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「僕らがAndroidユーザー最大の悩みを解消する」高専出身の実力派ベンチャーFULLERの挑戦【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、前回登場の『Wantedly』から紹介されたFULLARの面々。「高専卒が立ち上げたベンチャー」、「つくばの一軒家での共同生活」とキャッチーな紹介文句が並ぶ彼らだが、現在手掛けるアプリ開発で世界を驚かせる可能性も。その構想に迫る。
FULLER株式会社
(左から3人目)代表取締役 Founder & CEO 渋谷修太氏
(左から4番目)取締役 Co-Founder & CTO 藤原敬弘氏

過去のApple Storeランキングを閲覧できるアプリ『DigApp』や、キュレーション型Twitterクライアント『Pittaa』の開発を手掛けてきたFULLER。設立は2011年11月と歴史こそ浅いが、数あるスタートアップの中で、そのユニークな開発スタイルで注目を集める存在だ。

CEOを務める渋谷修太氏以下、9名のメンバーのうち8名が開発経験者であり高専卒の実力派によって占められている点。そして、茨城県つくば市の住宅街に建つ一軒家で、文字通り合宿生活のような「職住一体」の開発漬けの日々を送っている点が、彼らをしてユニークとするゆえんだ。

まずは彼らの歩みを簡単に振り返ってみよう。

FULLERが起業するに至った直接の契機は、2011年に実施された『ブレークスルーキャンプ2011 Summer』に、後にFULLER創業メンバーとなる4人がエントリー。『Mult』というiPhoneアプリで第3位を獲得したことによる。

CEOの渋谷氏を筆頭に、メンバーほぼ全員が高専で基礎技術を学んできた

CEOの渋谷氏を筆頭に、メンバーほぼ全員が高専で基礎技術を学んできた

『Mult』は、コンテストが終了以後も開発は継続され、基本機能の強化とインターフェースデザインのブラッシュアップ、そしてアプリ名称を改め、2012年5月28日『Pittaa』として法人化を果たしたFULLERからリリースされた。

だが、ここに至っても、彼ら自身はiPhoneアプリベンダーとしての意識は希薄だという。

「僕らは高専時代にCからJava、PHP、組込みのVHDLもやりましたし、半田ごて片手に電子回路やマイコンも学びました。ですからハード、ソフトの両面があってこその技術だと思っています。なので、FULLERもiPhoneアプリ開発だけにとどまるわけではありませんし、いずれはソフトとハードが組み合わさった領域で戦っていけたらいいと思っています」(渋谷氏)

その第一歩と言えるかどうかは分からないが、次期リリース予定のアプリはiPhoneアプリではなくAndroidアプリになる予定だという。

『Pittaa』は、ユーザーにとって重要度の高いツイートを自動抽出してくれるTwitterクライアントだし、同時並行で開発され『Pittaa』に先駆けリリースされた『Dig App』は、過去の人気ランキングからアプリを検索、発掘できるツールだった。

いずれも「ちょっとした不便」を解消し、ユーザーに利便性を提供するアプリだが、次回作はもっと幅広い層に必要とされる、必携アプリになるという。テーマは「タスクキラー」だ。

「これからスマーフォンは、ITに詳しい人だけのものではなくなります。これから増えていく一般的なユーザーにとって必要かつ使いやすいアプリを提供したいと考えています」(渋谷氏)

現在、リリース前の詰め作業真っ最中のこのアプリは、先述の通りAndroid版のみでのリリースにするという。その狙いは何なのか?

つくばでの起業は、開発に集中できる環境で成長するため

FULLERの「職場兼住居」の中の様子。あえて郊外の一軒家での共同生活を選んだ理由とは?

FULLERの「職場兼住居」の中の様子。あえて郊外の一軒家での共同生活を選んだ理由とは?

東京から約1時間。つくば市の住宅地の中に建つ一軒家を本拠地とするFULLERの社屋は、外見を見ただけではスタートアップ企業が入居しているとはとうてい思えない家庭的な佇まいだ。間取りは広めの4LDKで、複数台止められる駐車スペースと屋内ガレージ、屋根裏部屋もある。

「東京で同じ広さの一軒家を借りようと思ったら、そのコストは今の何倍もの金額になってしまいます。僕らはそうしたマンスリーでかかる固定費を抑えて、できるだけエンジニアの成長にかかわることにお金を使いたいと考えました。また、東京から少し離れることで、静かな環境で開発に集中でできるというメリットも大きいですね」(渋谷氏)

ここにに住み込み、文字通り「職住一体」を実現している社員は4名。残りの5名のうち3名が別の場所で共同生活し、一人暮らしをしているのはたった2名だけだという。東京のスタートアップにはなかなか見られないスタイルだ。

「もちろん、生活コストを抑える意味もありますが、各都道府県にある高専にはたいてい寮があって、9名いる社員のうち半数以上は15歳から5年間寮生活を経験しています。それに、夜であろうが休日であろうが、自然発生的に社内ハッカソンが開催されるくらい開発好きなメンバーばかりなので、こういう環境の方が僕らには便利だし自然なことだったんです」(渋谷氏)

つくばエクスプレスが開通以来、東京へのアクセスは格段に改善した。東京には用がある時だけ行けばいい。この割り切りが、つくばでの開発を実り豊かなものにしている。

スマホの消費電力を軽減させるアプリに勝機を見いだす

起業から約半年。今年に入ってからFULLERは大きな転機を迎えようとしている。前段で説明したように、iPhoneアプリ開発からAndroidアプリ開発へと軸足を移すことにしたからだ。

「きっかけは今年の春、スペインのバルセロナで開催された通信業界の祭典『Mobile World Congress 2012』を訪れたことでした。このイベントを通じて、Androidアプリ市場の成長性と将来性を確信したからです」(渋谷氏)

話し合いの末、彼らが次なるターゲットに定めたのが、「Androidユーザーにとって最大の課題解決」(渋谷氏)、つまり電力消費量の多さを解消することだった。

そして、彼らは不要なプロセスを終了させたり、使用頻度の低いアプリをアンインストールする「タスクキラー」の開発に乗り出す。しかし完成まであと少しといった段階で、大幅な見直しが行われたという。中でも一番大きかったのはインターフェイスの変更だった。

開発中のアプリUIに込めた思いを語る、CTOの藤原氏。テーマは「難しいものを簡単に」だ

開発中のアプリUIに込めた思いを語る、CTOの藤原氏。テーマは「難しいものを簡単に」だ

「アプリ内ではけっこう高度な処理をしているので、”顔つき”もそれに応じたものになっていたのですが、そもそもユーザーにはそんなこと関係ないってことに気が付いたんです。難しそうな技術はなるべく見せないようにして、ITをよく知らない人も楽しんで使ってもらえる方が良いだろうと考え直し、デザインを変更しました」(CTO・藤原敬弘氏)

最終的に、アプリ内で「タスクキラー」や「アプリケーションマネージャー」といった堅い表現はなるべく避けたり、消費電力が大きいプロセスを止めたり利用頻度の低いアプリの削除を実行すると、メタボ気味の「おじさん」キャラクターが徐々に痩せていくというユーモラスなアプローチを採用。そうすることで、より一層親しみやすさを強調することにした。

また、日常的に繰り返して使用することが結果的にユーザーの使いやすさにもつながるため、10回に1度の頻度でキャラクターのオリジナルスタンプがもらえ、それをアルバムに貯められる機能も付加する予定だという。

このタスクキラーアプリは今年8月中にリリースされる予定で、現在リリースに向けた最終段階に入っている。

高専出身者ならではの強みがAndroidアプリの開発で活きた

収益モデルは今のところまだ未定だが、アプリのレコメンドや広告、キャラクタービジネスへの展開も視野に検討を進めつつ、バックグラウンドとなる技術開発にも余念がない。しかし、開発に際してはiPhoneアプリでは経験しなかった苦労もあると話す。

「Androidは機種も多く、テスト環境をそろえるだけでも一苦労。それに、アプリごとに電力をどのくらい消費しているかを知りたければ、Googleが用意したAPIに頼らずOSから直接データを集めなければなりません。将来の収益のカギになる可能性が高いアプリのレコメンド機能を実装するには、サーバ側に優れたレコメンドエンジンを用意する必要もあります。カワイイ見た目の裏側には、相当テクニカルな仕掛けが必要なんです」(藤原氏)

だが、彼らには一般的なアプリベンダーにはない強みもあるのも確か。メンバーのほとんどが高専在学中にハード、ソフトの両面において基礎教育を徹底的に叩き込まれているからだ。

「もちろん、ハードのことをよくを知らなくてもアプリ開発は可能です。ですが技術全般を体系的に理解している人間にしかできないこともあると思うんです。今回のタスクキラーもハードに関する知識がないとなかなかうまく実現できなかったもの。それができることが、僕ら高専出身エンジニアの強みなんだと思います」(藤原氏)

寝食を共にしながら開発に日々没頭するFULLERの面々。社名に採用された「FULLER」とは、60個の炭素によって構成され、非常に強固で安定した構造を持つフラーレンに由来する。

「フラーレンは強固で水に溶けにくい一方、化学物質と反応を起こしやすいという性質を併せ持っています。これが仲間同士が強いつながりながら、仕事を通じてさまざまな方々と新しいものづくりに取り組みたいという僕らの思いと重なりました。それで、社名に託すことにしたんです」(渋谷氏)

FULLERがAndoroid開発の世界でフラーレンのような強固にして柔軟な存在感を発揮できるか。その真価がもうすぐ問われようとしている。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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