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中高生の”3大教養”を英語・IT・自己発信に~『Edu×Tech Fes 2012』に見る島国ニッポンの生きる道

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昨年の「Life is Tech!」決起会から1年。以前にもまして、ITと教育のコラボレーションはニーズが高まってきている

2012年5月27日(日)。東京大学本郷キャンパスに、「ITで教育を変えていこう」と本気で考える人たちが集まった。

昨年立ち上がった、中高生が楽しくITスキルを身に付けられるプログラム「Life is Tech!」を主催するピスチャーの呼びかけで開催されたこの『Edu×Tech Fes 2012』。日曜の午後にもかかわらず、中高生をはじめ、さまざまな層の聴衆で超満員となった。

登壇者は豪華の一言。元Google日本法人社長の村上憲郎氏に始まり、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏、脳科学者・茂木健一郎氏、ジークラウドCEO・渡部薫氏、さらに慶應義塾大学の特別招聘教授・夏野剛氏やEvernote株式会社会長の外村仁氏など……。各界の著名人が、IT教育についてそれぞれの見解を述べた。

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豪華登壇者による「IT教育の未来」と「開発者の必須スキル」

村上氏が唱えたのは、「グローバル社会で活躍する」ということだ。仕事をすることの本質を構造的に説明した上で、社会構造が大きな変革を迎えていると話す。また、今後働く上で「英語運用能力」がすべての人に共通の必須スキルとなると断言し、スキルアップのために「1日3時間の学習を、3年続けること」を提言した。

教育の世界でデジタル教科書を推進するDITTの責任者でもある中村氏

中村氏は、デジタル教科書教材協議会(DiTT)の副会長として、他国の取り組みと比べ日本が遅れていることを懸念している

続いて登場したのは、中村氏だ。同氏は、イラストやデータを用いた説明で日本と世界の教育環境について分かりやすく説明。

Twitterの最高ツイート数を記録した(※2012年4月時点)昨年末の「2億バルス」や、初音ミクを事例に挙げ、「情報生産、発信では日本が先進的なのに、教育のIT化はほかの先進国に遅れを取っている」と示唆。同氏が現在行う活動を通して、「世界一の教育環境を日本にもたらしたい」と、力強く語った。

東京大学大学院教育学研究科教授の三宅なほみさんは、21世紀スキルとして、チームで課題を解決していく「協調学習」の重要性を唱え、脳科学研究者としても馴染みの深い茂木氏は、灘高校に通うスーパー高校生・Tehu(@tehutehuapple)君とのトークセッションで日本の英語レベルについて言及し、会場にいる中高生に対して海外の大学への進学を促した。

中でも印象深かったのは、MOVIDAJAPAN代表取締役CEOの孫泰蔵氏が語る「世界で通用するエンジニア」論だ。

「若者よ、創造者たれ」という言葉とともに、まずは何でも良いから自分のアイデアを形にできるようになることが大切だと話す。『Instagram』や『foursquare』といった大ヒットプロダクトが、ごく少数のチームで開発されていることや、2002年ごろに3億円ほど掛けて作ったサーバも今では9万円程度で作れること、そして、OSなどのフリーソフトを使えばローコストでも高度なサービスが作れることなど、開発者にとって恵まれた時代だということを意識付けた。

最後に、これから開発に携わろうとする人に向けて、「マーケットが一気に広がる」、「自然にシンプルで分かりやすくなる」、「ユニバーサルなサービスを自然に意識する」、「世界中の人材を活用できる」という4つの観点から、はじめから英語ベースで開発することを提言した。

いずれ来る「グローバルなギーク至上主義」社会を生きるスキルセット

超満員の会場が、多くの人が「IT×教育」に関心を寄せていることを物語っていた

超満員の会場が、多くの人が「IT×教育」に関心を寄せていることを物語っていた

上記セッション以外にも、夏野氏、渡部氏、Evernoteの外村氏など、すべてのセッションが見逃せない内容だった。

そして彼らのセッションを通して、これからの若者が備えておくべき3つの教養が浮き彫りになってきた。

一つ目は、言うまでもなく「英語」だ。これまでも言われ続けてきたことではあるが、多くの識者が「話せることが普通になる日はそう遠くない」という見解を持つ。

二つ目は、「ITリテラシー」。もはや情報そのものに価値はなく、必要な情報をいかに要領よく探し出し、その情報を使って何をするかに価値が見出される。そして、孫氏の言うように「開発」への敷居が下がっているため、ITを駆使してビジネスをクリエイトできる能力も重要になってくる。

そのビジネスを作っていく時に必要とされる能力が、孫氏がセッション時に話したアーキテクト(仕組みや構造を作る人)としての能力。具体的には、ビジネスを設計・モデリングする「抽象化能力」、システムをシンプルにするための「捨象能力」、自分でプロトタイプを作れる「プログラミング能力」、いざという時の「決断力とリーダーシップ」、チームビルディングを円滑にする「コミュニケーションスキル」だ。

そして最後のスキルが、「自己発信」だ。夏野氏が、「この14年間で、ITによって世の中の仕組みが大幅に変わった。世の中が変わるんだから、自分自身もしょっちゅうアップデートしなければいけない」と話せば、外村氏も、「過去の成功体験は、今の時代にはほとんど通用しないと思った方が良い。市場や技術の大幅な変化により、たった3年先のことすら予測不能」と話す。

クラウドやアプリマーケットの発展、ソーシャルメディアの発展によって、ギークな人たちが脚光を浴びやすい「ギーク至上主義」(外村氏)がさらに浸透していけば、おのずと「自らクリエイトしたものを自己発信することでキャリアを作る」という社会になっていくと提言していた。

昨今の日本のモノづくり産業の衰退を見ても分かるように、安定・安住の地はなくなりつつある。そんな時代だからこそ、真の安定は、アップデートし続けることなのかもしれない。

少し前までは希少なスキルだったものが、今となっては一般教養として多くの人が持ち合わせている――。今の中高生がエンジニアやビジネスパーソンになるころには、そうなっている可能性があるかもしれない。そんな世の中にワクワクしつつも、大人たちも常にアップデートし続けていかなければいけない。そんな心地良いプレッシャーを与えてくれる、刺激にあふれたイベントだった。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)