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フリーランスエンジニア座談会~独立する前に押さえておくべき4つの「ライフライン」

公開

 
フリーランスエンジニアの3名

(写真左から)話を聞いたフリーランスエンジニアの柘植英一氏、石神康秀氏、吉田真吾氏

会社勤めに満足しているエンジニアも、一度くらい技術力を活かして起業やフリーランスへの転身を考えたことがあるのではないだろうか。

以前、多くの人を巻き込んだ「ノマド」、「社畜」論争の盛り上がりを見ても分かる通り、働き方に関する見解には、世代や職種に関わらず各人各様の捉え方がある。会社員が安定の象徴ではなくなりつつある今、改めてエンジニアの働き方について捉え直すのは無駄ではないだろう。

今回は、1989年に技術者協同組合を起源に持つ、フリーエンジニア支援の首都圏コンピュータ技術者株式会社(以下、MCEA)とかかわりを持つフリーエンジニア3人に集まってもらい、フリーランスを選択した場合に陥りがちなリスクや回避策について話し合ってもらった。

結果、自営業への移行をスムーズに行うには、以下のポイントに注意すべきという結論を得た。

【1】横のつながりが仕事の「タコツボ」化を防ぐ
【2】自分の得意分野を自覚して仕事を「生み出す」
【3】経理や申告など面倒な事務処理は省力化策で対抗
【4】仕事があっても赤字?資金繰りの落とし穴

これら4つのポイントを押さえることは、独立志向の強いエンジニアはもちろん、現在、自営業として活動中のエンジニアにも有意義なはずだ。詳しくは以下にまとめる彼らの言葉を読んでほしい。
(文中で「※」が付いている用語の解説は、ページ末尾にて)

プロフィール
石神論理分析コンサルティング  代表・IT主治医 石神康秀氏

石神論理分析コンサルティング  代表・IT主治医
石神康秀氏

約3年間、派遣技術者としてシステム開発やセールスエンジニアなどを経験後、派遣元の在スリランカ開発子会社に転籍。帰国後、情報システム部に異動し、社内システムの構築や運用、ユーザーサポートを担当。2007年に独立開業。以後フリーランスの立場から企業向けIT導入支援サービスなどを提供している。現在のライフワークは『個人事業主文化祭(※1)』の運営

プロフィール
Cloudpack エバンジェリスト 吉田真吾氏

Cloudpack エバンジェリスト
吉田真吾氏

2002年新卒で入社したソフトハウスで、約3年間通信基地局の制御プログラム開発に従事したのち退社。フリーランスとなる。2005年以降、専門分野を通信系から金融系システム開発へ移行。2013年Amazon EC2の導入設計から運用、保守サービスを提供する「cloudpack」のエバンジェリストに就任

プロフィール
株式会社アイティーフォーユー 代表取締役 柘植英一氏

株式会社アイティーフォーユー 代表取締役
柘植英一氏

ホテル予約サイトのWebデザイナーからWebマスターへの異動を機にシステム開発に興味を覚える。その後システム開発会社に転職し、オープンソースを活用したシステム開発に従事。プロジェクトマネジャーや取締役を歴任し退職。飲食店従業員、派遣技術者を経て開業。2012年法人化を果たす

【1】横のつながりが仕事の「タコツボ」化を防ぐ

フリーになりたてのころは、どうしても前職や知り合いのツテから仕事を得ることが多くなりがちだ。売上の安定や仕事の幅を広げるには受注先の拡大が欠かせないが、日々の開発業務を行いながらの営業活動はたやすくはない。それがやがて受注の先細り、つまり仕事の「タコツボ」化を招く。

吉田 僕は通信系の制御開発をメインでやっていたソフトハウスから独立した関係で、フリーになってからもしばらく同じような仕事を続けていました。本当は金融系の仕事がしたかったんですが、知り合いのツテだけを辿ってもなかなか広がりませんでしたね。

意識して時間を作らないと少なくなってしまう同業者との交流だが、勉強会の場を設けることで人脈を広げているという

石神 わたしは派遣社員を経てフリーになったんですが、どちらかというと営業は苦手。辞める前からそんな自覚があったので、フリーになるにあたって営業をどこかにお願いできないか、ずいぶん探しました。

そんな彼らの悩みを救ったのが、同業者同士のつながりだった。

吉田 フリーになってからしばらくしてからMCEAの存在を知り、相談しに行ってみたところ、幸運なことに、金融系システムを希望しているフリーランスが来ていることを聞きつけたある先輩パートナー(※2)が、自分の所属する大規模証券システムプロジェクトに誘ってくれたんです。それから7年にわたって、このプロジェクトを続けることができました。個人ではなかなか入るチャンスがない大規模システムでしたから、本当にありがたかったです。

柘植 僕の場合は、かつての知り合いにMCEAのパートナーがいて、もしフリーでやっているなら来てみないかと誘われました。実際に参加してみてよかったと思ったのは、吉田さんがおっしゃったように、エンジニア同志のつながりができたことでしたね。

普通は1人で現場に入っていると、同じ立場の同業者同士で親しくなるチャンスってあまり多くないじゃないですか。それが、MCEAに来てからはエンジニア自身が主催する勉強会や交流会を通して知り合いが増えましたし、実際一緒に働く仲間も見つけることができました。

MCEAではJava等の言語系、ロボット開発などのハード系、Androidなどのアプリ系など様々な勉強会が行なわれている

石神 願い出ると、自分の企画した勉強会のために、場所も提供してくれますからね。そういう場やチャンスが望めば得られるっていうのは、フリーで仕事をしている身としては本当にありがたいことだと思います。MCEAのような組織に属すことで、担当営業がついてくれるのも心強いし、同じ立場のパートナーとの出会いもあるので、とくにフリーになりたての方にはメリットは多いと思いますね。

横のつながりが希薄なフリーランスの場合、仕事上の付き合いがどうしても発注者と受注者の関係に偏ってしまいがちだ。対等な立場で付き合える同業者や同業者が集う組織に属することは、情報交換や仕事を共有する仲間が増えることにもつながる。これが「タコツボ」から逃れるきっかけにもなるようだ。

吉田 パートナー同士の関係と同様、MCEAとわれわれパートナーの関係も対等なので、同じ利益を共有している感覚が持てます。通常の請負契約だと元請けがいくらで受注したかを知るすべはありませんが、MCEAは共同受注(※3)なので、受注額もクリアですし、報酬のパーセンテージも明確(※4)なので、安心して仕事を受ける仕組みが備わっています。

【2】自分の得意分野を自覚して仕事を「生み出す」

同業者間の交流を深める場を確保することで、仕事の選択肢や受注先の幅が広がっても安心はできない。自ら能動的に仕事を「生み出す」努力ができなければ、フリーランス、自営業とは名ばかりの「作業員」に陥ってしまう心配がある。

ただの受託ではなく改善の仕事を請け負うことで「派遣」との違いが出せると語る石神氏

「ただの受託ではなく改善の仕事を請け負うことで派遣との違いが出せる」と語る石神氏

石神 わたしの場合、開発やプログラミングそのものより、課題を発見し、技術を使うことでその課題を解決することに興味があるので、当初の依頼内容を粛々とこなすだけで仕事を終えることは稀です。むしろ、発注者が見えていなかった課題を指摘して、自ら仕事を増やしていくような動きをしています。

ですから、むしろ課題がどこにあるのか分からないような、難しい仕事をあえて紹介してもらうことが多いですね。

柘植 わたし自身も特定の言語とかテクノロジーに固執することもないですし、依頼内容を忠実にこなすだけなら自営業である必要はないと思います。例えば当初の依頼が「○○○システムの開発」だったとしても、フタを開けたらそもそも課題設定がズレていたり、非現実的なスケジュールのゴリ押しや、フェーズやタスクの仕切りもままならないような混沌とした現場があったとします。

石神 ありますよね、そういう案件。

柘植 もしそんな現場に、権限を与えられる余地のない派遣エンジニアが出くわしてしまったら、課題の本質に気づかないふりをして、与えられた仕事だけを黙々とこなすしかありません。

吉田 確かに。

柘植 でも、わたしたちは自営業者としてプロジェクトに参加しているプロです。作業ではなく成果に対して報酬を頂いている立場ですから、結果を残さないと次の依頼につながりません。ですから改善提案をどんどん出して次の仕事を広げていくんです。

吉田 僕を大規模証券システムのプロジェクトに引っ張ってくれたパートナーも、能動的に仕事を広げて成果を出していた方でした。会社員エンジニアにしても、派遣エンジニアにしても、仕事は営業が取ってくるものだと思っているのかもしれませんが、実際に一番仕事を獲得できる可能性を持っているのは、現場の課題をちゃんと理解している人。つまりオーナーシップを持って働いている僕らのようなエンジニアだったりするんです。僕の場合は、課題を見つけた時、お客さんと予算感のすり合わせまでして、営業にフィードバックすることもよくあります。

石神 気付いた人、できる人が仕事を取るのがフリーランスの鉄則ですよね。

吉田 僕もそう思います。

石神 そうやって、プロジェクトの不備や問題点について改善提案をしていると、煙たがられることもありますが、外部の人間だからこそいえることもあるし、むしろ歓迎されることも多いのも事実です。

柘植 例えばどんな風に?

石神 わたしの場合、内部の人間では指摘しづらい課題を指摘し、プロジェクトをよい方向に持っていくことが増えてきたことで、自分がやりたいこと、つまり次第に難しくて誰に頼めばいいかわからないような案件が舞い込むようにもなってきました。得意なことや取り組んでみたいテーマがあれば、自分の担当に固執せず、案件を持っていそうな営業やPMにどんどんアピールした方がいいと思いますね。

柘植 もちろん、課題解決だけがすべてではありませんし、特定の言語や技術分野に特化したスペシャリストもいるでしょう。でも、その道で大成できる人は限られています。実際の開発現場では、人の3倍のスピードでコードが書けるエンジニアがいたとしても、その人が倒れてしまっては取り返しがつかないことになってします。

石神 そうなんですよね。

柘植 だから、同じ案件で提案するなら1.5倍のスピードの人を3人集めた方が、リスク回避という点で良いのかもしれません。そういう体制づくりの提案からできるっていうのは、プロジェクトに対してオーナーシップを持っているフリーランスエンジニアならではの動き方だと思います。少なくとも、わたしを含めここにいる3人はそうやって仕事の幅を広げているんです。

与えられた仕事だけに満足せず、オーナーシップをもって課題解決に向けた能動的な動きをとることが、結果的に次の仕事を生むことにつながる。自分の得意分野や仕事の方向性をはっきりさせることで、おのずと案件も集まるようになるというのが彼ら3人の共通した見解のようだ。
(次ページへ続く)

◆用語解説【1】

※1 個人事業主文化祭
インタビューに参加した3名を含む個人事業主が中心となって発足。「個人事業主の自己アピールの場、語り合う場がここにある!」をテーマに丸1日、約20名がプレゼンを行うプレゼンブースを中心に、手作りの屋台の他、個人事業主のコミュニティの場、気付きの場を提供する。
※2 パートナー
ここでいう「パートナー」とはMCEAに登録するフリーランスエンジニアのこと。
※3 共同受注
フリーランスエンジニアがMCEAの下請けとしてではなく、対等な立場で開発業務を受注しているため、同社ではその仕組みを「共同受注」と呼んでいる。受注額をMCEA、パートナーの双方が知っているという点でいわゆる「派遣」とは異なる。
※4 報酬のパーセンテージも明確
MCEAが得る営業手数料のこと。パートナー登録期間によって12%、10%、8%の3種類が設定されている。