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政府が「和製ビル・ゲイツ」を求めている件について望むこと【連載:えふしん】

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えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後しばらくフリーランスエンジニアとして活躍し、2012年11月6日に想創社(version2)設立

先日、アベノミクスの成長戦略の一つに、政府が若手起業家育成のためにビジネスコンテストを開いたり、資金調達の支援策を盛り込む方針を決めたというニュースが流れた。

 「和製ビル・ゲイツ」求む! 政府が起業・資金を支援 成長戦略盛り込みへ(産経新聞)

From IsaacMao
今の時世であれば、「和製スティーブ・ジョブズ」にしても良かった気がするが……

「和製ビル・ゲイツ」と言っている以上は、独り立ちできるスモールビジネスをたくさん立ち上げて雇用の受け皿を作るような小粒な目標ではなく、既存の大企業級の雇用の創出と、世界に輸出できるような産業の立ちあげを期待していると解釈できます。

つまり、イノベーションを創出し、大規模にスケールするビジネスを作ることを目標にしているということでしょう。

政府が実行部隊を持っているわけではないので、実際には、そのような役割を担う既存の企業に発注して、テーマに沿って何かをやらせるというのが、こういう取り組みの実態でしょう。となると、現状、「資金がないからできてないこと」に資金を投入しないのであれば、こうした取り組みの成果が出ることはないでしょう。

しかし、です。もし、和製ビル・ゲイツを発掘したいのであれば、おそらく成功のパターンは限られていると思っていて、以下の3つくらいかなぁという印象です。

・ 放っておくと大企業で安住してしまうような優秀な若い人に、もっと潜在的なパフォーマンスを発揮してもらうべく起業してもらう。

・ 放っておくとGoogleなど海外の企業に就職してしまうような優秀な学生に日本で起業してもらう。

・ 今スキルがある人たちが、「ベンチャーの社員になりたくなる」ための社会への期待感。

「大企業ではなぜダメなのか?」という質問に対しては、レバレッジの問題だと思っています。すでにビジネスにおいて成功を確立している事業に優秀な人がかかわっても、その事業を100倍にするのは難しいですが、新規事業であれば、100倍はおろか1万倍にする可能性があり、そういう期待が持てる人たちに早くから打席に立ってバットを振ってもらうことが大事だという考え方です。

また、大事なことは、今スキルを持っているどちらかというと保守的な人たちが、新しいチャレンジをすることで未来への期待が持てると思えるのはすごく大事なことだと思います。起業家を増やすのではなくて、ベンチャーにチャレンジしたくなる社員を増やすための取り組みです。

そもそも現場では、エンジニアをはじめとして、スタッフが足りないと思っている会社が山ほどあります。しかし、スタートアップとしては可能性を持っているのに、まだまだ資金が足りなくて、一定年齢以上で家族を持ってしまった人にチャレンジしてもらうのはさすがにはばかられるなど、必要な人材と雇用リスクとの間にミスマッチが起きている状況です。

このままだと、単純に学生に近い人じゃないと誘えない、という現実を感じています。雇用の流動性を高めて採用する側もチャレンジしやすい状況になれば、経験のある人に頑張ってもらった方が、本当は話が早いわけです。

新規事業創出より、新規事業「プロモーション」支援を

それ以外に、政府が何かできるとするならば、新規事業の創出ではなくて、世の中に存在する優秀な事業を世界に輸出し、商品の活用や認知度を引っ張り上げる部分でのお手伝いをしてほしいと思います。

LINEが世界で飛躍的にユーザー数を伸ばした背景には、多額のプロモーション投資があった

例えば、LINEが今のような勢いを持っているいくつかの理由の一つに、韓国NHNの豊富な資金力という面はあるそうで、海外に行くとLINEのTV CMがバンバン流れているという話も聞きます。良いサービスだからバイラルで勝手に広まっているだけではなくて、資金を投資して、広めるための活動をしているわけです。

新規事業の創出だけを支援して、後は勝手に頑張ってね、ではなくて、すでに既存のスタートアップにある優秀なサービスの認知を、国として加速させる役割を担ってもらえると、先進的な取り組みがキャズムを超えやすくなります。

日本人の職人気質を批判する言葉で、「良い製品を作れば、勝手に売れると思うのは勘違いだ」という言説がありますが、もしそういう状況が認められるなら、それは「良い製品」ではない可能性が高いわけです。

それよりも、「良い製品は、良い売り方をするからこそ売れる」と考えることが重要で、世の中で自然発生的に生まれている製品の中で可能性があるものを、いかに上手く認知させていくか、そこの支援ができたらいいですね。

売れない製品にいくら広告宣伝費をかけても売れないわけですが、良い物を作れば売れるんじゃないか!? という期待感の向上こそがイノベーションの種になります。

今の環境だと、新規事業を立ち上げるメリットが少ない

新規事業がいつも持つ悩みは、認知度を高める部分です。

同業他社にブランドや資金力がある場合、TVCMなどでスピーディーに認知度を高めることができるので、そういうものを持ってない新しい企業がこの競争に持ち込まれると、どうしても負けてしまいます。

結果として、大企業がベンチャーのアイデアを真似して、美味しいところをかっさらってしまうのであれば、ベンチャーを起業するよりも、大企業に入社する方がメリットは大きいと判断するのは自然です。

そんな状況で新しいことにチャレンジしたいと思うのは、相当の変わり者しかいないので、必然的に起業家のパイは狭いということになります。起業家の間では、「パクリ・パクられ」は前提の上で、いかに勝ち抜くかという点に主眼を置くのが常識になっています。

それはそれで正しいと思いますが、もし、それが起業家にとっての必要条件であるならば、政府が支援する必要はないでしょう。自然発生的に、優秀さと強欲さを持った起業家(変わり者)が出てくることを期待して出生率を上げる活動に専念すれば、対策としては十分です。

ライブドアショックで堀江さんが逮捕された段階で、一度、ネットベンチャーを起業する意欲が減ったと言われています。あの時にあったものは「良いサービスを作れば、ライブドアに買ってもらえて、ライブドアポータルのビジネスに入ることで、より成長するかもしれない」というイグジットに対する期待感です。

期待こそがイノベーションの源泉になると考えれば、そこにある構図は、既存の企業体と新規事業にチャレンジするベンチャーがうまく絡み合うエコシステムということになるでしょう。

会社を辞めることが、社会からのドロップアウトではなく、既存のしがらみを断ち切った中での、一つの事業開発機会として、その成果が既存の社会に還元されていく期待感とエコシステムの創出こそが、新たなチャレンジの源泉になると考えます。

実際のやり方は、税制的なメリットを設けて企業の活動をうながしていくなどが方法にはなると思いますが、日本全体で「新しいチャレンジ」に対する興味とメリットを喚起することで、うまく既存企業とベンチャーとの間のパイプを担ってくれるのであれば、むしろそっちの方が新規事業の育成につながりそうに思えますが。皆さんはどう思いますか?

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