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「アイデアはパクリでもいい、違いは人が生む」衛藤バタラ氏に聞く、大化けするWebサービスの作り方

公開

 

衛藤バタラ氏

「完全にエンジニア特化」で「アイデアを形にしたいエンジニア募集」。

2010年から、インドネシアや日本でITベンチャーに投資活動を行っているイースト・ベンチャーズは、9月30日まで、エンジニアに対象にしたインキュベーションプログラム『East Ventures Engineer Accelerator』への参加者を募っている。

East Ventures Engineer Accelerator

「アイデアを形にしたいエンジニア 募集」とシンプルなメッセージが光る『East Ventures Engineer Accelerator』のサイト

冒頭のキャッチコピーはその募集ページに載っているものだが、同社はなぜ、「エンジニア特化のインキュベーション」を始めることにしたのか。

その背景をマネージング・パートナーの衛藤バタラ氏に聞いたところ、今、Webサービス/アプリ開発に必要な視点や、サービスを成長させるための必要条件を知ることができた。そのインタビューを紹介しよう。

一緒にプロダクトを作る「エンジニアネットワーク」を提供する理由

――今回のプログラムで、エンジニアだけを募集することにした理由は?

良いプロダクトを作る初期の段階、つまりシード期に一番重要なのは、良いエンジニアの存在です。エンジニア以外の、例えばマーケティング担当者やCOOが必要になるのは、プロダクトが完成し、世の中にリリースしてからの話。

だから、まずはプロダクトを形にする部分だけにフォーカスして支援してみようと、エンジニア特化のインキュベーションプログラムにしました。

また今回は、サービス開発のステージも、かなりアーリーなところ、「こんなアイデアを実現したいんですけど」といった人たちも対象にしています。

――プログラムに参加すると、どんなメリットがありますか?

エンジニアネットワーク

“エンジニアネットワーク”にはWebサービス開発で実績のある面々が名を連ねている

最終的には投資ということになりますが、まず、東京・六本木にあるイースト・ベンチャーズの運営するシェアオフィスを、3カ月間無料で利用できるようにします。

それから、わたしたちはお金を出すだけでなく、一緒に良いサービスを作っていく、という気持ちでいます。ですから、一般的なインキュベーションプログラムと違って、「メンター」ではなく「エンジニアネットワーク」と呼ぶ人たちとの交流の機会を提供していく予定です。

――「メンター」ではなく「エンジニアネットワーク」と呼ぶのには理由があるんですか

「メンター」って、なんか上から目線じゃないですか(笑)。そうではなく、サービスを作り進めていく上で良い相談相手のようなポジションになるように、あえて「メンター」という表現は使いませんでした。今回のプログラムに協力してくれる、伊藤直也さんや平林幹雄さん、えふしんさん山田進太郎さんなどの方々も(※同プログラムのエンジニアネットワークはコチラ )、後輩たちと一緒に良いサービスを作りたい、という強い思いから参画してくれています。

今の時代、「早く安くプロトタイプを作る力」が最重要に

――衛藤さんには、CTOとしてmixiを急成長させた経験があります。ユーザーに支持されるサービスを作るコツはどこにありますか

自分が使いたいサービスを作る、という情熱が最初にあることが大切です。AmazonもFacebookも、生まれたきっかけって「これがビジネスとして当たりそうだ」というところじゃなく、「自分が欲しいから作った」ものですよね。

実は、mixiもそうでした。こんなサービスがあったら面白いよね、というところから始まったのです。結果として、それが多くの人にとって「良い」、「面白い」サービスになるんです。

逆に、こんな技術があるから何かのサービスに使えないか、ビジネスを興せないか、という技術ありきで考える方法だと、あまりうまくいきません。

技術はあくまで手法。アイデアを形にしたいと思い、それを現実のものとする実行力が必要です。

――実行力とは、具体的にどんなことですか

スタート

by emdot
考えることよりも、とにかくスタートさせることがキモ

面白そうだなと思ったら、早く、安くプロトタイプを作り、リリースできる力です。

そしてフィードバックを得て改善していくこと。議論に議論を重ね、1年間もアイデアを練り上げてから作り始めるより、まずは行動することです。そして反応を得て改善していくことです。

だから今の時代、サービスを立ち上げたり起業する際には、エンジニアの力が必要不可欠だと思っています。

極端なことを言えば、サービスアイデアなんてパクったっていいんです。それよりも大事なのは、そのアイデアをプロダクトにする力。作りたいものを作るためには、何でもやるという気持ちと、それを実現する力が必要です。

バリューはアイデアではなく、人にあるんです。

――仮にプロダクトを作れても、その後、サービスとして伸ばしていけるとは限りません。大化けするサービスとそうでないサービスの違いはどこにあるとお考えですか

もちろん、この世界は「サービスを10個出して1つヒットすれば御の字」という世界ですから、スケールしないサービスもごまんとあるでしょう。

でも、絶対にうまくいくと信念を持っている人、いろんな人の意見を聞き、柔軟さと頑固さを持ち合わせて、プロダクトをより良いものにしていける人がサービス開発を進めないと、絶対に成功できません。

わたし自身もそうでした。軽い気持ちで作ったmixiがヒットして、トラフィックの増加に対応していた時期、わたしにはトラフィックに関する十分な知識はありませんでした。それでも、「これを何とかしたい」、「もっと多くの人に使ってほしい」という思いがあったので、自然とインフラ技術を習得できました。

過去にイースト・ベンチャーズが投資に失敗した例を振り返っても、同じです。サービスの起案者が「このサービスは大きくなるのかな」と不安を持っている場合や、完成型をイメージできていない時には、うまくいっていません。

精神論のように聞こえるかもしれませんが、実行の伴わない情熱や、そもそも“熱量”が少ない人には、絶対に大化けするサービスを作ることはできないんだと思います。

「独り」ではサービスを大きくできない。なぜなら「心が折れるから」

――今後の成長を期待しているサービスや分野があれば、教えてください。一つ例を挙げるとすると、わたしたちも出資している『ツイキャス』です。開発者の赤松洋介さんには、エンジニアネットワークに参加してもらっています。

彼らは技術力もありますし、すでに多いユーザー数も、今後はさらに伸びて、日本では数少ない「輸出できるサービス」に成長していくと期待しています。

衛藤バタラ氏

衛藤氏いわく、どんなサービスが当たるのか知見を溜めたい意味もあるのだという

ただ、このジャンルが伸びる、という予測は難しい。だから、今回のようなプログラムを用意しているんです。

例えば医療に詳しい人の中には、その世界での課題やそれを解決するサービスのイメージを抱いている人がいるはずです。そういう人たちの話を聞いて「だったらこういうやり方があるね」と、一緒に、伸びるサービスを作っていきたいです。

――衛藤さんの経験から、かつての衛藤さんのような若いエンジニア、これからスタートアップを目指す人へ、アドバイスをお願いします。

わたしはmixiを辞めた後、えとらぼという会社を立ち上げ、独りで開発をしていました。この時気が付いたのは、最初はどれだけ情熱を持っていても、独りでは心が折れやすくなるということです。

やっぱり、人はみんなと生きていく存在。近くに、相談ができたり、頑張っている姿を見られたりするエンジニアや起業家がいることは、モチベーションに大きくかかわります。

特に、なかなかプロダクトが形にならない初期のころは、独りでは弱気になってしまいがちです。

イースト・ベンチャーズが、若手のエンジニアを対象にしたシェアオフィスを運営しているのは、それのためです。わたし自身も、このオフィスで夜遅くまで頑張っているエンジニアを見ると、負けていられないなと思います。

また、mixiのころの自分を振り返ると、マネジメント力が不足していたなと思います。エンジニアはどうしても、すべてを自分で作りたがってしまうんですね。

でも、早く安く、ということを優先させるためには、ほかの人の力を借りることも重要。こういったことも、『East Ventures Engineer Accelerator』で伝えていければと考えています。

取材・文/片瀬京子 撮影/赤松洋太