した(きれいな画像を載せたいので)。やたらと汗をかいたのは、暑さのせいばかりはであるまい。

From Nisssan 手持ちのスマートフォンを使ってエアコン操作ができる機能も搭載している日産リーフ

From Nisssan

手持ちのスマートフォンを使ってエアコン操作ができる機能も搭載している日産リーフ

スマホに搭載したアプリでクルマのエアコンをリモート操作できることは、8カ月前の記事で触れた。電気自動車(EV)の日産リーフが取り入れた機能である。

エンジンを搭載したクルマにも欲しい機能だが、エアコンを安定的に作動させるにはエンジンを始動して発電を行う必要があるので不向きだろう。

人が乗っていないのに突然エンジンがかかり始めたら、事情を知らない周囲の人たちは驚くに違いない。事情を把握していたとしても、「人も乗っていないのにエンジンなんかかけて」と苦い顔をするかもしれない。

大容量バッテリーに蓄えた電力でエアコンを駆動できる電気自動車ならではの機能と言えそうだ。

何でもかんでもクルマとネットワークをつなぐ必要はないだろうが、「つながり」は欲しい。以前も述べたように、クルマに乗った途端、ドライバーや乗員は世界と断絶した状態で過ごさなければならないからだ。

日立オートモーティブシステムズ「EVアシストルート」の挑戦

From Hitachi 日立は「グローバルテレマティクスサービス基盤」というエコシステムの開発により、電気自動車のドライブ計画をサポート

From Hitachi

日立は「グローバルテレマティクスサービス基盤」の開発により、電気自動車のドライブ計画をサポートする

「準備はできている」と主張するのは、総合サプライヤーの日立オートモーティブシステムズである。実は日産リーフ向けのテレマティクスを裏で支えているのは同社。「EVアシストルート」はリーフ向けテレマティクスサービスの一つだ。

EVでドライブする際にネックになるのは航続距離だ。ガソリン自動車の場合は満タンで500kmは走るが、リーフはどんなに頑張っても200kmは走れない。実感としては100kmプラスアルファである。

実際問題、近くに充電施設がないと、遠出するモチベーションは湧いてこない。

そこをサポートするのがEVアシストルート機能だ。その時の充電状態ではたどりつけない目的地であっても、「途中にあるこの充電スポットで充電すればたどりつける」と教えてくれる。

計算するのはITセンターだ。このサービスは日本だけでなく、北米やヨーロッパでも始まっている。

日産リーフで利用できるEVアシストルートはクルマ版クラウドのはしりだが、まだまだ完全ではない。なぜなら、ルート探索機能はカーナビには搭載されておらず、自宅などのPCでルート探索をし、検索結果をクルマに転送しなければならないからだ。

車載ディスプレイは情報を映し出す「窓」に徹し、複雑な情報処理はITセンターが行うシンプルなつながりにはなっていない。日立オートモーティブシステムとしては将来、このサービスをカーナビに統合する考えを持っている。

すでに実用化されているiPhone連携の「さらに先」とは?

他方、スマホのアプリにはマップ機能があるのだから、これを車内に持ち込めばナビシステムは不要である。

車載アダプターを利用してスマホを固定すれば、乱暴ながらもクラウドを利用できる態勢は整う。これを発展させたのが、日立グループのクラリオンが5月に発表した(発売は6月上旬~7月上旬)、iPhoneのアプリをディスプレイに表示・操作できるカーナビだ。

従来からある日本型のカーナビ(オーディオ&ビジュアル機能とナビ機能が一体化したユニット)にiPhoneを接続するスタイルで、接続することにより、インターネットラジオや最新ニュース閲覧、天気予報、Facebook投稿チェック、Twitterタイムライン表示&つぶやき投稿も行えるようになる。

対応するアプリは順次増やしていく方向だが、内容は選別し、クルマの中で操作する機器・機能として安全が確認されたものを提供していく。

From Clarion iPhone用のスマートフォンコントローラー『Next GATE』のビジュアル

From Clarion

iPhone用のスマートフォンコントローラー『Next GATE』のインターフェイスイメージ

クラリオンは欧米型(ナビ機能に特化したユニット)の製品も発表している。アメリカ現地法人の作で、『Next GATE』と名付けられたそれは、ディスプレイに徹している。

欧米で主流のPND(ポータブル・ナビゲーション・デバイス)に似たスタイルに仕上げられており、シンプルなインターフェイスが特徴。iPhoneを接続した際、車載用アプリしか利用できないのは日本向け製品と同じだ。

日立オートモーティブシステムズは、カーナビにiPhoneをつなぐことがクルマ版クラウドの完成形だとは思っていない。自分たちはソリューションプロバイダーであり、プラットフォームや素材を提供するのが業務のスタンス。

BtoBtoCという取引形態のうち、最初のBに位置するのが自分たち。カスタマー(あるいはユーザー)が何を欲しているかは、2番目のBが考えてくださいよ、ということなのだ。

最重要視されるのは安全の保障。議論を尽くして有用なものを

といって、手をこまねいているわけではなく、「こんなこともできるんじゃないですか」と提案はしている。例えば、クルマは安心・安全・快適な走行を担保するために、車輪速や加速度やエンジンや冷却水の温度など、さまざまな情報を収集し、走行制御に活かしている。

すでに利用しているこれらの情報をクラウドに吸い上げて処理を行うことで、ある部品は劣化が激しいからそろそろメンテナンスが必要といった情報をクルマ側(あるいは販売店)に発信することが可能だ。

また、ステアリングホイールの操作具合やアクセルペダルの踏み込み加減、車体のふらつきをモニターすることで、ドライバーの体調や健康管理に活かすことができる。

まだある。ドライバーの気分次第で行きたい時に行きたいように移動できるのがクルマの魅力ではあるが、大型ショッピングモールにたどり着いた際などは、移動の自由を主張する必要はなく、いかに無駄なく駐車スペースを見つけ、効率良く駐車するかが重要になる。そんな時もクラウドの出番だ。

空いているスペースをクルマに教えるだけでもドライバーのストレスはだいぶ軽減されるだろうが、自動運転で空きスペースまで誘導する仕組みを構築すれば、もっと効率は高くなる。

ただし、クルマ版クラウドを推し進める際に欠かせないのは安全性の保証だ。

リモート操作によるエアコンのオン/オフに第三者の悪意が働いてもそう大事には至らないが、自動運転の指示系に悪意が働けば大事に至る。機能が高度になればなるほど、リモート操作や自動化に行き着くはずで、第三者による悪意のある行為をどう防ぐかが課題として残る。

それはそれできっちり進めるとして、クルマと何をつなげるのか、どうやってつなげるのか、何のためにつなげるのかは活発にBとBとで議論し、どんどんCに提示してほしい。

iPhoneが目の前にあれば「あれが欲しい」と言えるが、究極的にいえば、Cは何が欲しいか、何とつながっていたいのか、どんなふうにつながりたいのか、分からないのだから。