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アジアにWebサービスの市場がない3つの理由と、ChatWorkの世界戦略2.0 【SVで起業する④】

公開

 
ChatWorkの「SVで起業する」

ChatWork代表取締役
山本敏行

1997年中央大学商学部夜間部入学。2000年留学先のロサンゼルスにて実弟と共にEC studioを創業(現・ChatWork)。2004年の法人化以来「社員第一主義」を貫き、労働環境の改善に努めた結果リンクアンドモチベーションが行う組織診断において、2年連続「日本一社員満足度の高い会社」に認定される。現在は自らシリコンバレーに居を移し、『ChatWork』普及に向け奮戦している

こんにちは。ChatWorkの山本敏行です。本連載の最終回となる今回は、10月24日から1週間ほどシンガポールへ行って気付いたこと、そして将来に向けて取り組むべきだと感じた新たな課題についてまとめてみたいと思います。

そもそも、僕たちがシンガポールへ行くことにしたのは、現地で開催される教育系イベント『MobiLearnAsia2012』に出展するため。シンガポールは日本、シリコンバレーに続いて、アジア進出の拠点として注目していた場所です。そして何より、前回お伝えしたように、『500 Startups』で活躍するインド人起業家から言われた「アジアはお金にならない」という話の真偽を自分たちの目で確かめたかったから。

シリコンバレーにやってくる前から、「アメリカで学び、日本で作り、アジアで売る」という考え方をChatWorkの基本戦略としてきた僕らにとって、自分たちの目で市場を測ることはとても重要です。

アジア市場がお金にならない3つの理由

Facebookページの「ChatWorkシリコンバレー挑戦記」でも、アジア戦略について具体的な話を展開している(写真はFacebookページより抜粋)

実際にシンガポールに1週間ほど滞在して感じた率直な感想は、彼の言った通り「アジアはお金にならない」ということでした。

「シンガポールのマーケットを狙うと言っても人口が少な過ぎるし、ほかのアジア諸国はWebサービスにお金を出すほど成熟していない。つまりネットビジネスとしてのマーケットが存在していないから、まずはアメリカで売る方法を考えるべきだ」という彼の主張は、おおむね間違いないと言えるでしょう。

実際に、最近シリコンバレーでは「アジア市場の熱さ」を信じてアジア進出を試みたITスタートアップがあえなく撤退する、「シリコンバレー回帰」とも言うべき現象を目にすることも少なくありません。

僕が実際にシンガポールに滞在して、いろいろな方からのお話などを踏まえてみると、「アジアがお金にならない」理由は以下の3つの点にありそうです。

①アジア全体の人口は多いが、そもそも市場が小さい
②社会インフラが先進国ほど整っていない
③Webサービスにお金を払う習慣がまだない

①については前回の記事でも少し触れましたが、シンガポールや台湾など、ビジネスの土台が整っている国はあれど、そのほかの国はまだまだ。さらに、②に関して言えば、アジア諸国にはいまだに住所すらない地域がたくさんあります。これらの社会インフラが整っていないのに、Webビジネスを拡大していくのは難しいでしょう。

③もその延長線上かもしれませんが、多くのアジア諸国では、日本やアメリカのようにWebサービスやクラウドサービスに対してお金を支払うということ自体に抵抗感があります。もっと言えば、理解さえできないように感じます。お金を払うなら無料のもので済ませてしまおうという社会的にも、まだ有料のWebサービスの必要性があるフェーズではない、という印象が強いですね。

異なるマーケットでの実績を手土産に、SVで戦う

ただし、だからといって「これからアジアのマーケットは無視しましょう」という簡単な話ではないとも思うのです。

というのも、シンガポール渡航初日に、現地メディアの『Tech in Asia』や『SG Entrepreneurs』、『e27』への記事掲載をはじめ、政府系の投資機関や通信キャリアなど、『ChatWork』に関心を持った現地の方々が、次々と有力な人物や企業を紹介してくださり、つながりを持つことができたんです。

そこで、2日間開催されていた『MobiLearnAsia2012』は初日だけで切り上げ、2日目はシンガポールの現状を探る上でキーとなる人たちと会うのに費やすことに。初日の予定以外なかったはずのわたしたちでしたが、本当に多くの方とつながることができました。

この出張期間中で、つくづく感じたのはシンガポール人のオープンで親切な応対。中でも義理堅さは日本人も真っ青といった印象です。

もちろん、シリコンバレーにもオープンな人は少なくありません。でも『ChatWork』を「良いサービスだね」と褒めてくれる人でも、その後、使ってくれた形跡がなく残念に思うこともありましたが、シンガポールで出会った多くの人は違っていました。

From Vu Pham in Vietnam
いまだ発展途上の国が多いアジアの中で成長著しいシンガポールは、親日派としても有名だ

デモを見た直後にちゃんとサインアップしてくれるし、使った上で具体的な意見や要望を寄せてくれる人がほとんど。また会いたい人がいると相談を持ちかければ、何とか自分の人脈を駆使してつなごうとしてくれるのも、シンガポール人の温かいを感じさせてくれました。

こうした出来事を踏まえて強く感じたのは、彼らとの関係をさらに強めながら『ChatWork』の知名度を上げ、マーケットの成熟度合いに応じて開拓していくことへの可能性です。多少時間は掛かっても、アジアという異なるマーケットでの経験や実績をシリコンバレーや日本で環流させることができれば、『ChatWork』が国際的なサービスに成長する可能性も見えてきます。

ChatWorkの海外戦略も「アメリカで学び、日本でつくり、アジアで売る」という戦略から、アジアより先にアメリカやほかの英語圏でいかに売るための戦略に転換する必要はありそうですが、実際に自分の目と耳でマーケットの現実を見なければ、こうした判断を下すのはもう少し先のことになっていたのかもしれません。
(次ページへ続く)