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東京駅からダイオウイカまで。プロジェクションマッピングの旗手が語る「体感型コンテンツの未来」

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はじまりは2011年、ほんの2年前のことだった。東京・成蹊学園の創立100周年記念事業。同学園本館校舎に突如投映されたプロジェクションマッピングが式典に集まった人々の度肝を抜いた。

建物が時計となって巨大な歯車がカチカチを時を刻むなど、3DCGをはじめとする映像技術活用の手法は、当時の日本では画期的なアプローチだったのだ。

そして1年後の2012年秋、東京駅の保存・復元工事完成を祝う夜に、多くの人が「プロジェクションマッピング」という名前を知るに至った。時を超えてよみがえった美しい煉瓦造りの駅舎に投影された幻想的な映像の数々が、TVなどの報道機関を通じて全国に知らされていった。

2013年夏にはダイオウイカの巨大模型をスクリーンにした「4D」プロジェクションマッピングも話題になったばかり。これらの試みをプロデューサー兼総合演出として一貫して手掛けてきたのが、NHKエンタープライズの森内大輔氏だ。

TVやPCという家庭内映像メディアの枠を飛び出して、野外に先端映像技術を持ち込んだプロジェクションマッピング。その日本における仕掛け人・森内氏に未来へ向けた可能性について話を聞いた。

技術の進化によって可能になった「日常を劇場へ」

これほど名前が一般化してきたというのに、Wikipediaを検索してもいまだ詳しい情報に出合えないプロジェクションマッピング(2013年8月9日現在)。そもそも起源はどこにあったのか。

NHKエンタープライズ森内大輔氏

「すごいのは一緒に作っているクリエイターやエンジニアであって、わたしはただのまとめ役」と森内氏

「ヨーロッパではライトアップの技術も進んでいて、観光名所や歴史的建造物などに映像を投影して形の美しさや物語を楽しむ手法は『スペクタクル』という呼び名で浸透しています。このライトアップに、進化したデジタル映像技術の導入が重なり、現代のプロジェクションマッピングに結び付いているんだと思います」

ライトアップがスライドの静止画投映に発展し、そこに動画や3DCGも用いられるようになっていった、ということのようだ。ではなぜNHKグループの一翼を担う制作会社が、プロジェクションマッピングにこれほど積極的に取り組むようになったのだろう。

「確かにわたしたちの軸足はTVでの映像制作にあります。けれども、そういう意味で言えば番組の映像演出の観点からさまざまな技術に取り組んできた経緯があるんです」

森内氏は、2008年と2009年の『NHK紅白歌合戦』でステージデザインを担当している。この年、紅白の舞台セットにはオーロラのような形状の巨大LEDスクリーンが据えられた。アーティストの楽曲のイメージや映像によって、ステージ全体を映像で包み込むのが目的だ。

「大げさな言い方かもしれませんが、『空間を映像装置化する』という試みは番組制作においても以前からやっていました。そういった流れから、2012年5月には東京スカイツリーでのプロジェクションマッピングを実施しました。これは、NHKで放送された特集番組の企画です。さらに、2012年の『NHK紅白歌合戦』のステージでも、リアルタイムARシステムを用いた放送画面への合成を行いました」

このようなNHKエンタープライズの取り組みは、プロジェクト『劇的』という呼称で行われている。「日常を劇場へ」をコンセプトにしたもので、これまで紹介してきた一連の試みも、この『劇的』から生まれた。

従来のTV番組制作と違って、その都度フォーマットや利用する技術も変わる。プロデューサーの森内氏は、案件ごとにふさわしい「精通者」をキャスティングし、とりまとめていく役割を担っているわけだ。

「この数年で、映像にかかわる通信技術や機器は大きく進化しました。とりわけ受像器となるデバイスは多様化を極めていますよね? TVだけでなく、PC、ケータイ、スマホ、タブレットなどでも視聴できる。『映像を楽しむ』という娯楽がパーソナルになって機会が広がったのは良いことなんですが、かつての映画や街頭TVのように、多くの人が1つの場所に集まって、そこに映し出される映像と、語られる感動を共有する喜びは薄れ、喪失され始めているのではないかと思います。その中で、プロジェクションマッピングのような技術に出合い、この喪失を埋める力がある、と感じました」

「観る映像」から「体験する映像」への進化

さらに森内氏は、プロジェクションマッピングの魅力は「観る映像」にとどまらず、「体験する映像」なのだと続ける。

「もとは平面的なスライドを観光名所などに投影していたものが、CGの活用で立体的になり、3Dプロジェクションマッピングと呼ばれるようになりました。かつての平面的に観るだけだった映像は、プロジェクターの輝度の向上や、映像の制御技術の進化など、多方面の技術革新によってこれまでにない体験をもたらしていると考えています」

ここで森内氏は『劇的』独自のこだわりを口にした。それは「技術の進化による未来」とは少し異なる内容だった。

「プロジェクションマッピングについては、わたしたち以外にも先進的な試みをしているクリエイターや事業者が複数あります。技術に突出した会社もあれば、メディアアートとしてのこだわりを持って取り組んでいる集団もある。彼らから話を聞くと非常に勉強になり、その熱意には敬意を持っています。しかし、放送を始点に動き出した僕らが目指すのは、やっぱり”娯楽としてのコンテンツの未来”なんです」

「アートじゃなくて、大衆芸能かな」。そう言って笑う森内氏。だが、そこには「感動を喚起するためならば、何でも取り入れてしまえ」というバイタリティを感じる。

同じ「作る人」の集団でも、これほど畑違いの人々が集まるプロジェクトはそうそうない。価値観も文化も、時には使う用語(例えば「尺」、「cm」、「px」の単位など)さえも異なる人たちをまとめていくプロデューサー。当然、苦労は毎回あるが、「才能との出会いが楽しい」と話す。

ダイオウイカの4Dプロジェクションマッピング動画

目の動きまでリアルに再現されたダイオウイカ ※クリックで動画に飛びます(一部モバイルでは表示されない可能性もございます)

例えば、ダイオウイカの4Dプロジェクションマッピングのプロジェクトには、映像をデザインした作家、ソフトウエアの開発を担ったプログラマー、気象データのプロ、そしてモノとしてのイカの模型を作り上げ、組み立てた人もいた。

イベント当日には「たくさんの人が集まり、作ったものを囲んで皆さんの歓声が上がることにやりがいを感じる」。そう言って森内氏は微笑む。

超高精細映像やビッグデータを取り入れた新たなコンテンツ開発に

最近は、ITの世界だけでなくさまざまな世界に、オープンソースを通じてコワーキングする価値観が浸透し始めている。

異なる分野のクリエイターが集まれば、各界の人気者ほど「一緒に誰も見たことのないものを作ろう」という目標を共有できる。それが本当にうれしいし、ありがたいと森内氏は続ける。

「子どもたちにモノづくりの楽しさに関心を持ってもらう一つの手法としてプロジェクションマッピングが使われるかも知れません」。NHKエンタープライズでは『劇的』プロジェクトによるノウハウの蓄積と並行して、例えばワークショップを通じ、子どもたちや学生と一緒に作品を生むことも考えているという。

「演出と技術を複合的に組み合わせて空間を映像装置化していくことで、リアル体験による感動を共有する機会が増えています。今後は、超高精細映像やビッグデータを取り入れた新たな開発にも挑み、独自性のあるコンテンツが世代や国境を越えて多くの方々へ届くことを目指しています」

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取材・文/森川直樹 撮影/伊藤健吾(編集部)