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2014年、B2B開発のルネッサンスが起こる5つの理由【Geek Shift:萩本順三×佐藤治夫×倉貫義人】

公開

 

第1部第2部とダイジェストで紹介してきた、弊誌主催のトークイベント『Geek Shift』もいよいよ第3部。本イベント最終章のテーマは「B2B開発の今後」についてだ。

パネルディスカッションには、豆蔵や匠BusinessPlaceの創業者で、現在は要求開発を発展させた「匠Method」を考案・実践している萩本順三氏と、Python開発で知られるビープラウドの佐藤治夫氏、TISの社内ベンチャーを経て起業したソニックガーデンで「納品のない受託開発」を展開している倉貫義人氏の3名が参加。

各々の視点で、B2B開発の未来について語ってもらった。

パネラー

株式会社匠BusinessPlace 代表取締役社長 元内閣官房GPMO補佐官
萩本順三氏

2000年にオブジェクト指向技術の企業、豆蔵を立ち上げ、以降ITアーキテクト、メソドロジストとして活躍してきた大ベテラン。2009年7月、匠BusinessPlaceを設立。現在は、ビジネスとITの可視化を行うための要求開発をさらに洗練・拡張させた手法「匠Method」を開発。自らユーザー企業で実践している

パネラー

株式会社ビープラウド 代表取締役社長
佐藤治夫氏

1997年、住商情報システムに入社。携帯電話会社のシステム運用支援や財務システム開発に従事。その後、2003年にフリーエンジニアとして独立し、楽天などいくつかの大規模Webサイトの開発リーダーを務める。2006年にビープラウドを設立し、Pythonによる開発で知られるように。主催するWeb系技術討論の会『BPStudy』も有名

パネラー

株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 CEO
倉貫義人氏

大学院を修了後、東洋情報システム(現・TIS)に入社。同社の基盤技術センターの立ち上げや、社内SNSの開発と社内展開、オープンソース化などに携わる。2009年、社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げ、2011年にMBOを行ってソニックガーデンを創業。クラウド&アジャイル環境を駆使した「納品のない受託開発」を展開し、業界の内外から注目を集める

スマートデバイスの発展やSNSの普及など、近年はB2C分野で目立っていたイノベーションが、現在のB2B開発にどのような影響をおよぼしているのか。また、クラウドサービスの汎用化に代表されるテクノロジー基盤の変化に、エンジニアはどう適応していくべきかも議論してもらった。

さっそく3人の話に耳を傾けてみよう。

要件定義についての考え方自体が、大きく変わり始めている

各々の経験から、昨今のB2B開発のトレンドを話す3人

【トークテーマ1】
受託開発/B2B開発の現在地~案件内容やプロジェクトの進め方に変化はあるか?

―― まずはこのテーマから。皆さんの会社では、クライアントからの要望や受注にどんな変化が見られますか?

倉貫 昨年から増えているのは、新規事業のお客さまです。ご依頼主は、立ち上がったばかりのベンチャーもあれば、大企業の新規事業チームまでとさまざま。そのうち8割、9割は、インターネットを使った新サービスを開発するパートナーになってほしいというご依頼ですね。

―― 依頼主には、傾向のようなものってありますか?

倉貫 一つは、組織内にエンジニアがいない企業がほとんどだということ。もう一つは、要件定義の難しい案件が多いことです。

倉貫氏は、ネットベースの新規事業の受託開発は「従来のウォーターフォール型では難しい」と話す

―― 要件定義が難しい開発とは?

倉貫 ネットを介して不特定多数のユーザーを相手にするビジネスの場合、ローンチしたからといってユーザーが使ってくれる保証はどこにもありません。それゆえ、システムとして事前に何が必要かが100%は分からず、要件定義が難しいんです。

―― 業務システムの受託とは、最も異なる部分ですね。

倉貫 ええ。ふわっとした要件定義の状態で開発をスタートさせて、その後ユーザーの反応を見ながらチューニングしていく。そういったニーズに対して、僕たちの「納品のない受託開発」、つまり月額・定額で開発を引き受けるサービスがハマるのだと思います。

―― 具体的にはどんな事例がありますか?

倉貫 お話しした文脈に最も近い事例としては、地域の寄合子育てコミュニティ『AsMama(アズママ)』さんの新規サービス開発があります。これはベビーシッターのクラウドソーシングのようなサービスで、『AsMama』さんを介して信頼できる一般の登録者と依頼者をネットマッチングするサービスです。立ち上げ当初は社内にエンジニアがおらず、人手を介してマッチングを行っていたそうです。しかし、受注件数の増加に応えるため、システム化の判断をされたんです。

―― この案件でも、先ほど挙げていただいたような要件定義の難しさがあったんですね?

倉貫 当社に依頼がある前に、いろんなシステム会社にヒアリングをされたそうですが、あるSIerには「要件定義だけで1000万円かかる」と言われたらしく。それで依頼をあきらめ、エンジニアの自社採用も考慮していた時、当社を見つけてくださったそうです。

萩本 要件定義で1000万円というのは、単にエンジニアを拘束するのに要する金額ですよね?

倉貫 おそらくそうでしょうね。

萩本 SI産業が今考えなければならないのは、それが果たして本当に提供するべきバリューなのかということですよ。お客さまが必要とする「要望」を本気で探っていこうと思ったら、ソニックガーデンさんみたいな発想になって然るべきなのに、実態はまだまだそうなっていない。

長年言われ続けている「人月ビジネスの課題」について、改めて指摘する萩本氏

―― 変わるべきはSI産業の方だと?

萩本 わたしはそう思っています。本当の意味でシステムの価値を提供する前に、SESで人月分の料金をいただくスタイルには、やはりいろいろと問題がある。だから今、わたしはIT企業や情報システム部門の方々と一緒に、要求開発を実践しているのです。

―― 萩本さんが提唱されている「匠Method」では、ITの分かる人間がビジネス企画から携わることを前提にモデリングされていますが、IT企業や情シスの“中の人”たちと匠Methodを実践していくと、どんな変化が表れますか?

萩本 それまで、お客さまに「要求をくれないと作れない」と言っていたエンジニアと、何を「要求」として出せばいいのか分からないお客さまとの間の壁が解消されます。すると、IT企業側が、ビジネス戦略やビジネスの価値について堂々と話せるようになるのです。また、現場で働くエンジニアの目も輝いてくる。どんなバリューを生むか分からないシステム開発に何千万円もかけるのは、作る側の人間にとっても苦痛なんだと思いますよ。

ネットワークを駆使することで開発フローも進化

佐藤氏が代表を務めるビープラウドは、Web系技術討論の会『BPStudy』の運営でも知られる

―― なるほど。続いてビープラウドの佐藤さんにもお伺いしたいのですが、お客さまから寄せられるニーズの変化をどのように感じていますか?

佐藤 当社もソニックガーデンさんに近いというか、ECシステムの構築だったり、電子書籍のコンテンツ管理システムだったりと、われわれが開発したシステムがお客さまのビジネス基盤となるような案件が多いです。だから、組み方としては完全にビジネスパートナーという位置付けになります。

―― つまり、「システム納品→運用」という形ではなく、「継続して開発を続ける」スタイル多いと?

佐藤 そうですね。

―― SI業界では、かなり昔から「お客さまのビジネスパートナーとして~」というフレーズが使われていますよね? ビープラウドが言う「ビジネスパートナー」とは、どう違うのでしょう?

佐藤 「これを作ってくれ」と言われたから作るのではなくて、お客さまの事業ドメインやビジネスゴールをしっかり把握し、企画段階から提案しながら進めるということではないでしょうか。さきほど萩本さんが話していたように。

―― なるほど。

佐藤 僕らはITの専門家として、開発の進め方や運営・改善フローまで「成果に結び付ける仕組みづくり」を一貫して請け負うわけです。

萩本 今後は、佐藤さんのおっしゃる「ITの専門家」の仕事が、もっと幅広いものになっていくでしょうね。

―― どう幅広くなると?

萩本 多くのエンジニアは、プロジェクトベースで仕事に取り組み、プロセスにも精通していてモデリングもできる。こうした経験は、システム開発より上流にある「ビジネス開発」にも応用できるものなんです。それができるエンジニアがもっと増えれば、顧客企業や経営陣ががわれわれに寄せる要望も、だんだん事業企画寄りにシフトしていくと思います。