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スマホ時代の主役になりたい技術者は、「デザイン思考」と「のりしろ」を持つべき【連載:えふしん】

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えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後しばらくフリーランスエンジニアとして活躍し、2012年11月6日に想創社(version2)設立

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最近、Webやスマホの制作界隈で、「デザイン思考」という言葉を見かけることが増えました。

デザイン思考というのは、IDEOというビジネスコンサルタントが製品開発の際に取り込んだプロトタイプを活用した製品デザインの方法です。プロセスとしては右図の通りで、

・ 実現したい哲学とビジョンを決める

・ 調査を行い、分析をする

・ ペルソナやシナリオの作成

・ プロトタイプを作って、コンセプトを高め、形として実現しフィードバックを受ける ・ それを元にサービスをデザインしてリリースする

・ このプロセスを繰り返して、哲学やビジョンを改訂していく

PDCAサイクルやアジャイルと似たようなプロセスなので、特にスタートアップ方面にかかわるエンジニアの方にはなじみのある考え方ではないかと思います。PDCAと比べて、より具体的なのは、「哲学」や「ビジョン」の改訂を恐れない、作り直すことを恐れないことが挙げられます。

主観的な解釈かもしれませんが、PDCAのサイクルが、どこか完成されたサービスの運用フェーズという与えられた環境を回すイメージがあるのに対して、デザイン思考は製品そのものをより高みに上げるための手法なので、リーンスタートアップの中核にある考え方でもあります。

カギは、組織(役割)横断でコンセプトをシェアできるかどうか

しかし、このサイクルはけっこう難しいです。特に、分業化された組織であればあるほど難しい。というのは、

・ このサイクルには、素晴らしい哲学やビジョンを思い付く方法は書いていません。調査、分析と、フィードバックからコンセプトを高みに上げていくのは、あなた次第

・ すべてのプロセスは方法論でしかありません。真似すれば良いモノが作れるという答えではないので、活かすも殺すも自分次第

・ 何よりプロトタイプを作るのが難しいです。考える人はモノが作れない。モノを作る人は、ビジョンや哲学を考える訓練を受けていません

プロトタイプを作るのは、非常に難しい。このサイクルはプロトタイプを作っては壊し、作っては壊しという手を動かした量が完成度を高めるのですが、従来の分業体制の中では、考える人と作る人が分かれているのが普通です。デザイン思考の繰り返し(イテレーション)のサイクルを描く時に、実装力が足りないとサイクルが止まってしまいます。

特にWebやスマホアプリにおける実装力には、デザイン力が大きくかかわってきます。優れているアイデアも、周りが理解できないほどしょぼいデザインでは周りの共感を得られません。 チームでやる場合は、各プロセスの丸投げはダメで、意図や気付きをしっかり共有し、全員のコンセプト理解度を高めていく協力が必要です。

もしも、各役割の部署や会社が分かれているなら、組織横断的なチームを作り、お互いの信頼関係を高めていくことが不可欠です。

何はともあれ、プロトタイプの完成度を高めよ

ある、スタートアップとしては成功していて今後の成長が期待できる会社の社長さんと、「デザイナーにどうやってうまく発注すればいいのか?」という雑談になった時に、発注する際の指示書を見させてもらったら、何と、すでにほとんど画面のデザインができあがっていました。

From ilamont.com
どんな製品開発でもデザイン思考のサイクルを高速化する必要がある。そのためにも、開発者には「実装力」が必要だという

恐らく発注を受けるデザイナーはユーザーインターフェースを考える必要はほとんどなくて、ビジュアルデザインの調整をするだけでいいハズです。サービスの中核となるユーザー体験がすでに完成しているので、話が非常に速い。

もちろん開発の方も、自分たちでコードも書いている。つまり、アプリ成功の秘訣は、プロトタイプの完成度にあるわけです。 既存のWeb開発プロセスにどっぷり使ってしまうと、大体はHTMLのデザインからコーディングまでを誰かに委ねていると思います。

スマートフォンアプリに必要なコンセプトは、ユーザーインターフェースそのものなので、従来の感覚のままスマートフォンのアプリを設計すると思い描く哲学を実現するデザイン力が足りなくて、サイクルが先に進まない。

同様に、デザイナー主体の人が同様のサイクルを回そうとすると、今度は技術的な実現性の部分の理解が足りなくて、これはこれで困るということがあります。

新しい世界を実現するアプリについては、まだコンセプトが理解できてないものを面白がってくれるチームというのもなかなか難しいことが多く、ニワトリタマゴの関係になってしまうことがあります。

ここで、とにかく実現するための強引さ、説得力、人に負けない願望が大事だという人もいます。確かにそれは、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツ型のリーダーシップのあり方で、プロダクトアウト型の思考としては重要な要素です。

ただ、彼らのように、世界を変えるぐらい天才肌のイノベーションには必要な要素だと思いますが、そうではなくデザイン思考のようなマーケットイン型のサイクルであれば、もっと人との関係性を柔軟に作っていくことが求められます。

言葉にしてしまうと簡単に聞こえますが、それはそれで難しく、他人の共感を引き出し、アイデアを高めていくための説得力=プロトタイプの実装力が求められると思います。

スマホアプリ開発では、「専業主義」を捨て去ろう

結論を書くと、もし自分で良いスマホアプリを作りたければ、「僕はエンジニアだからデザインは(できないので)やらなくていい」という考え方は、どうにかして改善しなくてはなりません。

海外で働く時に、英語ができなければ仕事ができないのと同じく、アプリのビジュアルデザインを高めるフェーズで、ビジョンや哲学を持っている人が、デザインをある程度できることはすごく重要なことです。デザイン思考のすべてのプロセスを、ビジョンや哲学の具現化の方法と考えると、実際の形にする部分を、他人に丸投げしても、あなたのビジョンや哲学を他人が100%理解することはありません。

結果的に、思ったとおりのアウトプットが出てこず、単純にお金と時間が掛かります。

そうするとプロトタイピングを繰り返せる回数が短くなり、トータルでは時間切れに近づいてしまいます。ゆえに、「コンセプトを形にしていくプロセスの高速化をどう実現するか」というのを全員が主体的にかかわることは不可欠です。 「人生常に勉強だ」というような言葉がありますが、この理由の1つに、常に自分の考え方は進化し、かつ、自分が思っていることのすべてを理解不可能な人と一緒に仕事をしていく必要があるから、ではないかと思います。

つまり人に、自分の実現したいことを伝える技術が、他者依存で必要だからこそ、自分自身が進化する必要があるのではないでしょうか。

From toolstop
「チームでビジョンやフィロソフィーを共有したければ、分業という枠組みを取っ払うべきだ」と話すえふしん氏

スマートフォンは優れたデザインを活かしながら、PC並の性能を持ち歩ける夢のようなデバイスで、これを利用することで、今までできなかった素晴らしいことができるハズです。そして今後は、タッチパネル画面に収まらずにデバイスそのものを開発していく人たちも増えていくと思います。

そういった時に、もし自分が面白いモノを作る主役になりたいのであれば、他人の共感を得るためのビジュアルデザインやコンセプトのデザイン力は欠かせません。

そこに対してデザイン思考のような方法論が適用されていくべきだし、そのプロセスに参加する人たちは、自分の専門は○○屋だからと役割を限定するのではなく、最低限、お互いがコラボレーションしていくための「のりしろ」を持つべきだと思っています。

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