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「結局は、技術が企業を救う」マツダが『CX-5』のヒットで示した、ディーゼル復権の兆し【連載:世良耕太⑩】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(ソニーマガジンズ)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー4』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

From mazda 販売計画の予想を約8倍も上回る受注台数となり、HVやEVとは一線を画したヒットとなっているマツダ『CX-5』

From mazda 

販売計画の予想を約8倍も上回る受注台数となり、HVやEVとは一線を画したヒットとなっているマツダ『CX-5』

今年2月16日に発売されたマツダ『CX-5』の売れ行きが好調だ。発売1カ月後の3月14日に発表されたデータによると、1000台の月間販売計画に対し、累計受注台数は約8000台に達したという。

CX-5は新開発の2L・直4ガソリンエンジン搭載車に加え、同じく新開発の2.2L・直4ディーゼルエンジン搭載車をラインアップするが、エンジン別の構成比はガソリンが27%、ディーゼルが73%で、圧倒的にディーゼルの比率が高い。

人気は持続中だ。5月18日、マツダは「納期短縮へ向け最大限の取り組み」をしているとしながらも、今から注文してもディーゼルエンジン搭載車の工場出荷は3~4カ月先になると、CX-5を検討するユーザーに対して理解を求めている。マツダCX-5は、「良いモノを作れば売れる」ことを証明したし、国内市場から消えつつあったディーゼルエンジンに息を吹き込んだ意味でも、意義深い。

日本で評判の悪いディーゼル車が、欧州で約半数を占める理由

「ガラガラうるさいし、振動は大きいし、真っ黒い煤が出る」としてディーゼルエンジンは嫌われ、あるいは悪者にされ、市場から消えていった。確かにガソリンエンジンに比べればノイジーだが、それは停車中のアイドリング音だけで、走り出してしまえばタイヤと路面が接触する際に起きるロードノイズや、空気と車体がぶつかる際に発生する風切り音などにかき消されてしまう。振動も同様だ。

真っ黒い煤が出るという話は風評以外の何物でもなく、最新の(といってもすでに数年前から)ディーゼルエンジンは黒鉛を吐かない。ディーゼルエンジンは燃焼の性質上、燃料が完全に酸素と結び付いて燃え切らず、粒子状物質(Particulate Matter:PM)が発生する。つまり微細な煤のことで、これが黒煙の正体である。

ガソリンエンジンに触媒が付いているように、ディーゼルエンジンにも触媒が付いており、燃焼によって発生する人体に有害な物質を無害な物質に還元する仕組みになっている。ガソリンとディーゼルで異なるのは、ディーゼルの方にDPF(Diesel Particulate Filter)と呼ぶPM捕集装置が付いていることだ。この装置が進化したおかげで、最新のディーゼルエンジンは黒煙を吐かない。

撮影 世良耕太 ディーゼル車が人気のフランスでは、販売車数の約7割がディーゼル搭載車というデータも

撮影 世良耕太 

ディーゼル車が人気のフランスでは、販売車数の約7割がディーゼル搭載車というデータも

そもそも、うるさくて振動して煤が出るようなエンジンがヨーロッパで受けるわけがない。なのになぜ、ヨーロッパではディーゼルエンジン搭載車が支持を集めるのだろうか。

西側ヨーロッパでは乗用車販売に占めるディーゼルエンジン搭載車の比率が50%前後を占める。ディーゼル人気の高いフランスやスペインでは約70%に達する。日本では1%に満たない。

燃料代が安いから? という憶測も出てこようが、それは日本がむしろ特殊なのであって、ヨーロッパではガソリンよりもディーゼルエンジンの燃料に使う軽油の方が高いケースが多い。では、高いのになぜ売れるのか。

高度な燃焼制御を行うための装置が必要だったり、燃焼する際に発する圧力が高いために頑丈に作らなければならなかったりで、ガソリンエンジンに比べてディーゼルエンジンはコストが高くつく。当然、車両価格にも反映され、ガソリンエンジン搭載車よりもディーゼルエンジン搭載車の方が高い。マツダCX-5も例外ではなく、ガソリンエンジン搭載車は205万円からなのに対し、ディーゼルエンジン搭載車は258万円からだ。

価格は高いが、ディーゼルエンジンは一般的に、ガソリンエンジンに比べて燃費に優れる。次に乗り換えるまでの走行距離が長いヨーロッパでは、燃費差による燃料代の節減分が、車両価格差を補って余りある計算になる。

つまり、ランニングコストを考えれば、イニシャルコストが高くても、ディーゼルエンジン搭載車を買った方が得という判断が働くのである。

CO2排出量削減の意味でも、ディーゼル復権は大歓迎

From mazda「燃費が良いのに力強い」を実現する新ディーゼルエンジンの普及は、間違った認識を正す格好の機会に

From mazda

「燃費が良いのに力強い」を実現する新ディーゼルエンジンの普及は、間違った認識を正す格好の機会に

それだけではない。フィーリングに優れるのだ。噴霧を細かくすることができる高圧燃料噴射システムや過給(排気エネルギーを利用して吸気を圧縮し、燃焼室に送り込むこと。すなわちターボ)と、それらを統合的に制御するソフトウエアが進化することにより、ディーゼルエンジンは低いエンジン回転数から大きな力を発生する。

例えば、CX-5が積む排気量2Lのガソリンエンジンは114kW(155PS)/6000rpmの最高出力と196Nm/4000rpmの最大トルクを発生するが、2.2Lディーゼルの最高出力と最大トルクはそれぞれ129kW(175PS)/4500rpm、420Nm/2000rpmに達する。

やや乱暴に説明すれば、最高出力は最高速の伸びに効き、最大トルクは発進や追い越し加速に効く。排気量200ccの違いはあるにせよ、ガソリンとディーゼルの最大トルクの差は歴然としている。CX-5の2.2Lディーゼルが発生させる最大トルクは、ガソリンエンジンに当てはめれば4L・V8に匹敵するほどだ。

つまり、力強い。その上、燃費が良い。ガソリンエンジン搭載車のJC08モード燃費が15.6~16.0km/Lなのに対し、ディーゼルエンジン搭載車のそれは18.0~18.6km/Lに達する。50万円強の価格差は悩ましいが、燃費が良くて力強くて、運転して気持ちいいのだから、支持されて当然である。

マツダCX-5のディーゼルエンジン搭載車を手に入れたオーナーが、ディーゼルの良さを周囲に漏らすと、それが口コミに乗って関心が広がり、ニーズはますます大きくなっていくだろう。

原油を精製して得られる成分の比率は一定であり、ナフサを主成分とするガソリンのニーズばかりが高いのは不健全である。精製する過程で一定量の軽油が取り出せても、需要がないから余分なエネルギーを費やしてガソリンに転換しているのが現状。軽油→ガソリンの転換に伴う莫大なCO2排出量を削減する意味でも、ディーゼルエンジンの復権は大歓迎だ。

ガソリンエンジン設計者がディーゼルを見直して分かった改善点

マツダCX-5のディーゼルエンジンは、不幸にも日本に根付いてしまったネガティブなイメージを振り払うだけの実力がある。日本でディーゼルが停滞した背景には、厳しくなる一方の排ガス規制も考慮に入れる必要がある。規制が厳しく、新しいディーゼルエンジンの開発に見えない歯止めを掛けてしまったのだ。

主にPM(前出)とNOx(窒素酸化物)に対する規制が強化されたが、NOxが強敵で、これを還元する後処理装置(すなわち触媒)が不可欠とするのがマツダのディーゼルエンジン、すなわち『SKYACTIV-D 2.2』が出るまでの常識だった。

ところが、SKYACTIV-D 2.2は世界で初めてNOx触媒なしで日米欧の最新規制をクリアした。燃焼によって発生してしまった物質を後で処理するのではなく、燃焼段階で出てほしくない物質が出ないような設計にしたのである。

「燃料にすぐ火が点いてしまうから、煤もNOxも出る。ならば、すぐに火が点かないようにすれば良い。ガソリンエンジン設計者の視点でディーゼルを見たら、どうすれば良いか分かった」とは、開発を指揮したエンジニアの弁。

言うは易く行うは難しだったろうが、マツダはやり遂げた。SKYACTIV-D 2.2はディーゼルエンジンの潮流を大きく左右する可能性を秘めた画期的なエンジンだ。マツダという決してスケールの大きくないメーカーが、今後生き残っていくためには核となる製品なり技術なりが欲しいという、いわば背水の陣に追い込まれたタイミングで出てきた。

マーケティングや商品企画も大切だが、結局のところ、技術が企業を救う。その好例である。