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「なぜ3Dプリント代行を?」「僕らヲタクの夢だから」DMM.com松栄立也氏に聞く異端の経営論

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DMM__Matsue

それは突然の発表だった。

今年7月、映画やドラマなど幅広いジャンルのDVD郵送レンタルや、動画のビデオ・オン・デマンドサービスで知られるDMM.comは、3Dプリント代行を行うサービス『DMM 3Dプリント』をスタート。続く9月11日には、クリエイター向けに3Dプリンタによる作品造形とインターネット販売代行をセットにしたサービスを年内にも始めると発表した。

DMM 3DPrint

ネット経由でモデリングデータを送ると、3Dプリントされたモノが指定の場所に届けられる『DMM 3Dプリント

メイカームーブメントが世間で騒がれ出してまだ1年。一部では熱狂をもって受け入れられているものの、まだビジネスとして大きく育つかどうかも分からない状況で、なぜ“ネット動画のDMM.com”が3Dプリンタに着目したのか?

その疑問を解消すべく取材を申し込んだところ、同社代表の松栄立也氏は開口一番、『機動戦士ガンダムAGE』のワンシーンを語り出した。

自らを根っからのアニヲタと称する松栄氏いわく、3Dプリンタは「ヲタクの夢」を実現する画期的発明だという。

「今後5年間は商売として見ていない」

そう話す新事業立ち上げのプロセスは、まさに異端。そんな松栄氏の決断の裏側に、編集長の伊藤健吾が迫った。

地殻変動を起こす“天才”と出会いたくて、プラットフォームを作った

―― まず伺いたいのが、「ネット動画の会社」という印象の強いDMM.comが、どうして3Dプリント代行事業を始めることにしたのか? です。

実は2年くらい前から、新規事業の種になりそうなものをずっと探してきたんです。とにかくいろんな人に会って、どんなビジネスが来そうかを思案していたところ、次第に「3Dプリンタは面白そうだな」と。

―― どの辺に可能性を感じたのですか?

ガンダムAGE』に出てくる「AGEシステム」ってあるじゃないですか(編集部注:同アニメ内に出てくる、敵との戦闘データを常に収集・蓄積しながら新装備の設計図をシステム自体が作り上げる仕組み。巨大な3Dプリンタが出てくる)。3Dプリンタを初めて見た時、「これがあれば、AGEシステムみたいにビームライフルとか作れるじゃん!」と感動したんですよ。

現時点での3Dプリンタの性能だと、1cmのモノを成形するのに1時間以上かかったりするのですが、今後の技術革新でこのスピードと精度、そして規模が上がっていけば、例えば「ガンプラ」はモデリングデータで販売されるようになって自宅で3Dプリントする時代になり、ゆくゆくは人が乗ることが可能なガンダムも作れるかもしれません。データの縮尺は自由に変更できますからね。

また、『宇宙兄弟』にも、NASAが月面基地を月の砂であるレゴリスを原料に3Dプリンタで造る計画がありましたよね。そういう世界が来たら……って考えると、ワクワクしませんか?

3Dprinter-image

From John Abella
どんどん小型化が進む3Dプリンタ

―― 事業立ち上げの動機がビジネスとしての勝算などではなく、全部「アニメの世界を実現すること」なのが面白いですね(笑)。

すみません、僕自身がアニヲタなので(笑)。でも一応、これまでDMM.comでビデオ・オン・デマンド事業をやってきた経験則から、3Dプリンタには数値化できない可能性があると直感しているんです。

DMMグループは、もともとレンタルビデオ屋からスタートしていて、その後にアダルトビデオ製作やDVD販売、ビデオ・オン・デマンド事業などをやってきました。

今は映像データという「無形のもの」を売って商売をしているわけですが、そもそも形のないものって、マーケットシェアを大きく取るところまでは成長しづらいんですよ。

現在の音楽産業なんかもそうですが、CD販売からデータ販売へとマーケットが移り変わるという地殻変動が起きたのは、AppleがiPodを作り、iTunesを立ち上げたからですよね。一番儲かっているのは、新しいハードウエアとプラットフォームを作り出したAppleです。

それに沿って説明するなら、僕らは『DMM 3Dプリント』を通じて、「情報とデータと人が集まるプラットフォーム」を作りたい。この3つを他社に先駆けて集めることができれば、きっと面白くて新しいビジネスが生まれるはずです。

個人レベルでは、もう3Dプリンタを使った興味深い取り組みを始めている人たちが出てきているので、そういう人たちが集まるプラットフォームにできればと思っています。

その中に1人でも“天才”がいれば、ものすごい地殻変動が起きる瞬間に、僕らがかかわれるわけですから。

3Dプリント事業はまだ事業計画も作れない。だから今やる価値がある

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3Dプリンタを用いた事業展望を聞いたところ、「答えはまだない」と断言する松栄氏

―― 松栄さんの考える、3Dプリンタを使った「面白くて新しいビジネス」とは例えばどんなものですか?

僕自身、明確な答えはまだ持っていません(笑)。ビジネスとして興味深いものが出て来るまでは、もう少し時間が掛かると思っています。

そのため、実は『DMM 3Dプリント』は詳細な事業計画書もまだ作ってないんですよ。

唯一決めているのは、だいたい5年くらいは、採算度外視でやっていくということ。だから3Dプリント代行の価格は、他社には絶対に負けないくらい安くできる(笑)。

―― 笑

まぁ、1000人くらいに会って話をすれば、中には1つくらい面白いビジネスアイデアが出てくるだろうと。だから今は、ひたすらいろんな人に会って、その「面白いアイデア」を探しているところなんですよ。

例えば、先日会ったあるワイン通の方が面白い話をしていました。その方は、3Dプリンタを使えば食品サンプルをもっと安く作れると言っていて、ちょっと議論をしたんですね。
(次ページへ続く)