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日本人の英語習得で待ち受ける「ノンネイティブ」「アジアネイティブ」「欧米ネイティブ」の壁を突破するには?~トリップアドバイザー伊藤彰彦氏

公開

 

エンジニアが仕事で使える英語のtipsをご紹介する本連載。今回は、世界最大の旅行クチコミサイト『トリップアドバイザー』の日本法人で働くマーケットディベロップメントの伊藤彰彦氏に話を聞いた。

大学での旅行が初の海外だったと話す同氏だが、今ではボストンやロンドンにいる同僚と仕事をするまでに英語は上達。大学・大学院、新卒で入社したソニー、現在在籍するトリップアドバイザーで伊藤氏が実践した学習法とは――。

プロフィール

トリップアドバイザー マーケットディベロップメント

伊藤彰彦氏

2009年に東京大学大学院を卒業。学生時代は英語ディベートや国際ビジネスコンテストで活躍。その後ソニーに入社し、ブルーレイホームシアターシステムやオーディオシステムなどの商品企画を担当。2013年1月にトリップアドバイザーに移籍。Market Developmentチームに所属している

≪過去の英語力レベル≫
大学入学当初はほぼ話せなかった。大学院在籍中に受験したTOEFLは91点、TOEICは890点。ソニー入社後TOEICは950点程度まで上がったが、仕事は日本語が中心だったため、コミュニケーションという点ではあまり伸びなかったそう。

≪現在の英語レベル≫
トリップアドバイザーに入社してから英語を使ったコミュニケーションにかなり慣れ、2014年に受験したTOEFLでは105点を突破。仕事では外国人の同僚が話す内容の90%以上は理解でき、自分の言いたいことの40~50%は伝えられる。

≪学習法≫
・大学・大学院在籍中:英語ディベートの練習、NHKのラジオ番組『やさしいビジネス英語』のリスニング、受験の時に使用していた英単語帳「DUO」の復習、日中韓の学生を対象とした国際ビジネスコンテストへの参加や学生団体設立に参画。

・ソニー在籍中:海外の販売会社を対象とした英語でのプレゼンテーション。配属先が変わってからは海外のエンジニアとのやりとりも増えた。

・トリップアドバイザー在籍中:メールや会議の90%が英語で行われる。欧米圏のネイティブスピーカーとのやりとりを通じて試行錯誤を行っている。

海外経験ほぼゼロでも大学の英語ディベートで上達

トリップアドバイザー日本法人に在籍するマーケティングディベロッパーの伊藤彰彦氏

―― 現在のお仕事について教えてください。

中国とインドを除くアジアパシフィック地域におけるサービスの改善を行っています。主に見ているドメイン数としては全部で10あり、発見した課題を解決した時のインパクトの大きさに応じて優先順位を付け、ボストンにいるエンジニアと連携して取り組んでいます。

例えば、最近では日本を旅行する旅行者が「旅館」をホテルと比較しやすいよう、日本地域に限り2つのカテゴリを一緒にしたランキングを出すようにしました。

チームメンバーは10名以下で、オフィスはボストン、ロンドンなどに散らばっており、国籍もアメリカ人、イギリス人、ロシア人、ブラジル人とばらばら。バックグラウンドも、プロダクトマネジャー、コンサルタント、企業内起業家などさまざまです。

私の上司はイギリス人ですが、チーム内での上下関係はあまり感じず、フラットな印象です。

ソニーでの仕事は、欧米向けのブルーレイホームシアター、中南米向けのオーディオを担当するなど非常にグローバルかつ、多くの人と新しい製品を世の中に生み出していく仕事でとても好きでしたが、より変化の早い業界でより大きな責任範囲を持って新しい製品を生み出したいと思うようになり、転職しました。これは入社後に気付いた点ですが、ソニーのようなメーカーと、トリップアドバイザーのようなWebサービス企業では、プロダクトの実装に対する考え方が大きく違います。

家電などのソニーの商品は一度世に出してしまうと改善は容易ではなく、また故障するとユーザーへの影響が大きいため、開発・生産・流通の時点で非常に多くのステップを踏んで問題が発生しないよう緻密な品質のコントロールを行います。

一方で、トリップアドバイザー、つまりWebサービスは速さの世界。一週間早く改良の実装ができればその分の収益を得ることができますし、その改良がうまくいかなければ外すことも比較的容易にできます。品質かスピードか、どちらに比重を置くかが一番の違いだと感じています。

サービス改善の一例。以前は、ホテルと旅館のランキングは違うタブにあり、比較するには2つの画面を開く必要があった

現在、仕事の90%は英語で行っています。時差があるため、こちら(日本)のワーキングタイムに作業をして、議論はワーキングタイム外が多いです。特に、エンジニアとのミーティングは、日本時間の深夜に行うことも多いです。体力的には大変な週もありますが、遅くまで働いた日は遅く出勤するなど、調整しながら働いています。

ディベートでよく使う表現から学習

―― 英語や海外との接点は。

大学受験のころから、漠然と世界で活躍したいと思っていました。

入学前に翻訳家の方に英語について相談した時に、E.S.S.(English Speaking Societyの略。英語を使ってスピーチやディベートなどを行う学内の部活動のこと)を勧められ、入部しました。入部時の自己紹介が英語で自己紹介をする初めての機会だったのですが、自分の名前と自転車で通学していることを表す2文しか話せませんでした。

恥ずかしさはありましたが、その時は、「鍛えれば2文以下になることはない。ここから始めればいい」と開き直りました。

E.S.S.では英語ディベート(討論)に取り組むことにしたのですが、話せない・聞けないと相手に勝てないため、英語学習を開始しました。まずは、ディベートで良く使う表現を覚えることから始め、少しずつ表現を増やしていきました。

例えば、

-The premise of this argument is that…. However, this premise is not supported by ….(この議論の根拠は~です。しかしながら、この根拠は~によって支持されているものではありません)

-Their reasoning is wrong because….(彼らの理由付けは間違っています。なぜならば~)

など。

あわせて、討論の議題となる問題の深刻さをより伝えるための叙述的な表現も学びました。ディベートで使っていたような直接的な議論の表現は強すぎて、仕事ではほぼ使いませんが、英語で議論をすることについてはこの時にだいぶ鍛えられました。

ほかには、ストーリー仕立てで進んでいくのが好きだったので、NHKのラジオ番組『やさしいビジネス英語』でリスニングを鍛えました。また、受験の時に使っていた英単語帳のDUOを復習して、一つずつ使えるようにしていきました。

学生時代の写真

大学4年時に日中韓のビジネスコンテスト「OVAL」に参加したり、大学院在籍時に『LEAF (Linking East Asia Future)』、「EAMS (East Asia Media Studies)」という2つの日中韓を対象とした学生団体設立に関わる機会があり、中国人、韓国人のチームメイトと仲良くなりました。

これをきっかけに中韓の友人が多くなり、英語で会話やメールをする機会が増えたことで、リスニングとスピーキングが少しずつ上達しました。

ちなみに、初めて海外を訪れたのは、大学1年の春休みでのアイルランドへの旅行でした。

日本人の英語上達には3つのステップがある

―― 自分の中で英語に関するブレイクスルーを感じた瞬間は。

トリップアドバイザーに入社してからでしょうか。アジアで仕事をすることが多いであろう日本人にとっては、英語の上達には3段階あると感じています。

1段階目は「ノンネイティブスピーカー同士」で通じ合えること。2段階目は「アジアのネイティブスピーカー(シンガポール、インドなど)」と通じ合えること。そして、3段階目が「欧米のネイティブスピーカー」と通じ合えることです。ソニーにいた時には2段階目までは到達できた印象がありました。

今の会社では欧米のネイティブスピーカーたちとの仕事です。本社が東海岸ということもあり、話すスピードが速くて、最初は議論についていくので精いっぱい。仕事外の会話でも正直初めの頃はあまり仲良くなれた感覚を得られませんでした。

さらに、Webサービスは自分にとっても新しい領域でしたから、知識の面でもついていくのが大変で、早いスピードで進む議論になかなか割り込むことができず苦労しました。

しかし、そんな中で信頼感を築いていかないといけませんから、データ分析やアジア市場の知識などといった自分の得意分野で価値は出すようにしました。それと同時に、相手と同じ言葉を使おうと、毎回のディスカッションの時に気付いた表現をメモして、一つずつ使えるようにしていきました。例えば、

-tap into(~を活用する)
-capitalize on(~を利用する)

などは、同僚が良く使う表現ですが、とても使いやすいです。

そうしているうちに、欧米のネイティブスピーカーの人とのコミュニケーションについても、抵抗はほぼなくなりました。

現状は、仕事においては背景を共有していることもあり、相手の言っていることの90%以上は理解でき、こちらの言いたいことの40~50%は伝えられている印象です。TOEFLは今年受けたら105点を超えていました。仕事外でのコミュニケーションはまだまだ課題がありますが、着実に前進はしています。

伊藤氏(写真奥)と同僚の皆さん

―― エンジニアとのコミュニケーションで工夫したことは。

エンジニアの言葉を使うことを意識しています。

例えば、ぼやっと「Aという件でデータベースに正しく記録されていない」といっても、「どこのテーブルでどんな時?」と言われてしまいます。ですから、「データベースのBというテーブルのFというコラムにG、Hという条件の時、情報が記録されない」といった具合に表現できなければなりません。

すぐに席に行けるわけではないということもありますが、インターフェースに関わる部分などは説明だけでなく図や画像を貼付けて、「中国語ではここの部分で意味が切れるから、ここで折り返してほしい」などと何事も可能な限り具体的に指摘するようにしています。

こうした知識は、トリップアドバイザーに入社してから、関連する書籍を読んだり、他のインターネットサービスを分析したり、仕事をしながら学びました。

―― 英語上達のための今後の課題は。

今は「伝える」という部分に伸びしろを感じています。例えば、問題を見つけて、それをメールで対処してもらおうとする時に、

-We’ve found ◯◯. When do you plan to fix it?(○○を見つけたのだけど、いつ直るの?)

よりも、

-We’ve been made aware of ◯◯…. I wanted to check with you to see how long you think the issue might last?(○○であることに気が付いたよ。それによって起こる問題がどれぐらいの期間続きそうか、一緒に検証してみたい)

の方がソフトに聞こえますし、より良い関係を築けると思います。

日本語でも、「○○を見つけたのだけど、いつ直るの?」という言い方は親しい仲ならば良いでしょうが、特に遠隔で働く場合は若干強く聞こえる場合もあり、それと同様に英語でも言葉遣いに気を配るようにはしています。表現やニュアンスの伝え方については、まだまだ学び途中です。

また、プロダクトマネジャーという仕事上、エンジニアやデザイナーと密に働くため、いかに相手のテンションを上げられる会話ができるか、というのも学んでいる途中です。特にポジティブな単語や表現の語彙を増やすようにしています。

英語という点では、一つずつステップを踏んできた、という印象で、おそらくもっと効率の良い方法があると思います。

自分の場合は1カ月以上海外に住んだ経験はありませんが、もし1年でも留学していればもっと早く今の水準まで達していたと思います。自分自身がトリップアドバイザーに入ってから英語でのコミュニケーション能力が大きく伸びたと感じているため、できるだけ早く英語のみでコミュニケーションを取らなければならない環境に自分を置くのが上達の秘訣なのでは、と感じています。

取材・文/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo