エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

日本語・英語、そして「技術語」がやがて日本の公用語になる〜GMOが独自の研修制度で築くITの未来

公開

 

1991年創業、95年にインターネット事業を開始し、2005年に東証一部上場を果たしたGMOインターネット。GMOインターネットグループはネットインフラをはじめ、ネット広告やメディア、ネット証券など多角的な事業展開を進め、現在、国内有数のIT企業となっている。

同グループ各社のビジネスを支えているのがエンジニアリング力=個々のエンジニアが有する技術力と、その技術力を最大限に発揮するための環境づくりだ。

エンジニア1人1人の技術力、スキルを高め、チームやグループ各社で多彩なサービスを立ち上げ、スピーディに事業を展開していくために同社では従来から社内各部署でIT勉強会を実施していたことはよく知られている。

GMOテクノロジーブートキャンプはGMOがグループを横断して行う新入社員研修制度

GMOテクノロジーブートキャンプはGMOがグループを横断して行う新入社員研修制度

2014年4月、同グループは新卒採用したエンジニア、クリエイターを対象に研修プログラム『GMOテクノロジーブートキャンプ』を開始した。カリキュラムは全10項目で6月中旬までの約2か月半、毎週1回の講義や演習のほか最終ステップとして「アウトプット合宿」を行い、チームごとに新しいWebサービスを企画立案して開発するまで行われた。

聞けば、この『GMOテクノロジーブートキャンプ』、同社設立後、全社を挙げた最大規模の新入社員向け研修だという。

この試みの企画段階からカリキュラムづくりにも携わり、同グループの人材開発を担う立場にある専務取締役の西山裕之氏と、同じくカリキュラムづくりを手掛け、自らも講師を務める稲守貴久氏に、その目的と期待する成果について聞いた。

目的は全スタッフの約4割を占めるエンジニアのスキルアップ

(写真左から)『GMOテクノロジーブートキャンプ』のカリキュラムづくりに携わった稲守貴久氏、同社専務取締役の西山裕之氏

(左から)『GMOテクノロジーブートキャンプ』のカリキュラムづくりに携わった稲守貴久氏、同社専務取締役の西山裕之氏

「理由の1つは、グループの規模が大きくなってきて、新入社員として入社したエンジニアやクリエイターは配属された会社や部署での業務を通してしか技術やスキルを学ぶ機会がなくなっていたことですね。うちにはネットインフラから、セキュリティ、決済、証券、ゲームまで、グループ内にあらゆる専門技術があり、エンジニアにとっては非常に魅力的な環境なんですが、これまではそのメリットを活かしきれていませんでした。そのメリットを新入社員エンジニアやクリエイターに体感してもらいたいと考え作ったのが今回のGMOテクノロジーブートキャンプです」(西山氏)

また、新入社員のキャリアビジョンを磨く目的もあると、西山氏は続ける。

「入社時には、具体的にやりたい分野や領域を持っていないという新入社員もいます。彼らに、まずはGMOインターネットグループが展開している事業に必要な知識や技術について知ってもらって、将来、どの分野でキャリアアップを図っていきたいかを考えてもらうきっかけにしてもらいたいという目的もあります」

GMOといえば、かつては営業会社の印象が強かった。しかし、今では社内の構成も変化し、同グループ全スタッフのうち約40%をエンジニア・クリエイターが占めるようになっている。

そのため、10項目に上る分野(領域)と同社でもトップクラスのスキルを有するエンジニアが講師を務め、カリキュラムは“広く浅く”基礎を学べる内容にとどまらず、サーバーの設計・構築からサービスの企画立案や制作なども深掘りしている。

DNS、セキュリティ、Webサービスなど、GMOのグループ理解に必要な10項目が並ぶ

DNS、セキュリティ、Webサービスなど、実践的な内容を学び、アウトプットキャンプで形にするという流れだ

「新入社員のエンジニア、クリエイターといっても大学院卒で専門分野があるメンバーから、プログラミングの経験ゼロという人まで技術面の知識やスキルのレベルにはかなり差があります。カリキュラムづくりでは内容の基準、ハードルの高さをどこに合わせるかもかなり議論になったのですが、当社のエンジニア、クリエイターとして活躍してもらうために最低限、知っておいてほしいレベルを基準にしました」(稲守氏)

結果、入社2~3年目の若手スタッフや特定の分野を学びたいというスタッフも参加し、約30人が参加する講義があったほど好評だったという。

幅広い研修内容が可能にする、グループ企業への業務理解

カリキュラムの策定には約半年を要したというが、当初は60~70講座が挙げられ、それを10項目にまで絞り込んでいったという。

その過程について、稲守氏は次のように話す。

「一番配慮したのは実践的な内容にすることでした。つまり、今まさに当社のビジネスや事業で直面している課題や、将来必ず必要になる分野や要素技術について学べる内容にしたことです。それに講師を務めるスタッフも新入社員と一緒になって取り組むことで、スタッフ自身も新たな発見を学べる機会になりました。それをグループ各社、各部署、各チームにフィードバックしていくことで、グループ全体のマインドアップにもつながると考えました」

課題に取り組む受講生たち。その表情は真剣そのもの。

課題に取り組む受講生たち。その表情は真剣そのもの

取材当日は、このカリキュラムのうち「UI/UXD」の講義が行われていた。そこで参加者の1人で、学生時代はインフラ分野を専門に学んできたというGMOインターネットの新入社員・的場侑也氏に、このカリキュラムを実際に体験した感想を聞いた。

「このテクノロジーブートキャンプでDNSの基礎から学んできてみて、自分の専門分野についてはよく理解していてもプログラミングやUI/UXDといったサービスを創り出す分野についての知識が弱かったので、授業もかなり難しかったです。ただこのプログラムに参加してみて、入社後は自分の専門分野だけではなくて、自分がやっている業務が会社やグループにとってどんな意味や意義があるのかまでを考えられるので、より幅広い視野で日々の仕事に取り組めそうです」(的場氏)

また、的場氏はともに参加している同期のスタッフや講師を務める先輩エンジニアとの交流もキャリアの幅を広げるのに役立ちそうだとも話す。

「グループの規模が大きくて、配属された後は、きっと同期でもなかなかコミュニケーションを取る機会がないと思うんです。でも、このプログラムに参加したことで、どんな人たちと一緒にキャリアをスタートしたのかが分かりましたし、講師の先輩たちからも『疑問や質問があったらいつでも連絡して』と言ってもらえたので、グループは大きくても一緒にビジネスの拡大に貢献していけるという意識が高まりました」

取材時、プログラムは最終段階。4人ごとに分かれた3つのチームがそれぞれ、「社食のオンライン化」や「着ていく服をセレクトしてくれるスマホアプリづくり」、「タイピングが学べるゲームづくり」といったアイデアを形にするためのディスカッションを行っているところだった。

社外への応用で日本のIT業界の未来を作る

参加者はもちろん、稲守氏をはじめとする講師陣にも確かな手応えがあったというGMOテクノロジーブートキャンプ。この反応を受け、来年度も実施していく予定だ。

同社の代表取締役会長兼社長・グループ代表である熊谷正寿氏は、楽天の三木谷浩史氏らとともに2012年から経済団体「新経済連盟」の理事に名を連ねているが、同連盟でもITリテラシーの向上やIT教育の重要性などについて問題提起や具体的な提言を行ってきた背景がある。

GMOテクノロジーブートキャンプの試みは、こうした課題への取り組みの1つでもあり、これを社外へも広げていこうという声は大きいという。

このプログラムを社外に広げることで技術を好きになるきっかけになれば、と話す西山氏

このプログラムを社外に広げることで技術を好きになるきっかけになれば、と話す西山氏

「特にネットビジネスの世界では、“英語が公用語”というのはすでに過去で、これからはプログラミング=言語をも公用語にしていかなきゃいけない段階だと思うんです。そのためにもGMOテクノロジーブートキャンプの内容は、若手スタッフだけではなくてより幅広い年齢層や立場の違う人たち、子どもたちにとっても有益なものだと思っています。まだ最初の1回目を実施したばかりですが、これがグループ全体に浸透していくことでさらに次のステップが見えてくると思います」(西山氏)

ITの将来展望には、リテラシー格差の解消や学校教育への導入など多くの課題もある。同社は自社のビジネスを進化・進展させていくだけでなく、日本最大手のIT企業としてこうした課題解決のための具体的な取り組みへも広く貢献していくことにもコミットしている。

今回、初めて実施された独自の教育・研修プログラムは、やがて同社のCSR活動の一環として根づいていく可能性を秘めている。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴