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なぜ、コミュニティファクトリーは女性向けアプリでヒットを連発できるのか?松本龍祐氏に聞く「3つの仕込み」

公開

 

株式会社コミュニティファクトリー 代表取締役 松本龍祐氏

今年11月時点で1800万DLを突破し、日本だけでなくアジアなど海外市場でも圧倒的なヒットを記録している女性向けスマホカメラアプリ『DECOPIC』。

女性向けスマホカメラアプリ『DECOPIC』

DECOPIC』は日本のみならず、世界でメガヒットアプリとなっている

『DECOPIC』は昨年9月に弊誌でも取り上げたとおり、松本龍祐氏率いるコミュニティファクトリーが開発し、徹底したマーケティングリサーチを元にブラッシュアップを続けた結果、その後1年2か月で1600万DL増と“爆速”でユーザーを増やしたアプリの1つだ。

ただ、同社がヒットさせたのは『DECOPIC』だけではない。コミュニティファクトリーが女性向けに開発・提供する自社アプリの累計ダウンロード数(iPhone/Androidアプリ総計)は3000万DLを突破(2013年9月14日時点)。

App Apeが調査したGoogle Playのカテゴリ別アプリ所持率を見ても、家計簿、手帳カテゴリでTOP5に入るアプリをリリースしている。

2013年4月にはオフィスをヤフー社内へ移し、アプリ開発室室長というポジションに就いた松本氏。すでにヤフーの全スタッフを対象に、持論である「UX Design」をベースにすべてのビジネスやサービスを発想、構築すべきという内容のプレゼンを実施しているという。

コミュニティファクトリーだけでなく、ヤフーグループ全体のスマホ向け事業の陣頭指揮を執ることになった松本氏に、女性向けアプリ開発において爆発的ヒットを記録するポイントを聞くと、次の3つが挙がってきた。

【1】徹底的なリサーチで女性の価値観を理解する
【2】“使われ方”を先に考えるUI設計
【3】独自の「カワイイマトリックス」でチーム内に共通認識を

具体的にどうやっているのか、紐解いていこう。

【1】徹底的なリサーチで女性の価値観を理解する

女性に人気のファッションビル

机上の空論ではなく、行動することにより女性の心理を学ぶ

松本氏は女性向けアプリのマーケティングに際し、女性誌を片っ端から読み漁り、女性に人気のアパレルファッションの入ったビルを全フロア見て回り、各所のプリクラ機を利用するなどして、ターゲットユーザーの価値観を徹底的に理解するよう努めたそう。

「アジア展開に際しても、実地調査として現地の女性にインタビューしたり、スマホの画面を見せてもらったりして、彼女たちがどんなモノに興味があって何をかわいいと思うのかを徹底して吸収しました。その繰り返しと積み重ねから、ターゲットとするユーザーの感性や価値観を理解した上で、そのニーズに訴求できるUX Designは何か発想していきますね」

DECOPICなどの実績から、同社の面々は「若い女性向けアプリ開発」が専門だと思われがちだ。しかし、実はそうではないと松本氏。

こうしたマーケティングを通してターゲット像を特定する手法は、ターゲットの年齢層や性別を問わず有効だからだ。

「徹底的なリサーチを重ねることで、ターゲットになり切るというか、感情移入することで“ツボ”にハマるものを発想していくわけですから、例えばシニア層に向けたアプリなどでも、同じような下準備をやればイケるという手応えを持っています」

【2】“使われ方”を先に考えるUI設計

女性をターゲットにしたスマホアプリの大ヒットと知名度の大幅アップで、この分野の第一人者になりつつある松本氏だが、前述したような地道なユーザー調査を基に、ヒットするだけの創意工夫と配慮をしていると強調する。

ここでは、昨年12月にリリースされ、約11か月で累計600万DLを記録している画像加工アプリ『Petapic』を例に説明してもらった。

「似たような機能のカメラアプリがたくさんある中、『Petapic』で一番こだわったのはとにかく簡単かつシンプルに使えるということ。例えば、好きなテンプレートや素材を選んだら、撮った写真を選ぶだけ。それだけですぐSNSを通じて投稿できるようになっています」

特に女性の場合、スマホをコミュニケーションツールとして使っていて、複雑な機能や性能にこだわりがなく「一度の操作でやりたいことができることを好むから」と松本氏は説明する。

さらに、どんな風にスマホを扱うかにも考慮していると話す。

ネイルアート

男性視点では爪によって操作性が変わることに発想が及びにくい

「爪の長い女性は、ピンチアウト・ピンチインという動作が苦手なんです。ですから画面を拡大・縮小しなくても操作できるよう、画面内にハンドルをつけることで女性が操作しやすいように徹底して配慮しています」

ほかにも、撮った写真を細かく修正しなくてもお気に入りになるよう画像加工の精度を上げ、満足度の高い仕上がりになるよう調整するなど、女性ならではの感性にマッチした写真ができるアプリを目指したのだという。

【3】独自の「カワイイマトリックス」でチーム内に共通認識を

若い女性のターゲット像を明確にし、その使われ方にまで配慮した結果として圧倒的な支持を獲得したアプリを生み出したことによって、松本氏はヒットアプリを生み出すための具体的な理論構築と戦略立案ノウハウを持つ。

そのためのキーワードの1つが「かわいい」の体系化だ。デザイナーやエンジニアをインターンとして迎える際、松本氏がまず最初に見せて説明するのが、独自の「カワイイマトリックス」だ。

松本氏がチーム内で共通認識を持たせる為に用いている「カワイイマトリックス」

松本氏がチーム内で共通認識を持たせる為に用いている「カワイイマトリックス」

X軸の左へいくほど「きれい」、右が「かわいい」。Y軸の上へいくほど「大人」で、下が「幼稚」。ここへ、各国、各地域の女性誌のテイストなどをマッピングしていくことで、それぞれのユーザーや媒体の持つ感性や価値観を知るのだ。

この独自マッピングの結果、韓国の女子は左上の「きれい」で「大人」なエリアが、逆にタイは右下の「かわいい」で「幼稚」なエリアが当てはまるのだという。

「これを見ればひと目で分かるとおり、何となく想像していただけのものが明確になります。若手のスタッフには、こういうマトリックスを見て理解してもらって、ターゲットに刺さる「かわいい」を共通認識として持ってもらうことで、アプリ開発や設計の基準にしてもらいたいと思っています」

現在、同社の主力となっているデザイナーも、数々のヒットアプリを手がける中で独自の理論や戦略を身につけ、開発や設計に取り組むようになってきたと松本氏は振り返る。

目標は「スマホのホーム画面を自社のアプリで埋め尽くすこと」

本格的にヤフーグループの一員として稼働を始めて約7カ月。ヤフーとコミュニティファクトリーは11月7日、共同でフリーマーケットアプリ『ClooShe(クロシェ)』の配信を開始した。

女性向けのフリマアプリ開発はグループにジョインする前から互いに構想していたサービスの1つだったという。

「ClooSheは、今までYahoo!ショッピングのターゲット外だった層をヤフーのエコシステムに引き込むという狙いもあります。ただ、僕にとってはCtoCビジネスを手がけるのは初めてです。なので、実際に現役女子大生に加わってもらい、ブランド別の特集を打ち出していくなどアパレル系のノウハウを採用しています」

「わざわざネットを開かなくてもポータルはここにある」とスマホ画面を指差す松本氏

「わざわざネットを開かなくてもポータルはここにある」とスマホ画面を指差す松本氏

フリマアプリは他社もすでにリリースしているため後発になるが、今まで同社がリリースしてきたアプリと比較しても初速のDAU数、DL数で確かな手応えを感じているという松本氏。

松本氏とコミュニティファクトリーの最終目標は「女性のスマホのホーム画面を自社のアプリで埋め尽くすこと」だ。

「スマホのホーム画面って究極のポータルだと思うんです。そこを自社のアプリで埋め尽くせたらそれはもう、勝ちですよね」(松本氏)

Yahoo!ショッピングおよびヤフオク!の出店料の無料化など、「eコマース革命」を打ち出し、次々にその具体的戦略を具現化しているヤフーにあって、コミュニティファクトリーと松本氏の存在意義は今後ますます大きくなりそうだ。

「コミュニティファクトリーではほとんど広告を打ってきませんでしたが、『ClooShe』ではいくつかPRも行うつもりです。ヤフーグループでスマホ向けサービスをさらに拡充、発展させていけるよう僕も会社もさらに力を尽くしていきたいと思っています」

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正