エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

エコでソーシャルな「フォーミュラE」が可能にする、近未来のレースとは【連載:世良耕太】

公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『モータースポーツのテクノロジー 2013-2014』(三栄書房/1680円)、『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

F1の地上波放送は2011年を最後に終了し、以後BS放送に移行した(移行以前から行っていたCS放送は継続)。人気の低下によるスポンサーの減少を想像したくなるというものだ。

そんな状況であるのに、人気が出るかどうかも分からない新シリーズを全戦放送する民放局が現れた。テレビ朝日である。放送するのは2014年秋から始まる「フォーミュラE選手権」で、地上波、BS、CSの3波一体の総合編成で、公式練習から予選、決勝までをフルにカバーするという。

編成の詳細は2014年9月の開幕直前まで待つ必要があるが、モータースポーツ番組の新たなトライであることは間違いない。フォーミュラEは、視聴者参加型のモータースポーツという点でもユニークなアイデアを持ち込もうとしている。詳細は後述するとして、まずは概要を説明していこう。

電気自動車レース「フォーミュラE」とは

見た目はほぼF1を踏襲しているフォーミュラEの車体

見た目はほぼF1を踏襲しているフォーミュラEの車体

フォーミュラEは、F1(フォーミュラワン世界選手権)やWEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)、WTCC(世界ツーリングカー選手権)などを統轄するFIA(世界自動車連盟)が立ち上げる新シリーズだ。「フォーミュラ」はタイヤやドライバーが露出した車両形態を表す。写真を見てお分かりのように、F1によく似たルックスをしている。

F1の「1」は頂点を表すが、フォーミュラEの「E」はエレクトリックだ。つまり、電気自動車である。FIAが統轄するほかのカテゴリーと同様、チームは技術規則の範囲でオリジナルの車体を製造し、技術の優劣を競うのが基本だ。

技術の競争によってモーターやバッテリー、インバーターといった電動化技術を磨き、磨いた技術を量産にフィードバックするのが狙いである。

ただし、初年度は参戦チームの負担を減らそうと、シリーズ側が用意した共通のマシンで争う決まり。2年目の2015-2016シーズン以降は、オリジナルマシンでの参戦が可能になる。

環境にやさしいフォーミュラEでレースが変わる

フォーミュラEはレースを開催する環境もユニークだ。

レースといえばサーキットで開催するのが一般的である。レーシングカーと爆音は付きもので、例外はあるものの爆音を生むイベントを街中で開催するわけにはいかず、サーキットは人里離れた場所にあるケースが多い。

だが、フォーミュラEは電気自動車なので、エンジンを積んだレーシングカーのような爆音をとどろかせることはない(でも、独特の高周波電磁音を放ちながら走る。それはそれで魅力的)。走行中に排ガスを放出することもなければ、CO2も発生しない。

その特徴を活かし、市街地に設けた特設コース(全長2.5~3kmを想定)で開催する。音が静かで排ガスを放出しない電気自動車の特徴を、市街地での開催でアピールする狙いだ。

市街地で行なわれるレースもF1のそれと比べると圧倒的に騒音・排ガスが少なくなる

「排ガスゼロ」という特徴は、市街地で行われるレースとして歓迎されやすい

2014年の秋から2015年の夏にかけて開催が予定されているのは、北京(中国)、プトラジャヤ(マレーシア)、リオデジャネイロ(ブラジル)、プンタデルエステ(ウルグアイ)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、ロサンゼルス(アメリカ)、マイアミ(アメリカ)、モナコ、ベルリン(ドイツ)、ロンドン(イギリス)である。

自動車が環境負荷を減らして行くためには(すなわち走行中のCO2排出量を激減させるには)、電動化を避けて通るわけにはいかない。ゆくゆくは販売される自動車のかなりの比率を内燃機関と電動化技術を組み合わせたクルマが占めることになる。

内燃機関を持たないピュアな電気自動車は、内燃機関を搭載したクルマの代替ではなく、都市内の移動手段などとして存在価値を見つけていくことになりそうだ。

化石燃料を使うクルマがゼロになることはないが、電気エネルギーを利用して走る技術が急速に身近になっていくのは間違いない。イメージ的には前者より後者の方が先進的で、環境にもやさしい。

フォーミュラEに期待される技術の未来

となると、「わが社は積極的にかかわっています」、「わたしは大いに関心があります」と訴えておくことが、企業や個人にとってPR上とても重要だ。レオナルド・ディカプリオは俳優としてではなく環境活動家として、モナコにベースを置くチームの共同オーナーに名を連ねている。

フォーミュラEの共通マシンが搭載する電動システムは、ルノーが統合する。パワートレーンおよびエレクトロニクスはマクラーレン・エレクトロニクス・システムズ、バッテリーはウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングが担当するなど、F1でなじみのある企業が名を連ねている。

市場製品への反映のためにミシュランは参戦を決めた

市場製品への反映のためにミシュランは参戦を決めた

タイヤはミシュランだ。ミシュランはかつて、「競争がないならやる意味がない」とし、1社独占供給になるのを機にF1から撤退した。初年度のフォーミュラEはミシュランの1社供給で競争はないにもかかわらず、手を挙げた。なぜか?

一般的に、レーシングカーは路面が乾いている時と濡れている時で、それぞれ専用に設計されたタイヤを履くが、フォーミュラEは晴雨兼用のタイヤを履く。電気自動車が航続距離を延ばすためには、損失を減らすためにもタイヤの転がり抵抗を減らすことが重要になるが、転がり抵抗の低減とグリップ力の確保はトレードオフの関係にあり、あちらを立てればこちらが立たない。

晴れと雨と抵抗の3要素を両立させるのは、ジャンケンで負けない出し手を求めるようなもので、至難の業だ。

でも、レースに投入するタイヤで「全部は無理です」とは言っていられず、技術が磨かれることになる。磨いた技術を量産車向けのタイヤにフィードバックすれば、安全性と燃費の向上に寄与する。外との競争はなくても内での競争があるので、ミシュランはフォーミュラEへの積極的な関与を決めたのだ。

エンジンを積んだレーシングカーなら、ドライバーは給油のためにレース中ピットストップを行う。だが、フォーミュラEの場合、充電するなどと悠長なことは言っていられず、充電済みの別の車両に乗り換えてレースを続行する。バッテリーなり充電技術なりが革新的に進化すれば、いずれは乗り換え不要になるかもしれない。

クアルコムがワイヤレス給電システムを供給することになっているが、投入するのは2シーズン目からだ。

SNS連携で視聴者参加型のモータースポーツに

さらにユニークなのは、SNSと連動した「プッシュ・トゥ・パス」機能を搭載することである。

共通マシンは200kWの出力を備えているが、レース中は133kWに抑えて走り、残りの67kWをプッシュ・トゥ・パス機能に割り当てる。ステアリング上のボタンを押すと瞬間的に67kWのパワーが追加されるため、目前に迫った他車を追い抜くのに役立つわけだ。

このプッシュ・トゥ・パス機能は各ドライバーに一定の回数割り当てられるが、SNSで多くの応援を集めたドライバーには、追加でプッシュ・トゥ・パスの機会が与えられる。視聴者参加型の取り組みだ。

レースに参加するのは10チーム20名のドライバーだが、視聴者にも「21番目のドライバーとして」参加の権利が与えられる予定だ。コース上ではなく、レースとリアルタイムに連動したゲームの中で。

2001年製作の映画に出てくる携帯電話に古さを感じるほどに、時代は進化している。ゆえに、「21世紀の」という形容はふさわしくないかもしれないが、「新時代の」レースは「電気」や「通信」、そして「ネットワーク」と無縁ではいられない。