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メイカームーブメントはキャズムを超えるか!? Cerevo岩佐琢磨×CAMPFIRE石田光平が語る、モノづくりベンチャー躍進のカギ

公開

 

2012年も後半に差し掛かったころ、クリス・アンダーソンは言った。「3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタルツールの低価格化。そして、『Kickstarter』などのクラウドファンディングサービスの登場や、クリエイティブ・コモンズといったライセンスのオープンソース化。こうした文脈から、今後は誰でもどこでもモノづくりができる『メイカームーブメント』が広がっていくのではないか」と。

しかしながら、現在はまだその「兆候」でしかなく、メイカームーブメントが普及するにはもう少し時間が必要だと話す人は少なくない。では、ムーブメントの初期段階からメインストリームへと流れが変わる、いわゆる「キャズム超え」には何が必要なのか。

先日アメリカ・ラスベガス開催されたCESにて新製品『OTTO』の発表を行うなど、家電ベンチャーの先駆け的存在として活躍するCerevo代表の岩佐琢磨氏と、クラウドファンディングサービス『CAMPFIRE』を運営するハイパーインターネッツ代表の石田光平氏に、2013年の「メイカームーブメント」躍進のヒントを聞いた。

プロフィール

株式会社Cerevo 代表取締役CEO
岩佐琢磨氏

1978年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)を経て、2007年、ネット接続型家電の開発・販売を行うCerevoを創業。2013年1月には、新製品のスマート電源タップ『OTTO』を発表。2012年3月から、ガジェットに特化したクラウドファンディングサービス『Cerevo DASH』の運営にも携わる。Blog「キャズムを超えろ!」の和蓮和尚としても有名

プロフィール

株式会社ハイパーインターネッツ 代表取締役
石田光平氏

東京都出身。農力村を立ち上げ後、2011年、家入一真氏とともにインターネット大好き企業ハイパーインターネッツを設立。代表取締役に就任し、マイクロ・パトロン・プラットフォーム『CAMPFIRE』(キャンプファイヤー)の正式リリースを果たす。同サービスは、国内クラウドファンディングの草分け的存在

「キャズム超え」のヒントは、“ユーザー”を巻き込めるかどうか

―― 日本でもここ数年、オルタナティブなガジェット系イベントが人気を博したり、自ら開発に乗り出すスタートアップも増え始めています。特に2012年は、元『WIRED』誌編集長のクリス・アンダーソン氏が著した『MAKERS』の出版も重なり“メイカームーブメント元年”とみる向きもあるようですが、お2方はこの現象をどのようにご覧になっていますか?

岩佐 確かにメイカームーブメントをビジネスとしてとらえた場合、まだまだ十分とは言えませんが、確実に「来ているな」という印象があります。ただ、こうした動きが始まったのは2012年よりも少し前、2008年ごろだったのではないでしょうか。

―― 2008年ごろ、何が起ったのでしょう?

大手メーカーからの独立・起業を経験している岩佐氏。「広く一般にメイカームーブメントが伝わったのはクリスのおかげ」と話す

岩佐 小ロットのEMS業者や3Dプリンターによるラピッド・プロトタイピング業者が登場したこと、さらに『Alibaba』や『Digi-Key』、『チップワンストップ』のような、小口の部品供給業者が台頭し出したのがこの前後でした。同時に、ソーシャルメディアやECもこの時期を境に普及が本格化していきましたから、“作る”ところから“売る”ところまでを、ネットを介すことでお金を掛けずにできるようになったわけです。

2012年が“メイカームーブメント元年”と呼ばれるのは、あくまでこうした業界内での動きが、クリス・アンダーソンの著作を通して多くの人の知るところとなったからだと思います。その意味で、クリスには感謝したいですね。

石田 個人的な感想になりますが、僕は今の状況を“ムーブメント”と呼ぶにはまだ早いような気がしているんです。岩佐さんのおっしゃるように、作るための敷居が大きく下がったことは確かですが、単にモノを作ることと、メーカーとして作り、売ることとは次元の違う話。Cerevoのように、きちんとプロダクトアウトしている企業やチームは、まだ数えるほどしかありませんから。

岩佐 海外では良い事例も出てきているし、作るための制約もずいぶん減りましたから、もっとプレーヤーが増えてもいいと思うんですがね(苦笑)。その数が増えるペースが、少々遅いというのは感じます。

石田 もっとプレーヤーが増えて、ハードだけではなくコンテンツやサービスと一体となったプロダクトが登場してこないと、本格的なムーブメントとは呼べないでしょうね。

岩佐 iPhoneというハードウエアに、App Storeのようなサービスが加わることで、初めてユーザーも作り手も巻き込んで大きなムーブメントになるってこともありますからね。

石田 えぇ、そうです。でも逆に言うと、いくら世界観が優れていても、その上に乗るサービスやコンテンツに魅力がなければ、本当の意味でのムーブメントは起こらないとも思うんです。かつて話題になった『Second Life』はその典型だったじゃないですか?

岩佐 なるほど、確かにそうでした。僕らも気を引き締めないといけませんね。

石田 そう思います。

IT業界にあってハードメーカーにない、フリーエンジニア文化

―― 今、ひところに比べて制約は減ったのに、プレーヤーがなかなか増えないというお話がありました。その理由はどこにあるとお考えですか?

「フリー文化がなければフリーで活躍できる保証もない」という不安が先行し、メーカーの優秀なエンジニアたちは独立に二の足を踏むという

石田 日本だと優秀な人ほど大手メーカーの枠から外に出ない印象がありますがいかがですか? ベンチャー・スピリットが足りないというか……。

岩佐 それはあるでしょうね。それに加え、メカ設計にしても組込みソフトのエンジニアにしても、組織を離れてフリーで働くような文化、受け皿が社会にないというのも大きな理由だと思います。

石田 あぁ、なるほど。

岩佐 Web系のプログラマやデザイナーなら、実力があればフリーで食べていける状況はイメージしやすいですが、モノづくりの根幹を担うようなエンジニアには、残念ながらそれがない。実際はいるんですけどね。オーストラリアあたりでサーフィン三昧で暮らしている凄腕のフリー組込みソフトエンジニアみたいな人が。

石田 へぇ。そんな人がいるんですか!

岩佐 います、います(笑)。でも、そういう人はやっぱり少数派なんですよ。企業に属しているエンジニアからしてみたら、社会に受け皿がないから、外に出にくいというのが正直なところでしょうね。

石田 でも今、大手メーカーはいろんな意味で危機にさらされているって聞くじゃないですか? これからスピンアウトする人は増えると思うんですよね。

岩佐 そうですね。そういう人が増えた時のために、独立や起業という選択肢が現実的だと思える環境を作らないといけないと思って、石田さんと一緒に『Cerevo DASH』というプラットフォームを始めたんです。ここでは資金集め以外に、僕がCerevoで得たモノづくり開発にまつわるノウハウ・知識をどんどん提供しています。

―― 主にどんな相談が寄せられるのですが?

岩佐 ネットサービスを作っている人が、ハードウエアを絡めたサービスを展開しようと思い立って動いてみたものの、具体的にマテリアルをどうすべきか、またアセンブルをどこでやればいいか分からず相談に来られることが多いですね。あとは、学生さんや独立すべきか悩んでいるエンジニアの方からの相談、あとは長年ネット関連のベンチャーを経営されていた方がエグジットされた後、ハードウエア開発に乗り出すべく意気込んでおられる経営者から声をかけられることも多いです。

―― なるほど。

岩佐 これまでは個別にご相談いただくことも多かったので、『Cerevo DASH』などを通じて僕の持てる知識・ノウハウを提供していければなぁと思っています。

「プラットフォーマーとして、プロジェクト発案者へのサポートは惜しまずやっていきたい」と話す石田氏

―― 相談ベースから具体的なプロジェクトになっていくことも多いのですか?

石田 そうです。すでに複数のプロジェクトが動き始めていますよ。『Cerevo DASH』は、システムとしてのプラットフォームは僕たちが受け持ち、開発にかかわるノウハウをCerevoさんに提供してもらうことで、成り立っているガジェット開発者向けのクラウドファンディングサービスです。

僕たちとしてはプロモーションに力を入れつつ、使いやすいサービスにしていくことで、プレーヤー増加のサポートができればと思っています。
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