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「ゴールを共有すれば言葉の壁は感じない」12人中9人が外国人のコイニー開発陣に学ぶ、グローバルチームの作り方

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楽天の英語公用化やファーストリテイリングの進める外国人採用を例に挙げるまでもなく、昨今は「海外展開」を前提に組織全体のグローバル化やダイバーシティの推進に力を入れる国内企業が増えている。

だが、採用の難しさやビジネス慣習の違いなどを理由に、グローバル化が口で言うほどスムーズに進まないのも事実である。そんな中、まだ創業から約2年のベンチャーながら、チームの多国籍化に成功している企業がある。

12人中9人が外国人スタッフ。しかも、それぞれの出身国がアイスランドからベルギー、ブラジルなどすべてバラバラ――。そんなユニークな開発体制を敷くのが、スマホ決済サービス『Coiney』を提供するコイニー株式会社だ。

日本生まれのサービスでは初のサインレスでのスマホ決済、申し込みからサービス開始まで2営業日、バーコードスキャンによる取引情報の管理など、既存のカード決済サービスの常識を覆す機能を提供して注目を浴びるコイニー。今年4月1日には、人員の増加により恵比寿の新オフィスに居を構えたばかりだ。

勢いに乗るコイニーは、文化も言葉も違う外国人チームをどのようにマネジメントしているのか?

その疑問を、代表取締役社長の佐俣奈緒子さんと、プロダクトマネジャーの室屋和慶氏にぶつけてみた。

多国籍チームにするメリットは「海外展開」以外にあった

コイニーが多国籍なチーム体制になった背景には2つの側面があると佐俣さんは語る。1つは、冒頭で紹介した大手と同じく、海外展開の布石として。もう1つはスキル重視で採用を行った結果だ。

「将来、コイニーが成長して海外展開を目指す時に改めて海外の開発チームを作るのはすごく手間が掛かります。だったら、最初から国籍問わず人材を集めてグローバルなチーム体制を作っちゃえという発想です。そうすれば、人材発掘や開発スタイルの適応に時間を割く必要がなくなりますからね」(佐俣さん)

佐俣さんが創業メンバーを集めた際の話は過去記事でも取り上げている

サービスの海外展開へ向けて、開発体制のダイバーシティから着手する。そうした考えから、インドネシア人エンジニアでNASAのリサーチ・アシスタントを務めたこともあるデビッド・アシキン氏を創業メンバーに加えた佐俣さん。

最初はFacebook上で共通の知り合いが多いという理由から声を掛けたそうだ。

その後も、SNSやGitHub上でのアウトプットを見て気になる人材に声を掛け、スキルの高い人材を採用していき、現在のチーム編成になったという。

「コイニーでは採用の際には年齢も、国も、性別も問いません。東京にいる人材、若い人材などに絞って採用を考えると、熾烈な取り合いになってしまいますからね。だからといって外国のエンジニアを優先しているわけではありません。コーディングテストを行い、グレイトなコードを書く人を採用していった結果が、今のチーム体制なのです」(室屋氏)

なぜ「スキルを優先」した結果、日本人ではなく外国人の人数が多くなったのか? その理由を佐俣さんはこう分析する。

「一つ言えるのは、日本語環境と英語環境ではコーディングに関する情報量が圧倒的に違うということ。英語でしかネット上に落ちていない洗練されたコーディング方法などがたくさんあるのです。そうした情報量の差が、スキルとしてコーディングの良しあしに表れているのではないでしょうか?」(佐俣さん)

「グローバル→ローカル」な発想で他にはないサービス開発

言語による情報量の差。それは日本人にとってはハンデとなるが、多国籍チームにすることで、そうした弱点を強みにできるという。

「各国からの情報源を持つメンバーが集めることで、自然と情報量も増えていきます。その結果、サービスの課題に対する解決法も日本人だけのチームより豊富になる。グローバルな技術を日本人向けにローカライズする、という発想で視野の広い開発ができるのは、我々の強みだと思います」(室屋氏)

多国籍化がもたらすサービス開発へのメリットを語る室屋氏

具体的には、6月にリリースされたレシートのバーコード読み取り機能「バーコードスキャン」がその1つ。

最初に外国人メンバーから提案があった時は、レシートに固有のバーコード表示をし、それをスマートフォンのカメラで読み取って取引情報を参照するという機能提案だった。

「機能自体は悪くなかったのですが、UIが日本人に馴染みのないクール過ぎるものでした。これでは、ITリテラシーが高い人でないと扱えないという理由から一度は却下。その後、バーコードを読み取るだけで取引管理ができる形にブラッシュアップし、UIもメインユーザーである中高年が分かりやすいようにシンプルなものに落とし込みました」(室屋氏)

日本人だけでは生まれにくい発想から始まり、それを日本向けに落としこむことで他にはないサービスを開発する。多国籍だからこそできる開発手法といえる。

さらに多国籍化はサービスに対してだけでなく、開発スタイルにも好影響を及ぼしていると室屋氏は語る。

「それぞれの国が持つ開発スタイルのいい所どりをすることで、柔軟な開発を行っています。例えば、スピードが重視されるアプリの機能開発では、彼らが慣れたスタイルを採用。大事な箇所は150%の力で開発して優先度が低いところはバッサリ削るというスタイルです。逆に、決済にかかわるミスが許されないシステムは、日本人が得意なウォーターフォール型で細かくチェックを重ねて開発。そういった臨機応変な開発スタイルを取れるのも多国籍チームの強みです」(室屋氏)

言葉や生活習慣の統一より、ゴールの共有を重要視

多国籍であるがゆえの情報量の多さを活かした開発を行うコイニー。一番のネックであるだろう「言葉の壁」に関してはどのように乗り越えているのだろうか。

「グローバルチーム化するために英語が話せることを必須条件にするところは多いですが、我々は違います。いくらメンバー全員が英語を話せても、スキルや、良いプロダクトに対する意識が低かったら意味がないですからね。社内も公用語は日本語です。プロフェッショナリズムがあれば、仮に片言でもお互い会話しようとするし、それを続ければ自然と言葉も覚えます」(佐俣さん)

取材中も、コイニー特有の開発文化について皆で議論していた

そうした言語の違いは、意外な形で開発メリットも生み出すという。

「言葉の違いから生じるコミュニケーションロスを防ぐために、UI設計や画面遷移の仕方をきちんとイラスト化して仕様書を作るという習慣が開発チームに根付いている。日本人同士で進めるより、厳密にイメージの共有ができていると思います。結果『何話してたっけ?』と議論が空中戦にならず、ムダなく開発が進行しています」(室屋氏)

一見、順調そうに見えるコイニーの開発チーム。言語や文化の違いを乗り越えて、開発を行えるようになったのは、ある失敗から学んだ教訓があるからだ。

「創業初期のころ、タイムラインをかっちり引いて、すべてをスケジュール通りに進行させようとしたことがありました。しかし、ズレたスケジュールを組み立て直すことの繰り返しで付帯作業が増え、結果的には効率的ではなかった。また、そうした時間をきっちり守る日本のスタイルになじまないメンバーもいました」(室屋氏)

そこで、ゴールだけを設定して時間や手段を任せるスタイルに切り替えた途端、全員のパフォーマンスが上がったと室屋氏は明かす。

結果、今ではそうした自主性に富んだ開発体制に惹かれてコイニーに応募をしてくる外国人エンジニアも増えてきたという。

最後に、グローバルチームを目指す人たちへのアドバイスを佐俣さんに聞いた。

「おそらく、多くの人が『言葉の壁』により外国人を雇うことに躊躇していると思います。でも、言葉や文化の違いは実は大した問題ではない。仕様書の言葉が違っても調べれば読めるし、決まった時間に会社に来なくても結果的にゴールに向かって前進していればまったく問題ない。細かい点での時間感覚が違う点は確かにありますが(笑)。ただ、何を最優先させるかと言えば、ゴールへ向かっていることが最も大事です。そうした気構えを持つことが、グローバルな組織形成の第1歩になるはずです」(佐俣さん)

取材・文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/赤松洋太