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「中小企業の国際化に先鞭を付けたい」ChatWorkがシリコンバレーに拠点を構えた理由【連載:SVで起業する①】

公開

 
ChatWorkの「SVで起業する」

ChatWork代表取締役
山本敏行

1997年中央大学商学部夜間部入学。2000年留学先のロサンゼルスにて実弟と共にEC studioを創業(現・ChatWork)。2004年の法人化以来「社員第一主義」を貫き、労働環境の改善に努めた結果リンクアンドモチベーションが行う組織診断において、2年連続「日本一社員満足度の高い会社」に認定される。現在は自らシリコンバレーに居を移し、『ChatWork』普及に向け奮戦している

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ネットでも話題になった、山本氏自らが書いた社名変更と海外進出への思いを込めたブログエントリー

こんにちは。ChatWorkの代表、山本敏行です。今、僕はアメリカのシリコンバレーに来ています。目的はカンファレンスへの参加でもGoogleやApple本社の見学ツアーに来てるのでもなく、ここシリコンバレーでスタートアップ起業に挑戦するためです。

今年の2月ごろから始めた就労ビザ取得手続きやオフィスの確保、法人登記、住居の手配といった諸々の手続きもようやく終わり、8月から米Microsoftやアメリカのスタートアップでの勤務経験がある井伊秀和と一緒に、弊社が展開するクラウド型ビジネスチャットツール『ChatWork』のマーケティングやプロモーション活動を始めています。

現在も、日本から応援に駆けつけてくれたメンバーたちと『TechCrunch Disrupt San Francisco 2012』に参加しています。多くの来場者を相手に『ChatWork』のプロモーションを行ってきたのですが、そこでの出来事はこちらのレポート(※上のリンク)に譲るとして、今回はなぜ日本の中小企業である僕たちがシリコンバレーで起業するに至ったのか、まずはその経緯についてお話ししたいと思います。

<そもそもChatWork(旧・EC studio)とは?>現・代表取締役の山本敏行氏が米国ロサンゼルス留学中の2000年に創業。2004年から国内の中小企業に向けたIT化支援サービスの提供を開始する。「電話なし」「ペーパーレス」「顧客と会わない」など、ITやインターネットの利点を最大限活かすべく独自のビジネススタイルを貫きつつ、その効能やノウハウを顧客に提供している。2012年4月には中核事業の分社化や無償譲渡を進め、創業以来12年間親しんだ社名を『ChatWork』に改める。同時に国内の中小企業のグローバル化に筋道をつけるべく米国進出。シリコンバレーから世界を狙う。

 

アメリカ出張で感じた日本との大きなギャップ

さかのぼること12年前。現在のChatWorkの前身であるEC studioは、ここアメリカのロサンゼルスで誕生しました。なぜアメリでの創業かというと、僕がこちらに留学していた時、プログラムが得意だった弟の力を借りて始めたサービスだからです。

当初はホームページの売上アップ支援から始まった業務も拡大し、国内で日本の中小企業のIT化を支援するサービスが大きなウェイトを占めるようになりました。

言うなれば、僕たちの会社はアメリカ生まれの日本育ち。”帰国子女”みたいな会社なんです。そんな創業の経緯もあって、国内に拠点を移してからも毎年1度はシリコンバレーを訪ねることを継続していました。2005年にはじめてシリコンバレーを訪問してからずっと、日本企業がアメリカ法人を設立し、シリコンバレーで成功するのが僕らの目標になっていたんです。

世界進出を目論むChatWorkの武器、『ChatWork』は、日本ではnanapiや船井総研

リリースから1年半で約10万ユーザー(2012年9月時点)を獲得した『ChatWork』。nanapiや船井総研、京都大学なども導入している

そんなシリコンバレー訪問も5回目を迎えた2010年。長年蓄積してきたリサーチの集大成として、僕たちはメールの不備を改善できるような新しいサービスの開発を始めました。それが昨年3月にリリースしたクラウド型ビジネスチャットツール『ChatWork』です。

この製品は企画当初からグローバル展開を前提に企画していたこともあり、リリース3カ月後の2011年6月にはサンフランシスコで開催される『SF New Tech』というイベントに参加することが決まっていました。

当時アメリカは、日本より一足先にスタートアップバブルがピークを迎えていたこともあって、現地に赴きプレゼンを終えると、資金提供を申し出てくれるVCや個人投資家に声を掛けられました。

でも僕たちが当時欲しかったのは、資金より現地のユーザー。幾人かの協力者に『ChatWork』への意見を求めたところ、意外なことが分かってきました。

アメリカはクルマ社会。その徹底ぶりは当然知っていましたが、日本では必須と思っていたスマートフォンアプリのオフライン機能に興味を持たれないのは盲点でした。地下鉄に乗る機会が少ないからです。

それに、日本ではあれだけ多かったスマートフォンからの利用も、こちらでは車通勤が多いため利用できない人が多数。

データ通信カードの所有率も思ったほどないようでしたし、街中であってもWi-Fiに接続するのは一苦労です。家でも外でも常時接続が当たり前だと思っていた僕らににとって、カルチャーショックを受けることばかりです。ここに来て、アメリカ人のライフスタイルはことごとく日本と違っていることに改めて気付かされたのです。

2カ月の”社長インターン”が、SV進出を後押しする

「アメリカの会社で働かないと!」

アメリカ人の働き方を知るには、アメリカの会社で働く以外にないだろうと考え、さっそく『SF New Tech』の主催者の1人であるブランドンさん(Webコンサルティング会社btrax・CEO)にインターンさせて欲しいと相談したところ、「社長自らインターンですか? 今まで学生以外は受け入れたことがありませんが…分かりました。良いですよ」と呆れながらも受け入れてくれました。

その後、いったん帰国して準備を整えてから渡米し、btrax社長室の一角に席を用意してもらい、2カ月間のインターン生活の始まりました。そんなある日、会議に参加させてもらうことになった僕は、改めてカルチャーギャップを感じます。

別会社の社長であるものの、btraxではインターンであることには変わりありません。会議の場に同席させてもらった時なんかは、部屋の隅でおとなしく、活発に交わされる議論を眺めていたんですが、会議に参加しているメンバーの僕に対する視線が少しおかしいことに気が付きました。

どうやら、「君はさっきから黙ってるけど、この件についてはどう思う?」と意見を求められるじゃありませんか(笑)。日常生活レベルの英語力で業務のことも把握していないにもかかわらず、会議に参加すると意見するのが当然という空気。

あとになって、これが世に聞く「No voice no attendance」なんだと気付いたのですが、会議のやり方1つとっても日本と違うなと思いましたね。

それに、どんなに忙しい日でも、夕方になればスタッフは帰宅し、家族と食事を終えてから自宅で仕事をするという人がとても多いことにも驚かされました。日本でも同じような仕事をしていましたが、日本と考え方もやり方も全然違っているんです。

それまでは、インターネットで世界中とつながっているんだから、日本にいながら世界を狙うことだってできると思っていました。でも、ブランドンさんの会社で2カ月間過ごした結論は、「世界で戦うには日本に住んでいては分からないことだらけだ」ということでした。

やっぱり、世界に挑戦するならシリコンバレーに腰を据えないとマズい。そう思うようになりましたね。ここから「移住」というキーワードが、僕の中でリアリティーを持ち始めたんです。
(次ページに続く)