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EvernoteがPCバッグを売る理由~『Evernote Market』などの新展開から、アプリベンダーの未来を先読む

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Evernote CEO、フィル・リービン氏

Evernote CEO フィル・リービン氏

2013年10月1日、Evernoteが都内で新サービスの記者発表を行った。

Evernote Market

『Evernote Market』では当記事で紹介している商品のほかに靴下やTシャツなども販売している

主な発表は次の2つ。1つはクラウドプラットフォームのsalesforceとの提携や、android用のEvernoteリリースという、Evernoteのサービスの拡張について。

そして2つめは、各メーカーと協業で開発したスタイラスペンポスト・イット®、『ScanSnap』の限定商品『ScanSnap Evernote Edition』、PCバッグなどコラボ商品のリリースと、それらを販売するオンラインストア『Evernote Market』の立ち上げである。

アプリケーションベンダーであるEvernoteが、自社ブランドとしてPCバッグなどの商品を開発・製造し、自社のオンラインストアでEC事業をスタートすることは傍目から見ると何とも意外な話である。

しかし、その裏側にはEvernoteが目指す未来への展望が隠されていた。

「垣根のなくなった世界」で問われ始めたトータルデザインの視点

記者発表で登壇したEvernote CEO、フィル・リービン氏は、今、アプリケーションベンダーを取り巻く環境についてこう語った。

「世界ではフィジカルとデジタルの境目がどんどんなくなっており、ハードウエアとソフトウエアの境目もなくなっている。仕事で使うもの、プライベートで使うものの境目もなくなっているところだ。そんな世界でEvernoteがスマートワーク、スマートライフを提供するために重要なのは、(エコシステムそのものを)デザインすることだという考えに至りました」

ScanSnap Evernote Edition

当日行われた『ScanSnap Evernote Edition』の実演には、長蛇の列ができていた

商品の作り方にもそれは表れている。今回リリースした商品の1つ、『ScanSnap Evernote Edition』は、デザインスタッフとしてEvernoteからもデザイナーが参加して開発された。

内蔵のソフトウエアも、EvernoteのエンジニアがScanSnap開発チームのある日本に何度か出向きながら、共同で開発されているという。

「スマートワーク、スマートライフを実現するには、一つのビッグビジョンの下、さまざまな製品や体験を一貫性を持って生み出すことが重要だと考えています。だから、われわれは自社のことをアプリベンダーとは考えていないのです」とリービン氏。

オンラインストア『Evernote Market』の立ち上げをきっかけに、“ユーザーの生活をトータルデザインする”企業として進化していこうという同社のビジョンが強く見て取れる。

パートナーシップがもたらした恩恵

Moleskine

前回好評だったMoleskine社と共同開発のノートブックシリーズにも新商品が発売される

しかし、スタートアップが他業種、特に製造の分野に進出するには大きな障壁があるのも事実だ。

例えば、リアルなマテリアルを製造・販売することで、在庫を抱えることは言うまでもなくコストがかかり、売り切れなかった場合のリスクも伴う。

Evernoteは、この問題をどうクリアしようとしているのか。その答えの一つが、すでにリアル・マテリアルを製造している企業とのパートナーシップである。

「今回われわれは、世界を代表する素晴らしい企業とパートナーシップを組むことで、ソフトとハード、フィジカルとデジタルの境界を越えるきっかけを得ることができました。

わたし自身がソフトウエアエンジニアとして長年やってきた中で、次第にプログラム以外の領域~それはハードウエアだったり人のつながりだったりしますが~まで含めてデザインしていくことで、よりイノベーテイブなことができると思うようになったのです」(リービン氏)

とはいえ、商品を製造するには「売れる」確信がないとなかなかスタートできない。販売事業自体の光明はどこに見出したのだろうか。

「きっかけは、昨年Moleskineと共同開発したスマートノートブックです。これが想定していたよりもたくさん売れたとMoleskineからご報告いただき、われわれも驚いたんです。この前例ができたことで、新しいチャレンジに拍車が掛かりました」とはEvernote Japanの外村仁氏。

社内だけではなく、社外からも高い評価を得られたことで、今回の多種多様な業界との協業が実現したのだ。

abrAsus PCバッグ

鞄ブランド『abrAsus』と共同開発されたPCバッグ。机などにおいてPCを出し入れする際、倒れにくい工夫がされている

また、今回発表された製品ラインナップに『ScanSnap』『abrAsus』シリーズという日本の企業のブランドが2つ含まれている理由として、Evernote Japanの井上健氏はこう語る。

「やはり日本のプロダクトは世界的に見ても“良いもの”が多いですから。モノづくりにおける仕事のきめ細やかさが違います。商品自体の品質が良いので、Evernoteとしてもコラボレーションしたいと思う企業が多かったのです」

「100年続くスタートアップ」の実現のために

「100年続くスタートアップ」

「われわれは100年続くスタートアップを目指しています。今はまだ5年目。あと95年間、会社を発展させ続けるためには先の5年の流れを見通さなければなりません。今後5年間でさらに発展していくには、ユーザーのライフスタイルをトータルデザインができる企業として発展していくべきだとわれわれは考えているのです」(リービン氏)

今後もさまざまな企業とのコラボレーションを通じて、デジタル以外の領域でもユーザーの生活や体験を豊かにしていくことを目指すというEvernote。シリコンバレーでも有数のアプリベンダーが着手した次の一手に、今後も目が離せない。

取材・文・撮影/佐藤健太(編集部)