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各社の「色」が鮮明に-ル・マン参戦車両から読み取る、自動車メーカーの技術戦略【連載:世良耕太】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー5』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

6月22日~23日に行われたル・マン24時間レースは、自動車メーカーの技術プレゼンテーションの場でもあった。

24h Le Mans 2013

From Audi
アウディ12回目の優勝や、アラン・シモンセン選手の事故死などが注目された今年のル・マン

コースで繰り広げられた対決の構図はアウディ対トヨタだったが、復帰の準備を進めるポルシェ、マツダ、日産も存在感を示していた。

ル・マンは4つのカテゴリーが混走しているので少々ややこしいが、基本的には2種類に分けられる。1つは、「プロトタイプ」と呼ばれるレース専用に開発した車両が属する「LMP(Le Mans Prototype)」で、自動車メーカーが主体となって参戦する「LMP1」と、プライベーターがシャシーとエンジンを購入して参戦する「LMP2」に分類される。アウディとトヨタが属するのはLMP1だ。

もう1つは、市販車を改造した車両で行う「LM GTE(Le Mans GT Endurance)」で、フェラーリ458イタリアやポルシェ911、シボレー・コルベットなどがこのカテゴリーに属する。プロドライバーを中心に構成する「LM GTE Pro」と、アマチュアドライバーを中心に構成する「LM GTE Am」に分類される。

GTE Proに参戦したポルシェが見せた「スポーツカーメーカー」の矜持

今年のレースでは、ポルシェがワークス体制でLM GTE Proを2台用意し、参戦したのが話題になった。

Le Man_porsche

人気の911でル・マン復帰を果したポルシェ

そのポルシェは2014年にLMP1に復帰すべく、準備を進めている。ル・マンのレース前には開発車両を公開し、準備が順調に進んでいることをアピールした。

911でのル・マン復帰は翌年に控えたLMP1参戦のための地ならしかとの問いに、モータースポーツ部門の責任者を務めるハルトムート・クリステンは次のように説明した。

「偶然の一致だ。911での参戦は、このクルマの誕生50周年を祝うのが目的。LMP1は完全に独立したプログラムとして動いている」

世界を見渡せば、ポルシェと聞いて911を連想するマーケットばかりではない。新興マーケットを中心に、パナメーラ(4ドアサルーン)やカイエン(大型SUV)のイメージが強い。マカン(Macan)と名付けられたミドルクラスSUVの発売も控えている。

「ポルシェをSUVのメーカーだと思っている人たちがいるかもしれない」とクリステン氏は続ける。「そうした人たちに『ポルシェはスポーツカーマニュファクチャラーである』ことを強く印象付ける目的でLMP1に復帰する。新しいレギュレーションがパフォーマンスと効率を両立させる内容なのも好都合だ」

量産車の技術戦略とオーバーラップするパワーユニット開発

2014年以降、ワークス参戦するLMP1カーは全車、ハイブリッド化が義務付けられる。組み合わせるエンジンの種類や排気量、気筒数は自由だ。現実的にはガソリン自然吸気(NA)、ガソリンターボ、ディーゼルターボから選択することになる。

ハイブリッドシステムのエネルギー貯蔵量に応じて1周あたりの燃料使用量が規定される内容のため、限られた燃料をいかに効率良くスピードに結び付けるかが、勝負のカギを握る。

「ポルシェはフォルクスワーゲン(VW)グループに属し、アウディもVWグループに属する。アウディはディーゼルターボを選択した。われわれはスポーツカーメーカーだ。ディーゼルターボもラインアップに抱えてはいるが、スポーツドライビングには(ディーゼルターボの特徴である低回転での)高いトルクより(ガソリンエンジンならではの)高回転が重要。モータースポーツと量産技術のリンクを考え、ガソリンターボを選択した。将来的には過給ダウンサイジングに進むつもりだからだ」

2014年のル・マンは、ディーゼルハイブリッドで2連覇中のアウディが引き続き同じ技術で土俵に立ち、トヨタはガソリンNAをベースにハイブリッド化したシステムで悲願の総合優勝を狙う構え(今年はアウディに実力差を見せつけられた末の2位)。ここにガソリンターボ+ハイブリッドのポルシェが加わる。

パワーユニットの性能と効率だけで24時間を制することができるほど甘くはないのがル・マンの難しさでもあり面白さでもあるのだが(アウディのエンジニアは「車体技術や快適性を含めたパッケージが重要」と強調する)、量産車の技術戦略と完全にオーバーラップするル・マンカーのパワーユニット開発は、注目に値する。

今回「復帰見送り」となったマツダのうれしい悲鳴

Le Man_mazda_serakota

1990年代のル・マン「ベストマシン」に選ばれたマツダ

ロータリーエンジン搭載車で1991年に総合優勝を果たしたマツダは、新開発した量産ディーゼルエンジンを耐久レース用に仕立て直し、2013年のイベントで電撃的に復帰する予定だった(LMP2で)。

ところが開発が間に合わず、泣く泣く参戦を見送り、2014年に向けて準備の真っ最中である。間に合わなかった理由の1つは「(ル・マン向けの)高出力化のハードルが高く、トラブルの続出で解決のメドが立たなかった」ことだと関係者は明かしてくれた。

間に合わなかった理由の2つ目は本業が忙しく、ル・マン用エンジンの開発に専門家を割り当てる余裕がなかったことだ。マツダは走行性能と環境・安全性能を飛躍的に向上させる技術を『スカイアクティブ・テクノロジー』と総称し、2012年2月に発売したCX-5から本格的に導入した。同年11月にはアテンザ(欧米ではマツダ6)にも投入。2013年6月27日には第3弾となるアクセラ(欧米名マツダ3)を発表したばかりだ(発売は秋以降)。

「2015年にかけてこの勢いは続く」とくだんの関係者は説明する。別の現場では「やりたいことはたくさんあるのに人手が足りない」という声を聞いた。まさにうれしい悲鳴で、勢いに乗るマツダが伝統のル・マンでどんな技術を披露してくれるのか、1年後が楽しみだ。

レンジエクステンダーEVへ舵を切る方針が透けて見えた日産

Nissan ZEOD RC

From Nissan
昨年のデルタウィングに続き、今年もZEOD RCが注目された日産

日産はレース部門の子会社であるニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(ニスモ)と共同で、2014年に参戦する車両を発表した。2012年のデルタウィングと同様に特別枠での出走である。

日産は将来的にLMP1へ復帰すると表明しており、この車両の電動パワートレーン技術を将来のLMP1カーに活かす考えだ。

「オンデマンドでゼロエミッションになる」という意味を込めて「ZEOD RC(Zero Emission On Demand Racing Car)」と名付けられた車両は、デルタウィングと同じ「ドラッグ(空気抵抗)半減、重量半減」のコンセプトで設計されている。

アウディやトヨタ、ポルシェと同様、内燃機関とモーターを組み合わせるという意味でハイブリッドだが、路面に動力を伝えるのはモーターのみで、搭載するガソリンエンジンは発電専用。モーター走行の航続距離を延ばすためにエンジンで発電し、バッテリーに電気エネルギーを補充するわけだ。

俗に言う「レンジエクステンダーEV」である。1周13.629kmのコースを24時間走り切るだけの容量を持ったバッテリーを積むことなど、現実的に不可能。であれば、少なくとも1周はピュアEVとして走れるだけの容量を備えたバッテリーを搭載(40MJ=11.1kWhと見積もる)し、走りながら発電して航続距離を延ばそうという発想。

バッテリー残量がなくなったらピットに戻って充電したり(クリックチャージでも数十分は必要)、バッテリーごと載せ替えたりしていたのではレースにならない。導き出した現実的な解がレンジエクステンダーだったのだろう。

日産はルノーとともに電気自動車を全世界的に普及させようと半ば孤軍奮闘する格好で取り組んでいるが、航続距離の短さなどが災いして、思ったほどには浸透していない。ル・マンでの取り組みは方針転換の現れ? とするのは勘ぐりに過ぎるだろうか。

同じ路線を進むブランドが見当たらないことも含め、ル・マンを走る車両には企業ごとのカラーが反映されていて興味深い。果たして、量産車のマーケットで勝者になるのはどこだろう。