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今の警察は、インターネット上の「悪意」についていけない【連載:えふしん⑧】

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えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立。2012年4月30日まで代表取締役社長を務める

つい先日、救急車を呼んだ大学生に対して、消防本部側が「タクシーで行けますか?」と問い掛けている間に本人が死亡してしまった事件があった。

なぜそうなったのかは想像の域を超えないながらも、モンスター患者の問題や搬送に掛かるコストの問題か何かでムダに救急車を出動させないように、という個別最適のルールがあったことは想像に難くない。

インターネット掲示板に遠隔で犯罪予告を書かれたことで大学生が誤認逮捕されてしまった件についても、「IPアドレスが分かれば、それが正義」というシンプルなルールで、事の元凶を見逃したまま、表面的な解決を図ったことが問題の本質だろう。

これがドラマの『相棒』や『浅見光彦』シリーズなら、よくある冒頭に行われるズッコケ推理の流れであって、杉下右京や浅見光彦が細かい異常を見逃さず真相を解決してくれるだろう。しかし、現実に、そういう人は現場にはいないということを露呈してしまった。

From mooozi
IPアドレスから犯人を特定できると考えていた警察。この件で、サイバー犯罪に対する弱さを露呈してしまった

警察の現場の人がITの技術を分かるハズもないのだが、いくつかの経験則を基に、彼らは犯人を識別するための「指紋」としてIPアドレスを採用した。

IPアドレスという「指紋」が100%アテにならないのは、ある程度ITの知識がある人なら全員知っているが、実際にそれで犯罪を実現させるには、知識に加えて大いなる悪意がなくては成立しない。

過去の事件は、そこは軽視可能だったのだろう。警察の人は日常的に犯罪と接しているがゆえに、一般人が考えるよりも「そんなに悪い奴はいない」というラインを高く持っているように感じることがある。

多分、それこそが日常なのだろう。

ただ、今回は、アニメ『攻殻機動隊』に出てくる「笑い男」のように、警察の感覚を逆手に取るような事態が起きて、事件は現実のものになった。

誤認逮捕に至った経緯は、犯罪予告のパターンにそれ以上の悪意が存在しなかったということだろうが、掲示板の書き込み+IPアドレスという状況証拠が正当化できない状況になるのは、今後の捜査への影響は非常に大きい。

自分がネットショップ詐欺に遭遇して感じた「警察の限界」

実は以前、ネットショップでNintendo 3DSを注文して、ネット詐欺にあったことがある。サイトの情報などを見て若干怪しいかもと思いつつも、お金を振り込んだら本当に詐欺だったというもので、大変反省しきりなのだが、ECに知識がある自分でさえ、一度被害届を届けに警察に行った時に話が通じなかった。

おそらくそうなるだろうと思って、画面のキャプチャを印刷して持っていき、プレゼンテーションをしたのだが、最初に出てきた年配の生活課の人たちには実感がわかないようだった。要するに、「お金を振り込んだお前が悪い」と。繁華街にある警察署だったので、ぼったくりバーについていってしまった人と同じパターンの指導を受けたと思う。

あくまで想像だが、おそらく彼らは、冒頭の救急センターと同じで、刑事課に行く前に事件性を確認し、重要な案件だけに絞り込む役割だったのだと思う。もしかしたら、見た目的にも定年後の指導員だったのかもしれない。その年代の警察官に、ネットショップでの被害状況を伝えるのは非常に難しい。

ということで一度撤退し、彼らが求めていた「特定商取引法に基づく記載に書いてある住所に、その会社が存在しないことを確認せよ」という命令に従って、調査した。その住所はある駅前にある郵便局だった。

上の階にオフィスがないことを確認し、その状況証拠を持って、その住所の管轄の警察署に行った。しかし、あえて被害者ぶって言うと、もしいくつかの「悪意」が成立して、オフィスがあってチャイム鳴らして襲われたら、自分はどうなっていたのだろうか。

また、もしショップの住所が地方だったら、確認するのは不可能だったということだ。Nintendo 3DSのために交通費をかけるのは合理的ではない。つまり騙され損が成立することになる。

今回の冤罪事件で、「罪を認めた方が合理的だ」と諭された大学生のことを思い出す。

二軒目に行った警察は、若い刑事課の人が非常に良くしてくれた。「いったん調べるから」と情報だけを預けて、数週間後に経過報告と被害届を出しに行った。しかし、届けを出しただけで話が進むことはなかった。

というのは、ネットショップは対面で取引していないため、遅配や病気でモノを送れない、情報が到達していないなどの可能性もあるため、事件性があると明確に判断される前では、個人情報保護法およびプロバイダ責任制限法の枠内では、ネットショップのASP業者から情報を引き出すのは難しかったそうだ。
(次ページに続く)