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「Webがあたりまえ」になって生まれた軋轢と、その先の世界を考える【連載:えふしん】

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えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後しばらくフリーランスエンジニアとして活躍し、2012年11月6日に想創社(version2)設立

最近、学生が冷蔵庫に入った写真や、食材の上に寝転がる写真をTwitterにアップして大騒ぎになるというトラブルが絶えません。

一部では、これらの現象を「高学歴と低学歴の世界の違い」という表現をしている人もいますが、僕はこの現象を「Webがあたりまえ」になったからこそ起きたものと考えています。高学歴と低学歴というクラスタの切り方は、誤解を招くだけじゃないかと。

が、物の見方としては面白いので、ちょっと参考にして考えてみました。「高学歴」の定義が非常にあいまいですが、例えば高学歴=偏差値65以上と仮定すると、正規分布で言うと10%程度の人口分布になるでしょうか。もう少し偏差値を下げても、せいぜい20%といったところでしょうか。

ここからは暴論を承知で書きますが、PCで起きるリスクを知っている人たちを、もしも「高学歴」層とみなすならば、国民全体の約10%の層の一部ということになります。そうすると、「低学歴」に該当する層は残り90%の国民となるわけです。

そして、写真のアップが絶えないことから、この両者間の情報流通は分断されていることが分かります。“リスクを知っている人たち”からすれば、「そんな写真をアップするのはバカのやること。オレたちは絶対にしないし、もしそんなことしたらオレたちが個人情報を調べあげて職場や学校に通報してやる。メシウマ!」と。

つまり、仮説として「高学歴=ネット上で起こり得るリスクを、はてブや2ちゃんねるなど既存のWebを通じて知っている人」と「低学歴=いくらネットで言ってもリスクが伝達されない人」という比較に置き換えると、もしかしたら、「PCベースのWebユーザー」は世の中全体で10%しかおらず、それ以外のユーザーが90%ということになるのかもしれません。

僕らは今まで、わずか10%の層を対象に「ネットビジネスはすごい!」と言っていただけなのかもしれません。

Webを「あたりまえ」にしたスマートフォン

by philcampbell
スマートフォンの普及で「Webがあたりまえ」に

今も、残り90%の人たち全員がネットにつないでいるわけではありませんが、徐々にその数は増えています。その背景にあるのは、もちろんスマートフォンの普及ですね。

今後、スマートフォンを使うビジネスに携わり、スケールするサービスを提供する際には、残り90%のユーザーに目を向けるのは必須です。彼らにPC Webの論理は通用しないという前提で、今後どうネットを活用していくのかを予測していく必要があります。

今回のTwitter写真騒動で、残り90%の人たちが承認欲求として出すアウトプットが、既存のPC Webのユーザーとは相容れないことが見えたので、今後、90%の人たちがオープンなWebを過剰に怖がり、あまり情報を出したがらなくなることは容易に想像可能です。

そういう状況の中で、すでに成功しているソーシャルゲーム以外で期待したいのは、友だちとのコミュニケーションや、生活に密着して「あたりまえのツール」になっていくもの。そういうサービスを創る人たちが勝者になると考えます。

現状で最大の成功例はLINEだと思いますが、それ以外のジャンルでも今後の発展が期待できます。

日常生活に密着したサービスによる「拡張現実」

日本交通には『タクシー配車アプリ』というのがあって、アプリで今いる場所からタクシーを簡単に呼ぶことができます。スマートフォン経由ですでに15億円以上の売り上げを上げているそうです。

日本交通『全国タクシー配車』アプリ

『全国タクシー配車』アプリでは全国の提携会社のタクシー約2万台から、現在地近くを走行中の車両を簡単操作で呼ぶことができる

そのほか、日常の行為に即したものしては、ピザの注文アプリも成功例として有名です。

このようなアプリの考え方としては、「拡張現実」的な意味合いになってくるのかもしれません。拡張現実と言ってもカメラにオーバーレイして情報を表示すると言った狭義のARではなく、スマートデバイスが日常生活にちょっとした新しい習慣を追加したり、不便を解消したりすることで、微小なトランザクションの積み重ねが、積もり積もって大きなビジネスにつながるという考え方です。

ここで言う「拡張現実」において一番大切なのは、その上で動くビジネスがどれだけ優れたサービスであるかと、いかに既存のリアルビジネスと融合するかでしょう。

タクシーの例で言えば、スマートフォン上の配車アプリで、自分の場所にタクシーを呼ぶボタンをタップすれば、そこにタクシーがやってきます。そこで起きていることは、普通に電話をかけて配車しているのと同じかもしれません。

しかし、GPSで現在位置を調べて、自分が場所を理解してなくてもタクシーを呼べるという「ちょっとした利便性の向上」が、タクシーを呼ぶという機会損失を防止し、その積み重ねが大きな売り上げを作ります。

「あたりまえのWeb」はさまざまな業界のビジネスプラットフォームに

今までの企業のWeb活用は、広報や広告宣伝が主な活用方法だったと思いますが、今後は企業が本業として提供するサービスがスマートデバイスと直結して大きな売り上げを上げていくことが期待できます。昔叫ばれた「eビジネス化」がようやく日常生活に入り込む時代になってきました。

今まで企業のWebは間接費の予算で作られていたかと思うのですが、今後は本業に組み込まれ原価として動き始めます。

そこでWebの作り手は、今までとは違う“筋肉”を求められることになるでしょう。

例えば今後、食品会社や自動車会社などが、Web制作会社やWebサービスの会社を買収する動きもあり得るのかもしれません。「あたりまえのWeb」の世界では、Webはコモディティ化し、それ自身を作れることに特別な価値もなくなっています。

過去の流れを見ても、皮肉にもWeb制作の単価が一番高かった時代とは、Webの影響力が一番低かった黎明期に限られるわけです。これからは、Webを作る力を基盤に「何を実現するのか?」という部分がすごく重要になってきます。

WebSig1日学校で「今後の流れ」を一緒に考えませんか?

WebSig1日学校』というイベントで、多摩にある旧三本松小学校(現デジハリのスタジオ)という校舎を会場に、10/5に朝から晩までのコースで開催します。

『WebSig1日学校2013』

『WebSig1日学校2013』は豪華顔ぶれによる授業のほか『人狼』が体験できるワークショップも開催される

そこでは、上に紹介した日本交通の川鍋社長や、『miil』から新しい飲食ビジネスにチャレンジするトレタの中村仁社長などによる「サービスデザインの未来」というコースと、今年起きているTVとネットの融合元年の立役者であるバスキュールさんなどによる「受託の未来」のコースによる授業形式の勉強会をしたいと思っています。

また、それ以外にも、個別授業として、LINEの広告企画をやっている谷口氏や、boketeのyusukebe氏を始め、豪華な講師陣によってクリエイティブ、制作、開発、企画系など、さまざまな人による授業が行われます。

これを通してのテーマは、「Re-design」「あたりまえのWeb」というキーワードです。

また、せっかくの学校ですので、WebSig Expo(仮称)として展示イベントなども拡充させるべく進めております。内容については随時WebSig1日学校の公式ページに追加していきます。

>>『WebSig1日学校2013』のページはコチラ ※9月6日まで 早割参加受付中

既存のWebの作り手から、今後、サービス側に移行する人が増えるのは自然だし、前のめりで受託業務の立場を極めていく人もいるでしょう。それぞれの立場でどう「あたりまえのWeb」を活用していくかということを一緒に考えていけたらと思っています。

>> 『WebSig1日学校2012』の記事はコチラ