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Yahoo!ショッピング出店無料化で、結局EC業界はどう変わっていくのか【連載:えふしん】

公開

 
えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後しばらくフリーランスエンジニアとして活躍し、2012年11月6日に想創社(version2)設立

先月発表されたYahoo!ショッピングの出店料とロイヤリティの無料化には、僕もびっくりしました。

Yahoo!ショッピング出店無料化のプレスリリース

Yahoo!ショッピング出店無料化のリリースが発表されてからわずか1日で出店希望数が1万件にのぼったという

前職のpaperboy&co.で低価格のネットショップ構築サービス『カラーミーショップ』のショッピングモールである『カラメル』を立ち上げから担当し、今、BASEの技術顧問をやっている立場としては、低価格ECとは長い付き合いだったので、ついに市場の主役になる日が来たのかと感無量です。

その影響か、ペパボも上場来最高値を更新し、BASEも先日サイバーエージェント社から出資を受け、低価格なECサービスの周辺環境が盛り上がっています。

無料ECは、すごく良い形で戦いの構図ができました。

歴史あるGMOグループのEC事業があり、スタートトゥデイに買収されたSTORES.jp、サイバーエージェントとのシナジーが期待できるBASE、Yahoo!ショッピングが並び、楽天市場を包囲する形で、多くのショップオーナーさんの注目を浴びていくことは、非常に有益だと考えており、これからが楽しみでなりません。

無料化に垣間見えるヤフオクのポジション維持戦略

Yahoo!さんは、出店料とロイヤリティを無料にし、広告モデルによる集客支援による成長モデルで勝負することになりました。楽天市場の出店数は約4万店舗ですが、たかだか1年前に開始したBASEとSTORES.jpの出店数を合わせると、すでにのべ10万店舗を超えています。

同じショップオーナーさんが単純にYahoo!ショッピングにも出店すれば、楽天市場の店舗数の2倍を超えることは期待できるわけですし、店舗数については、20万店舗、30万店舗と成長することは十分、期待できます。

中国最大のECサイト「タオバオ」

「タオバオ」と「Yahoo!ショッピング」は2010年6月1日から両者の取扱商品を相互取引できるサービスを開始している

国内で圧倒的ナンバーワンの店舗数にし、もしかしたらヤフオクと商品をマージしてしまい、ソフトバンクが出資する中国のタオバオのように「見つからないものはない」というブランドを確立することを目指しているのではないでしょうか。

そこに集客支援ビジネスで流通総額を加速していくことができれば、その取引に付随した果実を取れるという考え方だと思います。

実は昔から、低価格ECのライバルはYahoo!ショッピングではなく、ヤフオクでした。低価格のネットショップ構築サービスを使う人と、ヤフオクを使う人達は被っていることが想定され、「お店を持たずに、ヤフオクでいいじゃん」という視点は否めなかったからです。

そこに適切な住み分けができていれば、本来Yahoo!ショッピングが無料化する理由はないはずなのですが、Yahoo!ショッピング無料化の裏には、ヤフオクのポジション維持という狙いもあるのではないかと言う人もいます。

最近は、スマートフォンのオークションアプリが盛況で、スマートフォンですべてがひっくり返されることもないとは言い切れません。C2Cコマースの期待をYahoo!ショッピングとヤフオクの二段構えで受け止めてしまえば、ヤフオクについても盤石と考えられるからです。

広告で売れるとは限らない、集客支援の落とし穴

ヤフーポータルという強力な集客力を持つヤフーさんですが、問題は出店料無料化にした分を広告ビジネスで補い、さらなる成長を突き進むことができるかを考える上で、ショップオーナーさんのベネフィットを考えてみたいと思います。

今回、Yahoo!ショッピング出店料が無料化したことで、恩恵を受けるお店を挙げてみますと、

(1)楽天市場で、広告宣伝費をかけても十分に儲かっているショップ
(2)楽天市場でも一定の売上が上がっているが手数料を取られるとお店の維持が厳しいショップ

になると思います。

(1)は既存のショップです。単純に出店料が無料になった分、利益率が向上するお店です。

楽天市場から外のお店への誘導はできませんから、そことのシナジーではなく、Yahoo!ショッピングで浮いた利益で、リスティング広告などの広告商品を買ってくれることが想定されるお店です。広告を打つことにより、さらに販売数が増えることでショップ側もYahoo!側も共に利益が向上していきます。

他方、(2)のお店は、とてもラッキーだと思います。

楽天市場当落線上の利益率のお店でも、「売れる商品」を持っているのであれば、ロイヤリティを取られないYahoo!ショッピングで広告宣伝をうまく活用することで利益を上げやすくなると考えられます。

ここまでは良いと思うのですが、次のようなお店は、今のネットの検索中心のパラダイムだとYahoo!社が期待したところにフィットするかは微妙なところです。

(3)個人の手作りに近い商品や、すごくマイナーな商品などブランド認知がないため、事実上、検索エンジンで検索できない商品を売っているショップ

こういう商品は、無味乾燥なモールの一覧に商品を並べることにはあまりメリットがないし、検索されやすいキーワードを所有していないため検索エンジンから到達するのもすごく難しいです。

また、広告の話でよく勘違いされるのですが、広告と言うのは売るための手段ではなく、売れるもの、売れる可能性のあるものをより多く売るための手段なので、それまでまったく売れてないとしたら、広告に出したからといって、売れるとは限りません。

まして、一品一様の商品は、その商品のストーリーが伝わらないと売れないため、キーワード広告などとは違うアプローチの訴求が必要です。

Fab

検索されにくいような商品はPinterestFabなど、ビジュアルで訴求できるサイトとの相性がいい

この分野は、海外ではPinterestFabなどのデザイン性あふれる特別なサイトの世界に並べることで興味を持ってもらうスタイルが注目されています。

国内でもペパボやそのほかの会社が頑張っていますが、海外のサービスも含めて、そこからの商品流通はまだこれといった勝ちパターンは見えておらず、可能性の宝庫となっています。

こういった商品の方がネットらしいビジネスだと思うし、Yahoo!ショッピング無料化後の出店構成においても、こういうショップや商品を無視できないハズなので、そこをどうしていくかは注目です。

出店目的によって変わる、EC業界の生き残り方

無料ECサービスに入会したショップオーナーさんがどういう商品を売り、どういう気持ちでお店を持つのかというのが重要で、利用者の中には、自己実現のためのお店を持ちたいという気持ちや、「好きなモノを作ったから売れたらいいな」という純粋な気持ちで始めているショップオーナーさんが多い世界でもあります。

「BASE」はドメイン、メールアドレス、パスワードの3つを入力するだけで出店できるという簡便さが大きな特徴

BASE社長の鶴岡が、「お母さんが使えるネットショップサービスを作りたい」という純粋な欲求から事業を立ち上げたことからも、無料EC事業のメンタリティーには、インターネットが実現する夢みたいな部分に支えられている部分は否めません。

それがゆえに、Yahoo!という大企業のビジネスにマッチするのか、という部分はすごく大切なポイントだと思っています。

そういうショップさんの場合は、広告宣伝費をかけてバリバリ売るというよりは、自分たちでハンドリングできる範囲で売りたいというショップも多いと考えられますので、うまく販売に対する技術やモチベーションをフォローアップしていくことも無料ECでは大切なことと考えます。

楽天市場の成功パターンが、有料課金と楽天市場内の広告を活用し、生き残ることができたショップがたくさんの売上とロイヤリティをもたらし、それが売上または利益率で成り立たないお店が淘汰されていくことで洗練されてきた競争社会だとするならば、これまでの無料ECは、そことは一線を引いた世界が存在していました。

今後、Yahoo!ショッピングの無料化がどういう価値を生んでいくかが、無料EC全体においても、注目すべきポイントだと思っています。

Yahoo!ショッピングが、それこそタオバオの知見を活かし、新しい形の商品訴求手段を実現し、新しい消費につなげていっていただければ、それはきっと多分、BASEやそのほかの無料ECにおいても大きな可能性につながると思っております。

もしも広告で売上がブーストされる勝ちパターンが見つかったならば、商品数を増やせば売上が上がるわけですから、必ずしもYahoo!ショッピングにこだわる必要はなくなります。BASEなどの他社の低価格ECサービスとビジネス連携をし、決済と広告部分で実を取るようになることは自然なことなので、そこにハマることができるならば、無料ECには伸びる可能性しかありません。

それ以外の手段においても、粛々とやっていくことで明るい未来が待っていることでしょう。