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「今のゲームは大半がつまらない」シーマンやドラクエを作ったプロデューサーが集結してスマホ向け新ゲームを開発中

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From lan D 以前に比べて「苦境」をささやかれるコンシューマーゲームだが、今後どんな方向に進んでいくのか?

「最近のコンシューマーゲーム開発の世界には、ある種の閉塞感が漂っている」

「だから、業界が同じ不幸を回避できるよう、僕たちが若手クリエイターの活躍の場を作りたかった」

そう話すのは、リクルート在職中に制作した高層ビル経営シミュレーションゲーム『The Tower』が大ヒットし、架空の生物“シーマン”を育成する『シーマン ~禁断のペット~』シリーズなどもプロデュースしてきた斎藤由多加氏。

彼が、チュンソフト(現・スパイク・チュンソフト)代表で『ドラゴンクエスト』(~V)、『弟切草』、『かまいたちの夜』、『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』など数々のヒットゲームを手掛けてきた中村光一氏らと共に、スマートフォン向けゲームの世界に殴り込みをかけると聞きつけ、六本木にあるオフィスを訪ねた。

新たに立ち上がった会社の名は「クラウドナイン」(=Cloud nine)。この言葉には「ウキウキする」、「意気揚々」といった意味がある。彼らの存在は、ゲームファンにとってウキウキする吉報となるのだろうか。

斎藤氏と中村氏、そして2人の下でゲーム開発を行っている五座陽子さんの3人に話を聞いた。

最近のクリエイターは「作り込みへの強迫観念」に囚われている

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(写真左から順に)取締役 共同創業者の斎藤由多加氏、プログラマー五座陽子さん、非常勤取締役の中村光一氏

まず尋ねたのは、どういった経緯で2人の“巨匠”が手を結ぶことになったのかだ。

「僕はもともと斎藤さんが作るゲームが大好きで、『The Tower』が出たころからお付き合いがあります。で、つい先日『一緒にご飯でも』と誘われた席で、斎藤さんからスマートフォン向けのタイトルを作りたいというお話を伺ったのが創業のきっかけ。率直に『面白そうだ』と思ったので、ぜひ一緒にやりましょうと」(中村氏)

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高校時代からゲーム開発に携わるギークとして知られており、ヒット作も多数持つ中村氏

「僕も中村さんもほぼ同世代。ファミコンが一番熱かった時代のど真ん中で育ったゲームクリエイターです。しかし、今はコンシューマーゲームもソーシャルゲームも端境期で、業界全体が混迷しているように感じています。だから中村さんにご協力願って、今の時代に適した面白いゲームを作ろうと思い立ったんです」(斎藤氏)

斎藤氏が言う「今の時代に適したゲーム」とは、スマートフォンで遊ぶことを前提としたものだ。デバイスとしてのスマートフォンに大きな可能性を感じている一方、マーケットに出ている既存のゲームは「ほとんどが似すぎていてつまらない」(斎藤氏)と一刀両断する。

その理由は、冒頭で出た「コンシューマーゲーム業界の不幸にも起因しているという。

「ゲームクリエイター自身が、ハードのスペックを前提とした発想しかできなくなったことがコンシューマーゲーム業界を弱らせた主な原因。流麗なムービーや、壮大な世界観を作り込むのもいいでしょう。でも、ゲームの主人公はあくまでユーザー。それをついぞ忘れて『見せるためのゲーム』に走ってしまい、業界自体が内向きになってしまったことで、そんな当たり前のことさえ分からなくなってしまったんです」(斎藤氏)

この意見に、中村氏もやんわりと同調する。

「一部のマニアしか楽しめない“濃いもの”が増えてしまったというのはあるでしょうね。それに、最初は無料で遊ぶとこができるソーシャルゲームが台頭したことで、コンシューマーゲームを割高に感じるユーザーも増えました。おのずと売れる本数は減少し、発売タイトルも減る。斎藤さんの言う“閉塞感”から脱却するには、新しい考え方に基づいたゲーム開発の仕組みが必要だと思っているんです」(中村氏)

こうしてゲーム業界に寄せる2人の熱い思いが、新会社の設立に向かわせたようだ。

開発では【ベテランプロデューサー×若手技術者】のコラボ体制を徹底

だが、既存のゲーム開発に疑問を呈する以上、新たな開発体制の確立は必然だ。クラウドナインはどのような体制で臨むのだろうか?

カギとなるのは、オペレーションに徹する開発現場と、クリエイティブ管理とナレッジ伝承を役割とする取締役会の「完全分離体制」にあると斎藤氏は説明する。

「開発に際しては、現場が上げてきた企画やプロトタイプを、僕ら老人がやるパート、つまり取締役会のメンバーが徹底的に吟味するような形を採ります。僕らは自分たちの知恵やノウハウ、コネ、そして失敗に基づいた経験を若いクリエイターへ継承することに注力し、現場はそれを受けてゲーム開発に徹する。現場と企画を明確に分けることで、効率的な開発体制が敷けると考えています」(斎藤氏)

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ゲーム業界における偉人たちの薫陶を受けながら開発に取り組んでいる五座さん

実績豊富なゲームクリエイターからヒットのイロハを聞きながらゲーム開発に没頭できる環境は、これからゲーム開発の世界に飛び込もうと考えている若手にとって、もってこいと言えるかもしれない。

実際、前職まで普通のスマホアプリ開発に従事していたという五座さんも、この体制を肯定的にとらえている。

「スマートフォン向けアプリの開発をしていた時は、情報は自分でキャッチアップすることが大前提でしたから、育ててもらうという経験はほとんどありませんでした。でも、クラウドナインでは、ゲーム開発特有のプログラミングはもちろん、ユーザー視点のとらえ方、データ管理の仕方まで徹底したアドバイスがもらえます。これが勉強になるんです」(五座さん)

「“ゲームの文法”を知れば、スマホに最適なタイトルも生み出せる」

では、五座さんが日々学んでいる「ユーザー視点のとらえ方」とはどんなものなのか。斎藤氏は、“ゲームの文法”というキーワードを用いてこう説明する。

「ここ2~3年で劇的に伸びているソーシャルゲームも、ソーシャルとは名ばかりでちっともソーシャルじゃないタイトルが多いというのが僕の意見。コンシューマーゲーム同様、他社のヒット作品を模倣したものばかりで本当に面白いタイトルが少ないんです。じゃあなぜ『カードゲーム≒ソーシャルゲーム』のような現状になったのかと言えば、作り手たちがユーザーに新しい文法を覚えてもらうことから逃げているからですよ」(斎藤氏)

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斎藤氏は取材中、何度も「ゲームは心理学」と話し、ユーザーの心のつかみ方を解説してくれた

ゲームとは独自の言語体系であり、開発には独自の“文法”がある。それを知らないとゲームを作れない――。これが斎藤氏の持論だ。逆に言えば、この“文法”さえ押さえれば、「スマートフォンに適した新しい文法を持ったゲームも作れる」(中村氏)ということになる。

事実、両氏が過去に携わったゲームには、『シーマン』しかり『弟切草』しかり、ユーザーに新たな文法を提案したタイトルが多い。

前者は音声を通じて架空の生物とコミュニケーションするという斬新なゲームだったし、後者はサウンドノベルと呼ばれる新ジャンルを確立している。

そんな彼らが考えるスマホ時代のニューゲームは、2012年内をメドに公開すべく鋭意開発中とのこと。現時点での構想は、「本当のソーシャル要素」を盛り込んだ「マルチリンガルなアプリ」になるそうだが、タイトル名を含め具体的にどんな内容になるかはまだ非公開だ。

とはいえ、年内に1本目のタイトルをリリースするには、まだまだスマートフォン関連のエンジニアや翻訳担当など、スタッフ数が足りていないという。「新しい文法のゲーム開発」に興味がある人は、こちらのメールに連絡を取ってみるのもいいかもしれない。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/赤松洋太