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事業拡大に突き進むクックパッドで、井原正博氏が抱く「危機感」とは?【連載:エンジニアの幸せな職場】

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エンジニアにとって、本当に「働きやすい環境」ってどんなのだろう? という疑問を解消すべく、組織づくりや職場環境に秀でたTech企業にインタビューを敢行するこの企画。インタビュアーは、エンジニアのためのポートフォリオサイト『Forkwell』や、エンジニア目線の求人・転職サイト『Forkwell Jobs』を運営する株式会社garbs取締役おおかゆかさん。エンジニアが「幸せに働ける職場」のあり方を探る!

Interviewer
Forkwell_ooka

株式会社garbs 取締役 Forkwellプロダクトマネージャー
おおか ゆかさん [blog:表参道フォークウヱル別館]

関西学院大学経済学部を卒業後、独立系SIerを経てインフォシーク社に入社。楽天による買収後も含めて、インフォシークのログイン周辺機能や各種コミュニティサービスの開発を担当。その後フリーランスとして活動、業務委託で入ったgarbsで提案したエンジニアのスキルマッチングの企画が採用され、そのサービス『Forkwell』のプロダクトマネージャーとなり現在に至る。公式ブログ『表参道フォークウヱル別館』でエンジニア採用について辛辣に語る記事も評判

おおか クックパッドさんは、ここ2~3年エンジニア採用が好調で、最近では「Rubyエンジニアのブラックホール」なんて言われるほどです。RubyKaigiで発表するような方々がどんどん入社している印象なので、今日はその秘密を伺いたいと思っています。現在のエンジニアリングチームを作られたと言っても過言ではない井原正博さん、よろしくお願いします!

井原 僕でお話できることなら何でも。よろしくお願いします!

おおか いきなりですが余談から(笑)。わたしがクックパッドさんのオフィスに最初にお邪魔したのは、2008年の12月だったんですよ。

井原 月まで覚えているのはすごいですね。どんなご用事で?

おおか 入社面接を受けに来たんです。

井原 えっ、そうなんですね。

おおか その時は2次面接まで行って不採用で、「今後のご活躍をお祈り申し上げます」と書いてある“お祈りメール”をいただきました(笑)。井原さんは、クックパッドにはいつから?

井原 2010年の1月1日入社ですね。

おおか 今はコミュニティ推進室のエンジニアということですけど、以前は技術部長をされていたんですよね?

井原 はい、入社してから2年半くらい、エンジニアの採用などをやっていました。その後、やっぱりサービスを作りたいということで、今の部署へ移ったんです。

おおか 役職を捨てて開発の現場に戻られたわけですね。けっこうタダごとではないと思うんですけど、何が井原さんをそうさせたんでしょう?

井原 僕はクックパッドに入る前、Yahoo! JAPANで8年くらい働いていて、最後の1年は部長職でした。自分ではコードを書かないし、使うのはExcelとPowerPointだけだったんです。それが辛くなってクックパッドに入った身ですから、やっぱりコードを書いて、サービスを作りたかったんですよね。

技術の会社にするために行った、地道な「食事会」

現在の開発体制を作り上げるまでの2年半について明かす井原氏

おおか 井原さんがご入社されたころって、エンジニアリングチームはどんな感じだったんですか?

井原 当時のクックパッドも「技術の会社」を自称していましたけど、みんなまだまだやれることはたくさんあると思っていて、「じゃあ本当に技術の会社にしよう」と。

おおか どうやって「技術の会社」にしてきたんですか?

井原 まずは何より採用が大事だなと考えまして。「今いる社員にはない強みを持つ人」を採ることから始めました。それを繰り返していくことで、すごいエンジニアたちが互いに刺激を受けながら、切磋琢磨して働ける職場にしていこうという戦略です。

おおか 口で言うと簡単に聞こえますが、実際にやろうとすると難しい気がします。何か秘訣のようなものがあったんでしょうか?

井原 とにかく勉強会などに顔を出して、いろんな人に会うしかなかったですね。で、気になった方は「一緒にご飯でもどうですか?」と誘って、話を聞いてもらう。うちの会社にはキッチンがあるので、けっこう気軽に来ていただけたのかなと思っています。

おおか 転職しそうなエンジニアを見つけて声をかけてたんですか?

井原 いえ。今すぐに転職を考えてはいなそうな人でも、口説けば気が変わるかもしれないし、何年後にはという話になるかもしれないので。

おおか そうやってたくさんの人に会ってお話する中で、「この人に来てほしい!」と思うのはどんな人でしたか? やっぱりRuby界隈で有名な人とか?

井原 「Rubyで開発したい」とか、「(2011年10月と早期にサイト運営環境を完全移行していた)AWSを使いたい」などいう理由で来てくれるのもナシではありませんが、やりたいことが技術ありきな人だと、極論、クックパッドじゃなくてもほかの会社でできるじゃないですか。

おおか まあ、そうですね。

井原 それに、ある日突然「クックパッドは今後Pythonで行きます!」となったら、そういう人たちは会社に居続けてくれるかどうかも分からない。だから、扱う言語や技術力だけで採用したいとは思いませんでした。

「既存社員にはない強みを持つ人」を採用基準に挙げた井原氏だが、勧誘時は別の点を重視

おおか ではどうやって判断を?

井原 クックパッドがやりたいサービスづくりに共感してくれる人かどうか。これが一番の判断基準でした。技術という「道具」が変わっても、クックパッドが目指す世界はいいよね、と思ってくれそうな人というか。

あとは、ちょっと語弊のある言い方かもしれませんが、僕が「この人なら100%信じることができる」、「絶対にうちで働くべきだ」と思える人かどうかも大事にしていました。Googleは、面接で「飛行機が飛ばなくなった時、空港でその人と一晩明かせるかどうか」を合否の基準にするという話があって、それに近い感覚です。

おおか 今はどうなんでしょう?

井原 僕は半年前に人事を離れたので、今どんな基準でやっているか正確には説明できませんが……(と、同席していたクックパッド人事部 採用グループ長の鷲見美緒さんの方を向く)。

鷲見 基本スタンスは一緒です。採用ルートも社員の紹介が多くて、6、7割くらいですね。

「サービスを作る」という特権を捨てているエンジニアはもったいない

おおか なるほど。その結果、現在のクックパッドのエンジニアの数はどれくらいになっていますか?

鷲見 60人くらいですね。

井原 僕がクックパッドに入った2010年ごろは10人前後でした。

おおか 約3年でかなり増えたんですね。次に評価の話もお伺いしたいんですが、クックパッドではどんなエンジニアが高く評価されるんでしょうか?

井原 サービスを作りたいという情熱を持っている人、そして実際にチャレンジする人です。

去年の10月に入社した若手の中に、すごい奴がいるんですよ。その社員はもともとエンジニアではなく、別の部署で採用されたので、プログラミングは全然できなかったんですね。でも、「自分でサービスを作りたい」ってやる気だけはすごくあって、そのやる気で、本当にサイトを作っちゃったんです。

ソースコードは汚いし、僕らが見ればいわゆる「クソコード」なんですけど、思いを形にした行動力と精神力はすごいなーと。そのサイトっていうのが、今年11月に分社化したばかりの『漢方デスク』なんですけど。

プログラミング未経験者が独学し、新規サービスとして立ち上げた『漢方デスク

おおか なるほど。Y Combinatorの起業家エンジニアたちも、コードが綺麗かどうかを気にしない人が多いらしいですね。

井原 それに比べると、いくら力量があるエンジニアでも、「何かを作りたい」、「Webサービスで世の中の問題を解決したい」という思いがない人って、もったいないというか。

そういう視点で言うと、今のクックパッドのエンジニアリングチ-ムはまだまだだと思っているんです。このままじゃヤバいという危機感もあります。
(次ページへ続く)