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誰もが「作り手」になれる時代、エンジニアの存在価値とは?~『MAKERS』著者クリス・アンダーソンに聞く【キーパーソンインタビュー】

公開

 
インターネットをはじめ「ビットの世界」で起きていたオープンソースによる破壊的な変化が、「アトムの世界」にも起こる。そんな前置きで各種製造業のオープン化を示唆した著書『MAKERS』が話題を呼んでいる。この本の著者は、『ロングテール』や『フリー』といったベストセラーで知られるクリス・アンダーソン氏だ。希代のビジョナリストは、「誰もがメイカーズ=作り手になれる時代」の到来で、世の中が、そしてエンジニアの存在価値がどう変わると見ているのか?『WIRED CONFERENCE 2012』で来日中の同氏を、編集長の伊藤健吾が訪ねた。
プロフィール
Chris-Anderson

US版『WIRED』編集長 3D Robotics Inc. Founder
クリス・アンダーソン氏

ロングテール』や『フリー ~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』といった世界的名著を持つビジョナリスト。『ネイチャー』誌や『サイエンス』誌、英『エコノミスト』誌の編集者としてテクノロジー~ビジネスまで幅広い記事を手掛け、2001年から現職。今年11月、自ら立ち上げたオープン・ハードウエア企業3D Robotics社CEOに専念すると発表

>> アンダーソン氏の新著『MAKERS』の概要が分かる記事はコチラ

―― 今日は来日したばかりでご多忙のところ、貴重なお時間をありがとうございます。

いえ、とんでもない。

―― アンダーソンさんの新著『MAKERS』を読ませていただきました。これまでの著作である『ロングテール』や『フリー』で語られてきた「ビットの世界での変化」が、いよいよ「アトムの世界(物質社会)」にも革命を起こすという内容は、とても刺激的でした。

さっそく読んでくれてありがとう。

―― そこで今日伺いたいのは、ズバリ、どうすればあなたのようになれるのか? ということです。

興味深い質問ですね。

―― アンダーソンさんは“メイカーズ”として、すでにご自身で立ち上げた3D Robotics社で事業を始め、数億ドル企業に成長させています。どうすれば日本の読者もメイカーズになれるのか、体験談を通じてアドバイスをいただければ幸いです。

分かりました。『エンジニアtype』の読者はエンジニアということなので前置きをしておくと、今起こっているメイカームーブメントは、エンジニアたちの世界にもこれまでと異なるパラダイムシフトを引き起こすと考えています。

なぜなら、このメイカームーブメントは「スキルを持たない人たち」にモノを生み出すチャンスをもたらすからです。

エンジニアとは「スキルを持っている人たち」ですから、現時点でもうメイカーズです。それが、3DプリンタやCNC装置、レーザーカッターといったデジタル工作機械を安く簡単に使えるようになったことで、専門スキルを持たないわたしのような人でもメイカーズになれる時代が来ました。

例えばつい最近、無償の3次元CAD『Autodesk 123D』が出ましたが、このソフトを使えば子どもでもiPadを使ってCADデザインができます。皆さんにとっての重要な変化は、まさにこの部分にあるといえるでしょう。

これまでは専門の学位を持っている人や複雑なCADシステムを理解している人たちにしかできなかったことが、ちょっと勉強すれば誰にでもできるようになったのです。

プロのエンジニアは「コミュニティの指南役」としての価値を持つように

―― そうなると、これまで製造業でエンジニアをやってきた人たちは、スキルを持っているだけでは職業的な価値を生み出せなくなります。「メイカーズの時代」が来ても価値を持ち続けるエンジニアと、そうでないエンジニアの差はどこで生まれるのでしょう?

Chris01

自身も参加するオンラインコミュニティでの経験から「プロとアマチュア」の違いを話す

わたしが興した3D Robotics社の話をしましょう。3D Roboticsには、ラジコン飛行機の開発・製造をプロフェッショナルとして行っているエンジニアと、専用のオンラインコミュニティ『DIY ドローンズ』に参加するボランティアのエンジニアがいます。

ボランティアで参加している人は、日ごろ別の仕事を行っているアマチュアで、広告代理店や銀行に勤めている人たちが手探りで技術を学びながら開発に参加しています。

では、プロフェッショナルなエンジニアは何をやっているか。一言で言えば、コミュニティに参加するアマチュアの指南役です。

この役割はとても大切で、プロとして学んできた開発のベストプラクティスをアマチュアエンジニアに教えたり、自分たちが研究した改善方法をコミュニティ内に発信したりするのです。

―― つまり、メイカーズとしてコミュニティに参加する人たちを「教え導く」のがプロの仕事になると?

ええ、そうなっていくと思います。

―― その際に問われる「ベストプラクティス」というのは、個々人の経験則によって生み出されるものだと思うのですが、自らの経験則を使ってイノベーションを生み出せる人と、単なるチームマネジメントに終始してしまう人の差は何だと思いますか?

その質問は答えづらいですね……。そもそも論として、わたしは今の世の中がすでに“Too much innovation”だと思っているからです。

オンライン上のコミュニティを覗いてみると、今は至るところにイノベーションの種があって、多くの人がこれから求められるイノベーションについて議論をしています。つまり、イノベーションはすでに数多く生まれているのです。

だから、プロフェッショナルなエンジニアが考えるべき問題は、イノベーションを「生む」フェーズにはない。むしろ求められているのは、さまざまなところで語られているイノベーションのアイデアを、「商品」に変えていくためのプロセスづくりだと思います。

Square創業秘話に見る、オープンイノベーションで問われる資質

―― ではそのプロセスづくりに関連して、質問の切り口を変えてもいいですか?

ええ、どうぞ。

―― 『MAKERS』の中で、これからのモノづくりにおけるオープンイノベーションの重要性を語っていましたが、異なるバックボーンを持つ人たちが入り交じるコミュニティ内で共創(コ・クリエイト)していく際に大切な要素とは何なのでしょう?

Chris02

本誌取材は『WIRED』日本版のインタビュー後に行われたこともあり、和やかな雰囲気の中で進んだ

とても良い質問ですね。どうすればオープンイノベーションがうまくいくのか? については、わたしたちのコミュニティでも何度も議論してきました。

その経験から言うと、これからプロフェッショナルなエンジニアに求められるのは、やはりマネジメントスキルだと思うんですね。

エンジニアとして自分でモノを作れるのは「当たり前のこと」として、プロとしてやっていくには先ほども話したようにコミュニティ内のオーガナイザーとしてメイカーズを導くことが問われるようになっていきます。

コミュニケーションスキルやリーダーシップ、コミュニティを活性化させる材料をきちんと準備する、といったようなソーシャルスキルが、より強く求められるようになるでしょう。

そして、さらに大切なのは、こうした能力を通じて自分のかかわるコミュニティからベストなソリューションを引き出し、商品として形にしていくことです。ここまでの流れを生み出すことが、プロのエンジニアの役割になります。

―― 本著に記されている「ジャック・ドーシーのSquare創業秘話」にもありましたが、いわゆるギークな人たちにとっては、このソーシャルスキルを身に付けることが鬼門になったりしませんか?
(編集部注:『MAKERS』によると、Squareの共同創業者となったドーシーとジム・マッケルビーが初めて待ち合わせをした時、仕事中だったマッケルビーに遠慮してか、青年ドーシーは目の前にいながら30分間一言も発せず棒立ちで待っていたという)

そうかもしれません。ギークな人ほどソーシャルスキルが低いというのは、いわば彼らの欠点、課題でしょう。

21世紀型のイノベーションモデル~つまりオープンイノベーション~では、チームワーク、コミュニケーション、ソーシャル(=人とのつながり、かかわり)から新しいモノが生み出されていくので、自分の殻に閉じこもったままのギークは、今後チャンスが限定されていくと思います。
(次ページに続く)