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情シスが「エンタープライズITの第3局」を生き残る3原則-カギはデジタル戦略にあり

タグ : CDO, CIO, SE, エンタープライズ, ガートナー, デジタル, 情報システム 公開

 

時代の変わり目だというのを分かりやすく説明するために、あえてこう記す。

2000年代、CIOや情報システム部門のエンジニア、または彼らをサポートするSIerやITベンダーがよく使っていた「攻めのIT」というフレーズは、耳障りのいい嘘だった。

この時期、ITシステムが企業の情報化と経営資源の最適化を推し進めるインフラへと進化したのは疑いようのない事実だ。しかしここに来て、エンタープライズITは新たな局面を迎えている。

コンシューマー市場におけるスマートデバイスの普及や、アプリ・SNS・クラウドといった各種デジタルサービスの定着などを背景に、真の意味での「攻めのIT」=顧客とつながり、売りにつながるシステムを構築することが本格的に問われ始めたのだ。

IT分野の調査・アドバイザリー大手の米ガートナーで、リサーチ部門のバイスプレジデントを務めるデーブ・アロン氏は、今年10月の『Gartner Symposium/ITxpo 2013』で「これからエンタープライズITの第3フェーズが始まる」と説明した。

ガートナー ジャパンのリサーチ部門・日本統括バイスプレジデント山野井 聡氏

ガートナー ジャパンの山野井聡氏は、アロン氏の発言を次のように補足する。

「企業にとって、第1フェーズのITシステムは大型汎用機で大量データを一括処理するためのものであり、第2フェーズはSIS(戦略的情報システム)やERP(経営資源計画)パッケージによる情報の可視化と業務効率化が主な目的でした。ここまでは、経営基盤・サービス基盤を支える『内向きのIT』だったといえます。しかし、デーブの言う第3フェーズでは、ビジネスに直結するようなデジタル戦略を実行する『外向きのIT』が求めらるようになっているのです」

具体的には、B2Cで主流となっている各種サービスを取り入れながら、クラウド・センシング・画像解析・AR(拡張現実)etc.といったテクノロジーを駆使して、顧客を喜ばせるITを構築することが重要になっているという。それで得たビッグデータを分析しながら、さらに顧客とのつながりを深めていくのだ。

こうした指摘は、読者の方にとっては見飽きた内容かもしれない。だが、企業のデジタライゼーションを推し進めるため次に考えるべきは、企業内で誰が推進役を担うのか? という点である。

欧米で増える「CDO」に見る、ユーザーがITリーダーになる潮流

米スターバックスなどで起きている「デジタル戦略」の変化とは?

デジタル戦略はITの活用を前提としている以上、これまでと同様にCIO(最高情報責任者)や情報システム部門のエンジニアが適任かと思いきや、実際はそうなっていないケースも多いと山野井氏は指摘する。

「今は技術的なバックグラウンドを持たない人たち、例えばマーケティング部門の担当者でも、クラウドサービスと市販のアプリケーションを駆使すれば簡易なシステムを作ることができます。ユーザーとして、スマートフォンやWebサービスで日常的に高度なテクノロジーに触れている人が多いからです」

営業や広告宣伝、マーケティングなど、顧客と直接触れ合う機会の多い部門の人たちでも「Good EnoughなIT」(山野井氏)を作ることが可能になった今、エンタープライズITの第3フェーズを支える人材も、これらの分野から出てくるのは当然の流れといえる。

すでに欧米の先進企業では、この予想を裏付けるような動きも出ているようだ。その一例が、「CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)」という新しい役職の台頭である。

CDOとは、自社のビジネスや顧客を熟知した上で、競争力を高めるためのデジタル戦略を企画・遂行するのが主なミッション。ガートナーが全世界約400社のCEOに行った調査では、およそ19%の企業が、CDOもしくはそれに類する役割を担う人材を登用しているという。

米スターバックスや家電量販店の米ベストバイなど、特にB2Cやeコマースの企業でCDOのポジションを設けるところが増えており、中にはマーケティングリーダーや各ビジネスユニット長など非IT部門の人間にCDOの役割を任せる企業もある。

海外のある消費財メーカーでは、こうした人材の活用によって、「オムツに小さなセンサを入れ込み、取り替え時期をTwitterで親に知らせる」というユニークなデジタル戦略が生み出されたりもしているそうだ。

こうした潮流を受けて、ガートナーでは2015年末までに世界の企業の25%がCDOのポジションを設けるという予測を立てている。

「最近は公共機関でもCDOを置くところが増えています。特に米のニューヨーク市は、27歳の元ネット起業家の女性をCDOに任命して話題になりました。これは、デジタル戦略の企画・遂行には年齢も技術力も無関係だという証拠。一ユーザーとしてデジタルサービスやデバイスを使いこなし、その体験から新たなアイデアを生み出す能力が大切なのです」

CIOや情シス社員が第3フェーズのデジタル戦略を担うには

こうして、エンジニア以外の人たちが「第3フェーズ」で最も重要なデジタル戦略を主導するようになれば、企業のシステムを一手に担ってきたCIOや情報システム部門の人たちは、今までと違った働きが求められるようになるだろう。

山野井氏も、「CDOの台頭は、中長期で見るとCIOや情報システム部門の仕事を変えていくきっかけになるはず」と語る。

以下の図は、ガートナーが予想する「CDOとCIOの関係図」だ。これを見ると、CDOのポジションは2010年代後半にかけて急激に減っている。

出典:ガートナー ジャパン

同社がこのような予測を出しているのは、いずれCIOの役割が【a】戦略・利益追求型と【b】バックオフィス型の2つに分かれ、【a】にあたる人材がCDOの役割も兼務するようになると見ているから。

逆に、エンタープライズITの第1~2フェーズで一般的だった【b】のバックオフィス型CIOは、社内における影響力が限りなくゼロに近づいていくという見立てになっている。

「正直に申し上げると、これまで『内向きなIT』しか構築・運用してこなかったCIOが、すぐに戦略・利益追求型に転身するのは難しいでしょう。それは情報システム部門のエンジニアも同じです。【b】タイプの役割から、エンドユーザー向けのデジタル戦略を企画・遂行できる【a】タイプの人になるために、今から仕事の進め方を変えていくのが大切だと思います」

そのやり方として、山野井氏が勧めるのは以下の3つだ。

(1)自社の「最終顧客」と対話する機会を増やす
(2)最新のB2Cサービス使い倒し、“主婦の発明”を目指す
(3)マーケティングや営業との「混成チーム」を組閣する

(1)については、積極的に営業同行を行ったり、ユーザーヒアリングの場に参加することで、デジタル戦略を企画する上で最も大切な「顧客の立場」、「ユーザーの立場」を知ることから始めてみよう、というアドバイス。

(2)は業務システムの常識にとらわれず、日常の不平不満からアイデア商品を生み出す主婦のように「どうすればもっと便利になるのか?」、「何があればうれしいのか?」を考えることにつながる。

そして(3)は、永遠の課題といえる「システム部門と非IT部門とのコミュニケーションギャップ」を解消する取り組みとして、手っ取り早い施策となるだろう。(1)のようなフロント業務が苦手というエンジニアには、このやり方が得策かもしれない。

ITシステムを作るだけの人から、テクノロジーと顧客をつなぐ優れたカスタマー・エクスペリエンスの担い手になる道は、身近なところから伸びているのだ。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)