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オムニチャネルプラットフォーム『SATORI』開発に見る、エンジニアの新たなキャリア【連載:デジタルマーケの未来学】

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旬なデジタルマーケティングの裏側にある最新技術や、それを支えるエンジニアにスポットを当てる連載「デジタルマーケの未来学」。マーケティングとテクノロジーが掛け合わさった時、ビジネスはどう動き、そしてエンジニアは何をすればいいのか。その変化の胎動を解説していく。

【用語解説】オムニチャネルとは?

今、デジタルマーケティング業界を賑わしている「オムニチャネル」という言葉を知っているだろうか。実店舗とECサイトの来訪者の行動情報を統合し、顧客がオンライン、オフラインを意識することなく消費活動ができるようにすることだ。

2013年末、セブン&アイHDが大手通販会社ニッセンや高級アパレルブランドのバーニーズジャパンなどを買収し、オムニチャネル化に取り組みを始めたことでも注目を浴びている。

SATORI』はもともと知り合い同士だったという3社が連携することで生まれたサービスだ

そんな潮流をとらえ、2014年3月にリリースされたのが、トータルマーケティングソリューションの『SATORI』だ。

顧客データの取得、蓄積、分析から、オンライン、オフラインを問わない販促コンテンツの配信までを1パッケージで提供する。取材時(2014年4月3日)には1社が導入の検証に入っており、複数社から問い合わせを受けているという。

SATORIはデジタルマーケティング関連技術に携わる3社の連携によって開発されている。CMS『LaCoon(ラクーン)』を開発するトライアックス社。プライベートDMPサービス『owldata(オウルデータ)』を手掛けるスペイシーズ。そして、クラウド型データマネジメントサービスを行うトレジャーデータだ。

今後のデジタルマーケティングのトレンドにもなるであろう、オムニチャネルを支える技術や現状の課題とは? これからのデジタルマーケティング業界でエンジニアは何をすべきか? 3社の代表者に聞いた。

デジタルマーケティング関連技術の統合が進んでいる

「実店舗とECサイトの販売経路を統一的に扱うオムニチャネルが今後浸透した時、デジタルマーケティング業界の可能性はさらに高まる」とトライアックスの代表取締役、植山浩介氏は語る。

最新テクノロジーの力で、顧客に対して今までにない消費体験を提供したいと語る植山氏

「具体例を話すと、ECサイトで赤ワインを購入した顧客が実店舗を訪れたとします。入り口に設置されたiBeaconで顧客IDを取得し、店員が持つiPadに購入履歴を配信。店員が似た嗜好の赤ワインをオススメする、といったことがSATORIを導入することで可能になります。さらに、その顧客が再度ECサイトを訪れると、その赤ワインに合うチーズがレコメンドされるといったことも。O2Oの発展形とも言われているオムニチャネルでは、オンとオフを選ばない、直接的なコミュニケーションにより販促活動の幅が広がります」(植山氏

販売側はより活発な消費行動を顧客に促す施策を打てるとはいえ、企業がECサイト、実店舗を横断するシステムを導入するには膨大なコストと時間がかかるものだ。

その問題を、SATORIはどうクリアするのだろうか。

「既存のデジタルマーケティング技術を活かした連携型のソリューションにすることで、ワンストップサービスを実現しています。アドビシステムズが、『Adobe Marketing Cloud』においてデジタルマーケティング関連企業を次々と買収しているのも同じ発想です」(植山氏)

事実、アドビシステムは2013年6月、『Adobe Marketing Cloud』のソリューション強化として、クロスチャネルキャンペーンのリーダー企業であるNeolaneの買収を表明。それまでにも、アクセス解析やCMSに特化したデジタルマーケティング関連企業など、5社を買収して体制を強化している。

デジタルマーケティング関連技術を統合、進化させるスタイルのマーケティングソリューションの開発は、今後のトレンドとなるかもしれない。

エンジニアとマーケッターの境目がなくなりつつある

では、オムニチャネル時代に対応するマーケティングソリューションを実現させるために必要な技術的なポイントとは何なのだろうか?

プライベートDMPを手掛けるスペイシーズ取締役の太田祐一氏は、「ログをいかにリアルタイムに処理してユーザーのセグメント化を行うかがカギ」と答える。

「オフラインのログ取得が進めば、実店舗の滞在期間など、蓄積されるデータ量は飛躍的に増加し、それに伴い処理しなければいけないデータも増えていきます。店舗情報など、ある程度固定的なデータはキャッシュで保持し、ユーザーデータはKVSで保持するなど、チューニングを日々行っています」

分析するためのログの蓄積場所して採用されているのは、クラウド型データマネジメントサービスを行う『Treasure Data Service』。トレジャーデータのエバンジェリスト鈴木理恵子さんによると、長期的なデータの保存はオムニチャネル時代にも効果的だという。

企業や店舗がより効果的にビッグデータを活用できるようになってほしいと語る鈴木さん

「例えば、季節ごとに顧客に販促や広告を打つ時に、1年前、2年前の同じ季節の購買データがあると厚みが増しますよね。プライベートDMPでは短期的なログの分析を、Treasure Data Serviceでは長期スパンのログをもとにした分析を行っています」(鈴木さん)

セグメント分けされた顧客データは、それだけでは直接的な効果は発揮しない。販促コンテンツとマッチさせることで、初めて意味のあるデータとなる。

「コンテンツも、例えば何々産のチーズにはどの赤ワインをセットでレコメンドすればいいか、など無限に作れてしまう。それらのコンテンツをどのセグメントに配信するかが重要です。セグメントとコンテンツがマッチしていなければ、せっかくの分析結果も台無し。セグメントとコンテンツの設計こそがキーポイントです」(植山氏)

さらに、こうしたシステムを構築していくには、エンジニアといえど「マーケティングを知らないと難しい」と太田氏は加える。

スペイシーズでも、週に一回、エンジニアが集まり、マーケティングの勉強を行っているらしい。

「プライベートDMPの構築には膨大な量のデータを処理する必要があります。データをいかに素早く処理するかということにとらわれ、実際にこのプロダクトがどのように利用されるのかという本来の目的が分からなくなる時も多い。プロダクトを作る目的を明確化するために、テクノロジーがマーケティングにどう使われるかを知る必要があるんです。そういう意味ではマーケッターとエンジニアの境目がどんどんなくなりつつあるように思えます」(太田氏)

エンジニアが活躍するための2つの道

エンジニアがマーケティングを学ぶ重要性を語る太田氏

太田氏の言葉が今後現実化すれば、デジタルマーケティングの世界でエンジニアに求められるスキルは、より高度なものになってくるだろう。

しかし、同時にそれは「活躍するチャンスの場が広がること」でもあると、植山氏は言う。

「オムニチャネルに象徴されるように、デジタルマーケティングに本格的に取り組む企業が増えています。エンジニアの人たちは、今のうちにマーケティングを学んでおけば、活躍する場を広げるチャンスにつながるはず。シリコンバレーではCTOよりCMO(Chief Marketing Officer)の方が給与も地位も高いという話も聞きます」(植山氏)

植山氏が言うように、先に挙げたセブン&アイをはじめ、2014年1月にデジタルマーケティング室を新設したキリン、ソーシャルマーケティングが活発なローソンなど、デジタルマーケティングに本腰を入れる企業が増え始めている。

とはいえ、新たにマーケティングの知識を得るのはそう簡単ではないはず。技術力だけではデジタルマーケティングの世界では通用しなくなるのだろうか?

「技術にエッジを効かせれば戦うことはできます。当社では研究機関が行う実証実験の支援で、ユーザのデータとして『心拍数』、『顔写真』などこれまで世の中で扱ったことのない情報を、マーケティングに活用できないか探っています。ユーザの感情を知ることができればマーケティングに活かせるのではないかという発想です。SATORIのようなプラットフォームが今後成長すれば、先端技術によって取得できるユーザの情報をマーケティングに役立てるスピードが上がるはずです」(植山氏)

オンラインとオフラインの境目をなくす取り組みにもなりそうなオムニチャネルの裏では、テクノロジーの統合やエンジニア、マーケッターといった職種の統合も進んでいる。

マーケティングの視点を持ったエンジニアになるか、エッジの効いた技術をマーケティングに活かすか。どちらかの道を選択し、チャンスの眠るデジタルマーケティングの世界に飛び込んでみるのもいいかもしれない。

取材・文・撮影/長瀬光弘(東京ピストル