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故エリヤフ・ゴールドラット氏インタビュー「イノベーションに必要なブレークスルーは、もうあなた自身が発明している」

公開

 

全世界で1000万人以上が読んだといわれる大ベストセラー『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』の著者であり、希代のコンサルタントだったエリヤフ・ゴールドラット氏が、2011年6月に逝去してもう約1年7カ月が経つ。そんな折、偉大な氏の名を冠した新書が、今年2月に発刊された。

エリヤフ・ゴールドラット 何が、会社の目的を妨げるのか』は、生前のゴールドラット氏が紡いだ至言の数々をまとめた本で、現代の日本企業に向けたラブレターとも形容できる内容である。

大の日本好きとして知られていた同氏の慧眼が見ていたものは、日本の国民性や文化のすばらしさと、その裏側に潜むビジネス上の欠点だった。この新著発刊に際して、弊誌の姉妹誌だったビジネス情報誌『type』で2009年10月に取材をした際のインタビューを転載する。

話は今から約3年前、世界は経済危機の真っ只中。それから時代は移り変わり、テクノロジーも日進月歩で進化してきたが、ゴールドラット氏の言葉は時代を超えて普遍性を持つ本質論ばかりだ。

「直面する苦境を脱し、グローバル経済下で成功するには何が必要なのか」
「イノベーションを起こすにはどうすればいいのか」

いつの時代も変わらない“ブレークスルーを起こす秘けつ”を、ぜひ読み取ってほしい。

プロフィール
Dr Eliyahu M. Goldratt_02

物理学者/経営コンサルタント
エリヤフ・ゴールドラット博士

イスラエルの物理学者(1948年-2011年)。海外では1984年に出版されたものの、「モノづくりに秀でた日本人にこの方法を教えたら世界が大混乱する」という理由で、日本では21世紀まで翻訳されなかったビジネス小説『ザ・ゴール』の著者。中で提唱したTOC(制約の理論)は問題解決の手法として全世界的に活用され、カリスマ経営コンサルタントとして名を馳せた

(※このインタビュー内容は、ビジネス情報誌『type』2010年 春号に掲載されたものです)

―― 今、世界経済は混迷を極めており、企業経営のかじ取りも難しいものとなっています。博士は現状をどうとらえていますか?

ビジネスを始めるには、非常に良いタイミングといえる。なぜなら、世界が経済危機の渦中にあるとはいえ、中国やインドなど新興国が台頭しているからだ。

おそらく日本のニュースでも取り上げられているだろうが、中国はいまや世界ナンバーワンの生産大国になった。これは、日本にとって脅威、それも大きな脅威に映るかもしれない。

中国が強大なパワーを持ったことで日本企業の仕事が少なくなっているといわれ、事実、中国のGDPは過去30年間、年率約10%の割合で伸び続けている。

ただ、多くの人は、この事実を間違って解釈している。

中国が今の成長率を維持していくには、より多くの生産が必要になり、そのためのマンパワーも必要になる。今後も人口が増え、需要が拡大し続け、どんどんモノを生産していったとしても、いつか限界に到達するだろう。

それでも生産を続けていくと、今度は価格が上がっていく。ここでいう価格とは、働く人たちの賃金のことだ。ゆえに、中国が今のペースでGDPを成長させようとするなら、それ以上の速さで働く人たちの賃金が高くなってしまうのだ。

この現象は、すでに現実のものとなっている。中国での賃金は10%どころか、25%もの年率成長を見せている。農家の人の賃金なども含めてね。で、人がお金を持つようになれば、どんどんモノを買うだろう。 中国はいずれ、「生産者」から「消費者」に転換していくのだ。それも、何十億人という単位の消費者に。同じ現象は、インドでも起こっている。

というわけで、今、世界経済は一大成長期を迎えつつある。そして、若い世代の人たちは、このタイミングで年齢が若いというだけで、非常に大きなチャンスを得ていることになるのだ。

産業を問わず、すべての若いビジネスパーソンは、自分が世界経済の今後を担っているという事実に気付かなければならない。

失敗から学んだ「SONYのモリタ」こそがあなたのロールモデルだ

Dr Eliyahu M. Goldratt_01

取材を行ったのは、ゴールドラット氏にとって最後の来日となったタイミングだった

わたしが思うに、今、若い世代の人たちは過剰に失敗を恐れている。

この意識は、上の世代の人間が植え付けてしまったものだと考えている。われわれの世代が犯した大きなあやまちだ。

実のところ、過去に成功したビジネスパーソンを見ると、何度も何度も失敗を経験している。失敗をしたことがない人なんて、誰一人としていない。

素晴らしい実績を誇るビジネスパーソンに共通していえること、それは何も失敗してこなかったことではなく、失敗から学んだということなのだ。

そもそも人間は、失敗からしか学べない。失敗こそ、人生最良の教師といえる。本当に恐れるべきは、失敗そのものではなく、2度、同じ失敗を重ねること。それは最初の間違いに気付かなかったという証しでしかない。

また、失敗を恐れてしまうと、学ぶことができなくなるから、のちのち失敗を繰り返してしまう。本当の成功をつかむためには、失敗や緊急事態に直面した時、それを隠すのではなく、そこから多くを学ぶのだ。

それまで基準となっていたルールが間違っていると気付いたら、そこからも学ぶのだ。

例えばソニーの創業者、盛田昭夫さんがどれだけの苦闘を重ねていたか。そこに注目してほしい。彼の著作を読めば、内容のほとんどが自身の失敗談で、そこからどうやって学んだかばかりが記されていると気付くだろう。

そうして盛田さんが学んだことは、古くからあった慣わしではない。とても革新的なことだ。結果、『世界のSONY』が生まれたのだ。

一方、近年のソニーはどうか。経営陣は、すでにでき上がっているビジネスルールに従っているだけのように見える。それで失敗をしているのに、そこから学んでもいない。

だから、ソニーはどんどん深みにはまり、いまだ苦境から抜け出せていないのだ。

若いビジネスパーソンは、盛田昭夫さんが自分自身のロールモデルになると理解しなければならない。そして、どんな産業に身を置く者だろうと、自分たちの手で大きな成功を成し遂げられると信じなければならない。

抵抗勢力が恐れるのは「信じてきた概念」が変化すること

ところで、あなたはわたしの著書『ザ・クリスタルボール』は読んだかい?

―― ええ、拝読しました。

この本の主人公のポールは非常に若く、小売り業で奮闘する男だ。小売りの世界は、《No Technology, No High-Tech》。革新的な何かが起こる業界ではない。しかも彼は、地域店舗の店長という、組織の下層にいた。

それでも、ポールは想定外の事態に直面した時、これまでの業界常識や会社のルールに従うのではなく、「現状が間違っている」と気付いて新しいビジネスのルールをつくった。そして、成功を手にした。なぜ、そうなったと思う?
(次ページへ続く)