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「戦力外社員こそ奇跡のWebサービスを作る」ドワンゴ川上量生氏が語る、未来のネット企業のあり方

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株式会社ドワンゴ代表取締役会長CTO川上量生氏

ドワンゴの創業者で、代表取締役会長兼CTO、ニコニコ動画生みの親で、スタジオジブリの見習い社員でもある川上量生氏。独自過ぎる路線でインターネット業界に話題を提供し続ける川上氏が、先月、初めての単著『ルールを変える思考法』(KADOKAWA)を上梓した。

身をもって体験したネットワークゲームの世界の深さやドワンゴ設立の経緯、ニコ動に打って出た背景、そして「ニコ動は近い将来滅びる。それが運命」という予測までが、率直な言葉で綴られている。

そんな川上氏は、これからのドワンゴ、ひいてはIT業界全体の行く末をどう見据えているのか。著書をもとにそれを尋ねるつもりだったのだが、話は思わぬところから転がり出した。

当代きってのビジョナリストが語る「異端児の正論」に耳を傾けてみよう。

プロフィール

川上量生

株式会社ドワンゴ 代表取締役会長 CTO
川上量生氏

1968年生まれ。スタジオジブリ・プロデューサー見習い。株式会社カラー取締役。株式会社KADOKAWA取締役。京都大学工学部を卒業後、コンピューター・ソフトウエア専門商社を経て、97年ドワンゴを設立。携帯ゲームや着メロのサービスを次々とヒットさせたほか、2006年に子会社のニワンゴで『ニコニコ動画』をスタートさせる。11年よりスタジオジブリに見習いとして入社し、鈴木敏夫氏のもとで修業したことも話題となった。13年1月よりCTOを兼任

アニメとWebサービスの制作過程は“超”似ている

『エンジニアtype』ってエンジニアが読み手なんですよね。ジブリに行って分かったんですけど、アニメーターとエンジニアってタイプが似てるんですよ。

社会性がなくて、精神的なメンテナンスが大変。昔ながらのエンジニアは特にそうですが、能力が高い人ほど一般社会での生活が無理、という感じまで(笑)。

あと、アニメ制作とWebサービス制作もよく似ています。ただ、業界としてはアニメの方が進んでいるんですが。

まず、人材の流動性が高いこと。ある企画のもとで1本のアニメを作るために集まって、それが終わったら解散。そういうケースが非常に多くなっているんです。日本のエンジニアは、まだそこまで流動性はないですよね。

それから、現場に決定権があるという点。一般的なアニメの作り方として、アニメーターに割り振られたカットは基本的にそのアニメーターが自由に描いていいんです。そこで新たなストーリーが生まれることもあるし、それを良しとしていますよね。

エンジニアも、仕様書通りに作るSIerだと無理ですけど、Webサービスのエンジニアだと現場で勝手に機能を追加することもありますよね。

とにかく似ているので、アニメ制作のノウハウをWebサービスの現場にいろいろ持ち込めないかなと、今、考えています。

例えばアニメ制作の工程管理はすごいんですよ。1人のアニメーターが一日あたり何秒分の画を描けば、何人で何時間で2時間のアニメが1本完成するという分業をしつつ、その中でクオリティーを担保するために、作画監督というポジションを作った。あとは背景を描く人とキャラクターを描く人を分けるとか。これってクリエイティブ性と生産性の両方をずっと考えてきて生まれたノウハウなんですよ。

そう考えると、Webサービスの開発現場でも何か参考にできるんじゃないかと思うんです。

昔は、サイトは1人で作るものだったので、魂を込めやすかったんですが、巨大化し、かかわる人も多くなって分業が進んだ結果、魂を込めにくくなっています。それを、アニメ業界の手法を取り入れて、クリエイティブ性と生産性の両方を追究できるような仕組みを作れるんじゃないかと。

株式会社ドワンゴ 代表取締役会長 CTO 川上量生氏

「異業種」のジブリで見習いをした経験から、たくさんのことを学んだと話す

―― アニメ制作のノウハウを取り入れたら成功するプロジェクトは増えるということ?

いやまぁ、最終的には、「人」なんですよ。

経験上、うまくいくのはスタッフに恵まれた時です。ただし、優秀な人が集まったという意味ではありません。エースを集めても、プロジェクトが瓦解することは多々あります。

それに、あるプロジェクトで優秀な人が、ほかのプロジェクトでも優秀とは限らないし、タイミングも大事です。

―― では、どんな人が集まったら良いチームが作れて、プロジェクトは成功するのでしょう?

成功するプロジェクトは、だいたいチャレンジャブルなもの。こういうことに挑めるのは、捨てるものがない人です。社内の主流派じゃなくって、非主流派でもない。

“非主流”ってことは、流れに属していることになるから、それですらないんですよ。

つまり、戦力外。誰かが「この会社、もう辞めたら!?」と教えてあげるべきなんじゃないかというような人が集まった時、プロジェクトは革命的に大成功するんですね。

―― (笑)。著書にも、多くの人の合意が得られるプロジェクトは成功しないという話が書かれていました。

ドワンゴを成長させた『着メロ』なんて、まさにそうでしたよ。

成功する企画が始まる時って、周りは賛成しなくても、世間的には「ダメそう」と思われている企画でも、かかわっている少人数だけが成功を信じているんです。成功する根拠なんかないのに、信じている。ほかにすることないから、このプロジェクトに賭けているんですよ。

これって勘違いですよね。でも、勘違いの先に奇跡が起こるんです。

―― そういうチームのメンバーに、戦力外であること以外の共通点はありますか?

冷や飯を食っていることと、潜在能力が高いことです。実力はあるのに、それが発揮できずに腐っている状態。一発当てるのは、こういうタイプです。

もしくは、能力は並みでも、本気で24時間ずっと真剣にプロジェクトのことを考えているタイプもうまくいきます。

100年続く会社を作ることには何の意味もない

―― 戦力外によるプロジェクトの立ち上げがうまくいくと、それにうまく乗っかってくるエリートも出てきますよね。

いますいます。でも、それはWebサービスに限らず、社会全般でも同じですよね。

そういう人たちが加わることが、サービスをダメにするのかといえば、そうでもない。彼らは一度立ち上がったサービスを1から10にするという働きはしてくれるんですよ。その時に、ゼロを1にした際の魂は受け継がれないことがほとんどで、だから廃れていくこともあるのは事実ですが。

でも、ゼロを1にした人がその後10に育て、100に成長させていったとしても、ダメになる時はダメになります。実際には、そっちの方が多いと思いますよ。

成功し続けるのは難しいですから、どの道を通っても、サービスは廃れていくしかなくなっていく。

無理を望んでもしょうがないですよね。「後からやってきた人がねじ曲げた結果、ダメになった」という話の方が世の中の共感を得やすいから、そう言われているだけだと思います。

―― 成功し続けるのが難しい中で、企業はどうやったら存続できるでしょうか。

というか、存続する必要ってあるんですかね。よく、「100年続く会社を作る」とか聞きますが、それに意味があるのかなと思います。100年続くものを作りたければ、堤防とかダムとか、頑丈なものを作ったらいいんじゃないですかね(笑)。

100年残る会社が作れたとしても、それはたまたまそうだったということであって。そこを目指すよりは、その時代、時代で必要なこと、重要なことをやった方がいいんじゃないでしょうか。

―― 100年続く会社を作りたい人と、川上さんのような考えの人と、何が違うんでしょうか。

どこまでが「自分事」だと考えるか、の違いじゃないですか。

自分の肉体が消えても残る組織、例えば子どもとか孫とか、それらも「自分」と見なせる人と、そうでない人との違いです。前者のような人はスケールが大きい人ですね。

でも、大半の普通の人にとっては、自分の肉体の及ぶ範囲が「自分」でしょう。名もない作業員の人でも、青函トンネル建設にかかわった人は、完成したことを生涯誇らしく思う。そういう範囲の話だと思います。

それに、人生には何度か勝負の時期がありますが、そこで勝ち続けることにどれだけの価値があるんでしょうか。というか、勝ち続けるって、単に運が良いだけかもしれないじゃないですか。それを願うことはできても、自分でどうにかできるものではないので、努力の範囲を超えています。
(次ページへ続く)